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25  新たな力

結局俺は廃工場で修行を開始した。


カエルに言われたからもあるが、思わぬ香織の気持ちを知ったからだ。


浮かれるよりも、誤解させていることに申し訳ないと思った。


俺は強くはない。


でも、俺のことを強いと信じている変な女がいるなら…俺は少しでもその期待に応えたいと思った。


あのカエルの話だと、香織の気持ちは焦馬が消える以前からのものとなる。


言われてみれば焦馬にはたまにしかヘッドロックをしないが、俺は週五日でされている。


それに、焦馬と二人だけで帰ることはしないが、俺とは時々していた。


いろいろと心当たりがある。


焦馬が一緒とは言え、テスト前勉強を毎回誘ってくるし、休みの日に近所で会えば雑談付き合わされてたし、やたら「そんなんじゃあ彼女作るなんて一生無理ねぇ」を言われてたし。


あれは香織なりのアピールだった…のかな?


てかそれって、小学生男子が好きな女子にちょっかいかけるのに似てるんだが…それでいいのか、美人女子高生。


それにしても…香織が俺のことを…好き…か。


冷静に考えてみる。


何だか妙に気恥ずかしくなってきた。


えっと…どうしよう。俺は香織のことをウザ絡みしてくるオラオラ女王様としてしか見ていなかったからなぁ。


何より…その…異性に好意を持たれるなんて重大事件にどう対処すればいいんだ?そこが問題だ。


明日、学校で顔をまともに見ることができるのか、俺。


いや、今はそこじゃない。


まずはその件は置いておこう。


あれは何だったんだ?


カエルがスローモーションになる現象。


いくつか仮説はあるのだが…ここで試して全滅した。


仮説その一。


俺の動体視力が極限に上がった。


ボクサーが相手のパンチが見えるように、野球選手がピッチャーの投げたボールの縫い目が見えるように、スピリットスキルで覚醒した身体能力の一つの可能性があった。


しかしそれは今試したが、真上に投げた複数の石はスローには見えなかった。


何度やっても同じ結果。


ゆえに違う。


仮説その二。


俺が光の速さで動けるようになった。


仮説その一が目であったのに対して、スピリットスキルの光のコントロールが全身でできるようになり、こちらが早すぎるために相手が遅く見えた、という可能性だ。


しかし、これも仮説その一と同じ真上に石を投げて避けてみるも回避能力はさほど変わらなかった。


仮説その三。


セロが俺を守った。


俺がカエルに殺されないために、何らかの守る力が発動した可能性。


これは実験できない。


わざと死ぬようなマネ、できるわけがないからなぁ。


以上、俺の仮説は全滅。


もう一つ突拍子もないことを思いついたが、それは無いと思った。


新しいスピリットスキルが覚醒した可能性。


これはありえない。


この前、風や炎のコントロールをもらった俺だが、あれはもらったからできるものであって、スピリットスキルは一人一つ、魂が一人一つってことだろうし。


でも、あの能力が上手く使えたら…強くなれる。


だからこそ身に付けたい。


身に付けたいんだけど…分からないんだよね、どうすればいいか。


「お前は何者なんだ?」


いきなりの質問が背後から聞こえた。


聞きなれた…聞くだけで少しイラつく声。


「あのな、俺はお前が知ってる通り普通の高校生だ。決して何か特別な者の生まれ変わりでも、どこかの星から飛ばされた戦闘民族でもないことは知ってるだろ?」


「そうじゃない」


振り向かない俺の前に声の主であるシエロが回り込んできた。


「あのカエルとの戦い、あの時見せた動きは…何なんだ?」


「おーおー、覗き見してたのかよ。悪趣味だな」


こういうとこだよ、コイツの嫌なところは。


ん?見ていた?


「なあ、お前の目にはどう見えていたんだ?」


「どう見えていた?どういうことだ?」


怪訝そうなシエロを無視して俺は質問を続ける。


「俺の動きはどう見えたんだ?」


質問の意図を理解したのか怪訝そうな顔から、思案する顔に変わった。


「カエルに攻撃されたお前が…いきなり消えてカエルの攻撃の軌道から外れたところにいきなり現れた。そう見えた」


これは貴重な意見だ。


これにより、カエルだけではなくシエロも同じように見えているということは二つの考え方ができる。


一つは周囲の空間そのものに影響を及ぼしている可能性。


カエルだけなら目の前の敵に対して効果のある何かをしているといえるが、シエロも同じように見えるとなるとシエロにも影響が及んだと考えられる。


もう一つは俺の身体強化だ。


動体視力ではない、光の速さで動くわけでもないが、俺の身体能力が上がり、カエルにもシエロにもそう見えた、という可能性だ。


これにより、セロがカエルにだけ何かをした説が消えたとも言える。


もしセロがカエルに何かしたのなら、シエロの目線からすれば「カエルが遅くなっていた」はずだ。


もう少し手掛かりが欲しいのだが…。


「話を戻すが、お前は何者なんだ?あれは光のコントロールではない…そう、別のスピリットスキルの可能性がある」


「別のスピリットスキル?心当たりでもあるのか?」


思わぬヒントの可能性。シエロが知っているのなら話が早い。


「…結論から言えばある。だが、そのスキルは…」


肝心なところで口ごもるシエロ。


こんな時にやめてくれ、続きはCMの後みたいな切り方は!


俺の熱い視線に気が付いたのかしぶしぶシエロは話し出した。


「存在するはずのスキル…だ」


頭が悪いからなのか?シエロの言っている意味が理解できない。


存在しないスキルなのにどうしてそのスキルだと思うんだ?


「存在するはずのない?存在しないなら、そのスキルじゃないってことだろ?何言ってるんだ?」


「そうなんだが…」


先程から歯切れが悪いシエロ。これはもう少し話を聞きだした方が良さそうだ。


「とりあえずどうしてそう思ったか説明してくれないか?」


答えを早く知りたくてストレートに聞いてみる。


しかし、シエロは押し黙ってしまった。少しは何か話すと期待していた分、ちょっとイラついてしまった。


「少しは何か教えてくれてもいいだろ!お前は俺のナビゲーターだろ!次の戦いに勝つために努力している俺に協力してくれてもいいじゃないか!」


「確証が持てないものを教えてもお前を惑わすだけになるかもしれない。だから迷っている」


「ヒントになるかもしれないだろ!俺は全く見当がつかないんだよ!頼むからさ!」


食い下がる。


今は何でもいいからヒントとなるものが欲しい!


そうしないと次の…空間をコントロールするような化け物に勝てない。


「随分必死だな。何かあったのか?」


何かあったのか、か。


あぁ、あったよ。


香織の思う強い俺に少しでも近づこうとしているからだよ。


俺は…単純なんだよ!


真剣な眼差しをシエロに向ける。


シエロは俺の眼差しに根負けしたのだろうか?俺に分かるように大きなため息をつき「わかった」と一言いうと少し間を開けて話し出した。


「バカげたことを言うようになるが…聞くか?」


「聞くよ。今は荒唐無稽でもヒントになりそうなくらいだからな」


「本当に荒唐無稽と言っても過言じゃないんだがな」


またもや間を開けるシエロ。焦らされて喜ぶタイプではないんだよ、俺は!


「時間のコントロールだ」


「時間…?」


言われてイメージがわかない。


時間ってあの…一分とか一秒とかの時間…だよな?その時間をコントロール?


「な、荒唐無稽だろ?」


まあ、でたらめ…というか無茶苦茶じゃないか?


「時間コントロールできたらやり直しもできるし、相手を止めたりもできるんじゃないか?そんなの無敵じゃないか?もしそんなことできたら神様じゃん」


「そうだ。それを使えるのはセロだけだ」


俺の言った冗談が…当たった。


そうか、そりゃありえないよな。


もし時間のコントロールなら俺はセロに肩を並べることに…神様になるってことだもんな。


「なあ、スピリットスキルってナビゲーター以外に同じものを使うヤツがいたりするのか?」


もし、唯一無二なら俺のあのスロー現象は時間コントロールではないと言える。


「いない…とは言い切れないか。現に俺とお前は同じ光を使っている。まあ、これは特殊な事例だ」


つまり、同じスピリットスキルを持つ者がいても不思議ではない、ということか。


そうなると、俺のこのスピリットスキルは時間のコントロール…なのか?


「ただ、時間のコントロールなんてもの、他の者が持つことをセロが許すとは思えない。何より…」


俺を凝視するシエロ。睨むと言うより不思議なものでも見るかのように目を丸くしている。


「お前は…そんなスピリットスキルではなく、別のスキルを持っているはずなんだが…」


「別のスピリットスキル?どんなスキルなんだ?」


「そ、それは…」


珍しく焦るシエロ。どうやら余計なことを口走ったようだ。


コイツ…俺のスピリットスキルを…いや、その前におかしくないか?


今受け継いだ魂は二つ。炎と風。それに俺の光。


それなのに…俺には別のスピリットスキルがある、と言うのか?


スピリットスキルは一人一つじゃないのか?


「シエロ、今俺はお前を信用していない。お前も…オーチェも…俺に対して秘密が多すぎる。信用できない相手がナビゲーターって務まるものなのか?」


こんなことを言っても秘密を話してくれないだろうし、もしかしたらセロの力によって話せないことかもしれない。


それでも、今の俺の気持ちは伝えておきたい。


少しでも気が晴れるなら…それでいい。


「本来、空間コントロールは…お前が使うことができるスピリットスキルだったんだ」


いきなりとんでもない発言に俺は思わず「は?」と間の抜けた上擦った声を出してしまった。


「…い、言えた!?」


勝手に驚いているシエロ。俺にはさっぱり理解できない。


「一体どういうことだ?」


「俺が空間コントロールを使えるはずだった」というのは、本来話せない内容だったようだが…どういうことだ?


もしかして…今なら色々聞ける…とか?


もしくは、その内容はセロから見れば今はもう重要ではないということなのか?


それよりもっと大事なことがある。シエロの発言は、ある可能性を秘めていた。


「なあ、…お前は俺の使えるスピリットスキルを知っていた…ってことになるんだけど…どういうことだよ?」


思わず息を呑む。


シエロの「本来、空間コントロールは…お前が使うことができるスピリットスキル『だったんだ』」という言葉。


何で俺が空間コントロールできるようになるのを知っているんだ?


いや、知っていたんだ?


オーチェに聞いた?


それなら「空間コントロールは…お前が使うことができるスピリットスキルと『聞いていたんだが』」となるはずだ。


言い間違い?


それも違う。


シエロは過去、そういう言い間違いをしていなかった。


頭の良さは俺も共に戦っているので分かる。


咄嗟にとはいえ、そんな言い間違いをするとは思えない。


自分の失言に気が付いたかのようにシエロは何も言わなかった。


「なあ、質問に答えてくれよ。どうしてお前は俺の習得するはずのスピリットスキルを知っているんだよ…」


俺の顔を見ないように顔を背けるシエロ。一体どんな表情をしているのだろうか?


「答えろよ!大事な事だろ!」


そんなシエロの態度に思わず苛立ち声を荒げてしまった。


そんな俺の声に驚くこともなくシエロは俺の方を向くことはなかった。


「そんなこと、どうでもいいだろ。お前は明後日の戦いに向けて修行してればいいんだ」


無理やりこちらを向かせようと手を伸ばし、途中で我に返る。


「明後日…その空間コントロールができる相手と…戦うことになるのか?」


聞き返すと「そうだ」と短い返事が返って来た。


その後、沈黙が流れた。


実際の時間は分からないが、体感では、十分以上にも感じられた。


「すまないとは思っている」


謝った。


あの生意気で上から目線のシエロが…謝った。


天地がひっくり返っても謝りそうにないシエロが…謝った。


「お前のナビゲーターとして俺は…もう…いや、前回の戦いから役に立たなくなってしまっている」


更に自分の無能を認めている。


本当に…シエロ…なんだよな?


「明後日の戦い、本当に役立たずになる可能性が高いと思う」


おいおいおい。シエロのヤツ…何かへこんでないか?


もしかして聞いちゃいけないことを聞いてしまったのか?


「お、おい、元気出せよ。誰でもミスはあるし、調子悪い時もあるって」


まるで同僚を居酒屋で励ますサラリーマンのようだ。経験は無いがマンガでこういうのは見たことある。


「調子悪い…か。それが理由ならどれほど喜ばしいことか…」


理由は別なのか?


じゃあどうやってフォローしてやればいいんだ?


くそ~。友達少なすぎて励ます経験値が足りない!


「どこまで話せるか…チャレンジするべき時かもしれないな」


意を決したようにシエロは俺に真剣な眼差しを向ける。相手が女性なら完全に告白される流れだ。


もし、シエロが実は女の子で「好きです!」と言われたらどうしよう。


その時は…いや、俺の本命って…えっと…香織でいいのか?


いや、香織の気持ちはさっき知ったばかりであって、まだシエロにもチャンスがあるわけであって…。


いやいや、何考えてるんだよ、俺は…。


シエロ、オス…だよな?


もしくはオーチェのように性別無いとかだろう。


「俺は…お前の未来を知っている…いや、今は知って『いた』になるかな」


シエロの言葉の意味が理解できないわけではない。


理解できないわけではないが、思わず「何言ってんだ?」と思っていたことが、そのまま口から出ていた。


というか誰でもそうなるはずだ。


じゃあ何か?


シエロは未来から来ており、実はロボットで便利な道具を…出してくれてないか。


もし、便利な道具を出せたら、俺は丸メガネをかけて「シエえも~ん」と毎日泣きついて便利な道具を借りて生きているに違いない。


こんな思考するなんて人に話せば余裕あるように思われるかもしれないが、逆だ。


今、俺は現実から目を逸らしている。


いわゆる現実逃避をしているのだ。


「…もしかしたら俺の知る未来が無意味だから話せるのかもしれないな。そうだとしても一応、内容を話しておくか」


未来から来たかもしれないシエえもん?の話を、俺はただ聞くしかできなかった。


まあ、本人が言うようにシエロの知る未来とかなり食い違っているらしい。


ではシエえもんの体験した「これから起こらない未来」を聞こうじゃないか。


「その前に…一つ試しておこうか。俺は…俺は実は…」


シエロの言葉が止まる。


何かを必死に言おうとしているのだが、それは声にならず、ただ苦悶の表情を浮かべるだけであった。


「こ…これは無理…か。この話ができたら…お前も真剣に聞いてくれると思ったんだがな」


苦笑するシエロ。


今のを見る限り、セロの呪縛のようなものは解けたわけではないようだ。


シエロの言う「無意味な未来説」が合っているから話せる、と考えると筋は通る。


「じゃあ…今となっては無意味になった未来の話をしようか」


何気ない言葉ではあったが、その声にはシエロの哀愁のようなものを感じた。


そうか。


自分の知っている未来ではない未来に今、自分がいるわけか。


未来を知ってるというのは大きく分けて二つしかない。


予知夢のように未来を見るパターン。


それと、未来から来たパターン。


シエロの話の断片だけで判断すると、予知夢のような話はしていないので、おそらく後者の未来から来たパターンだ。


本当にロボット…じゃないよな?


俺はダメ小学生ならぬダメ高校生なので、その可能性も…ちょっとだけ考えておこう。


なら、大人になった俺の結婚相手は…香織になるのかな?


ダメな俺を見捨てられないから結婚…とか。


「お前、真面目に聞く気あるのか?」


シエロのツッコミにより、想像していることが顔に出ていることが分かった。


どうやら自分が思っているより、くだらないことを真剣に考えていたようだ。


よし、気を引き締めて真面目に聞くとしよう。


「と、当然聞く気はあるさ」


「いや、そこまで気負うことはない。もう、虚言と言っても過言ではないからな」


呆れたように言うシエロだが、一瞬悲しそうな顔をしているのを俺は見逃さなかった。


そうだよな。


信じていたことがダメになる。


それが自分の行動指針や原動力なら、それが無くなるってことだ。


俺ならいじけて寝てるところだ。


だが、シエロは自分の知る未来を…無意味になった未来の事を話してくれようとしている。俺はそれを聞く義務があるように思えた。


たとえ、それが今の俺の未来に起きないことだとしても。


「貴重な時間を無駄話で消費させるのは心苦しいものもあるが、少し付き合ってくれ」


この時、俺はこの話を聞く意味を軽く考え過ぎていたのかもしれない。


シエロの知る未来。


この時、俺はまだ知らなかった。


この話が、どれほど過酷な未来へ繋がっていたのかを…。

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