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20 次の相手

気がつくと俺は自室のベッドの上にいた。


窓から見える景色は日が落ちかけて少し暗かった。


あの後どうなったか分からないが、かすり傷もなく、痛みも幻だったかのように消えていた。


今回も…ギリギリ勝ててしまった。


炎と風のスピリットスキルが覚醒しなければ…負けていた。


それだけ相手は強かった。


単純な攻撃力だけでなく、作戦や戦い方。


そして、最後まで諦めない執念。


焦馬もそうだったが、この戦いに参加している者たちは戦い終わった後、相手に敬意を払えるのが不思議だ。


そんな人物も、人々の記憶から消えていく。


俺だけが…覚えている。


それはもしかしたら、俺が…人を殺めたという罪から逃がさないためか?


それともセロの悪趣味なのか…。


どちらにしても俺は勝った。


いや、勝ってしまった。


あと一回で終わるこの戦い。


もう一度…誰かを消さなくてはならない。もしくは次で俺が消される。


これのどこが楽しいっていうんだ?


悲しいだけじゃないか…。


辛いだけじゃないか…。


それともセロの感覚が狂ってるだけなのか?


「不思議だよな。記憶はあるのに傷は消える。存在しなけりゃ戦ったことすらなかったことになるからという理屈かもしれないが…それでも矛盾してるんだよな」


まあ、創造主なら都合よく世界のコントロールができるってとこなんだろうな。


「気が付いたか」


相変わらずの気遣いが感じられない声。まるで「やっと気が付いたか、遅いぞ」みたいに聞こえる。


「今回シエロあまり役に立ってな…い…ぞ」


文句を言おうと起き上がりシエロを見る。


すると、シエロは…猫ではなく…えっ!?牛!?


牛の服を着たウシエロ…?がいた。


「お前…いいのか、それで。自分の種族否定してるけど」


「知らねぇよ!勝手に着せられたんだ!」


そうだよな。シエロが自らこんなの着るわけないか。


「それはさておき」


真面目なトーンの声になるシエロ。真面目な話題に切り替えるのだろう。


だとしてもごめん、牛のせいで俺は笑いを堪えるので必死だ。


「何でお前はスピリットスキルを二つも使えるようになったんだ?」


「さぁ。こっちが聞きたいくらいだ」


「真面目に答えろ。お前は…本当に時光空、なのか?」


真面目な返答に聞こえないことは仕方ないとして、なぜ俺は俺であることを疑われるのかわからない。


別にエイリアンでした、とかではないのだが。


「それと…最後のは意識してやったのか?それとも無意識でやったのか?」


最後?はて、何のことだ?


俺が呆けていると、シエロはいつものため息をついた。


「無意識…か。マズイな…」


シエロの話の意図が分からず、俺は思案しているシエロをただ見るだけであった。


「なあ、俺にはさっぱり意味が分からないんだが…教えてくれないか?」


俺の質問を無視して何やらブツブツ呟いているシエロ。


せめて説明してほしいとこだが…。


「まあいい。お前にしてきたことが全くの無駄じゃないことがわかった。今はそれで良しとするか」


それだけ言うとシエロは部屋を出て行った。


取り残された俺は何をしていいか分からず、そのまま横になり、再び眠りに落ちた。





再び目覚めた時、見覚えのある尻が目の前にあった。


時間の確認よりも、再び現れた尻につい目が奪われる。


この尻に惹かれてはダメだ!


いくら言い聞かせても無駄だった。


それほど見惚れてしまう美しい尻なのだ。


「あと一つ…ここまで来たのだな」


思わずビクッとしてしまう。


見られていることを知っていて話を切り出したのだろうか?


これからはイジワルオーチェと呼ぼうかなぁ…。


「お前は…実に良くやってくれている。感謝する」


ベッドから立ち上がると学習机の前の椅子に座り俺を見る。


窓から入る月の光で実に美しいシルエットが浮かび上がり、そのボディラインと美しい脚に思わず口を開けたまま見とれてしまっていた。


「次の相手は…今のお前では勝てない。シエロにも話したが、私も少し動いてお前が…お前が本当の力を使えるように助力するつもりだ」


「本当の…力?もしかして覚醒なんかして最強戦士になる…とか?」


マンガやゲームの王道中の王道パターン。それでやっとラスボスと対等になるって…流れがあるのかな?


「そうだな。最強になる可能性はある。だが、逆にその力を手にできないのなら…」


あー、ラスボスに…次の相手に勝てないってことね。


「次の試合開始直後に死ぬ」


攻撃が通じないレベルではない。


話にならないようである。


シエロといい、オーチェといい、こんな酷い話、どうしてさらりと言えるんだよ…。


「お前はシエロから…話を聞く必要がある。その話をする時間を私が作ろう。頼んだぞ」


時間を作る?今話してもいいんじゃない?何がダメなのだろうか?


悩む俺にオーチェは近づくと俺の頭にそっと手が置き、優しく頭を撫でた。


頭を撫でられるだなんて…いつぶりだろうか?


「お前は最後の希望だ。どんな壁も乗り越えて進んで欲しい。…それが私の求めるものであり…そして」


撫でていた手が離れる。何だか名残惜しい気分で一杯になる。


俺、甘えん坊プレイに覚醒したのか!?


「世界の願いでもある」


世界の…願い?この世界の願いなのか?


いやいや、スケールデカすぎだろ!


「運が良ければまた会おう。その時は…お前がセロを止められる力を得ていることを願っている」


月の光に照らされていたナイスバディはスッと消えてしまった。


エロい心より、美しいものを見た感動で俺の心が染まっているのに気が付いたのは、オーチェが完全に姿を消してしばらく時間が経過してからだった。


あれは…まるで女神だよなぁ。


いや、人間から見たら間違いなくそうなんだろうけどさ。


世界の願い…ねぇ。


「おい、外に行くぞ」


オーチェとの会話が終わるのを待っていたかのようにシエロが部屋に入ってきた。


「早くしろ。時間がない」


俺は急かされて外に出る。


オーチェの言っていたシエロからの話とは何なのだろうか?


俺は…何を聞かされるのだろうか?


様々な疑問を抱えながら俺はシエロの後を追ったのであった。





連れてこられたのはいつもの公園である。


スマホで時間を確認すると二十三時五分。


俺、そろそろ親から不良認定されるんじゃなかろうか?


「まあ座れ」


シエロはベンチの前で立ち止まり、俺に座ることを勧めてきた。


言われるがままに座る。その横にシエロが座る。


何が悲しくて深夜に猫とベンチに座ってるんだろ、俺。


それにしても近くで見ると毛並みはツヤツヤしているし、耳はピンとしていて顔つきは凛々しい…きっとネコ界だとイケメンなのではなかろうか?


「結論から言おう」


間を開けるシエロ。


まあ、何を言われても驚くことはないだろう。


神様いるし、スピリットスキルなんて超能力あるし、人の存在も消えるし、これ以上何があるっていうんだよ?


実はシエロは王子様が呪いで猫になったと言うのかね?


「あー、あー」


なぜか急に発声練習を始めるシエロ。歌でも歌ってくれるのかな?ねこ踏んじゃったとか?


「次に戦う相手のスピリットスキルは…空間コントロールだ」


さらりと重要かつ意味不明な言葉を放つシエロ。


あれ?何かこういうネタバレ禁止じゃなかったっけ?


「だからお前には…」


シエロがいきなり黙った。


いや、正確には何か言おうとしてるが言えてない感じである。


「オーチェにしろ君にしろ…面白い作戦ではあるけど、ネタバレは良くないよ。そこは許容できないかな」


ベンチの後ろから、聞き覚えのある忘れたい声がした。


また、ここで会うとは…。


「さてと、空くんは余計なことを知ってしまったけど…さて、どうすべきかな」


軽い口調で悩む声の主。


俺は立ち上がって振り向いた。


「…セロ」


俺の声はまるで耳に入らないかのように悩んでいるセロ。相変わらず掴みどころのない神だ。


「本来ならペナルティの一つでも与えてもいいんだけど…まあ、君が次の戦いも私を楽しませてくれそうだから許すとしようか」


お咎めなし…か。


何だろ、素直に喜ぶことはできない。


誰にもペナルティ無しは良いことなのに…だ。


「それにしても…空くん、どうしてあれだけ多彩なスピリットスキルを使えるのかな?本来、あそこまで多彩で、強力なのはチート…私の世界のルールを超越しているということになる」


笑顔ではあるが、声の中に鋭い刃でも仕込んでいるかのようだ。


心を突き刺されたような感覚。


こんな感覚…初めてだ。


多分、気に食わないんだろうな。


そんなの俺が聞きたいくらいなのに…。


「オーチェの能力でもなさそうだし…まあ、オーチェの能力なら私の世界のルールの範疇(はんちゅう)となるから私にも分かるということなんだけどね」


いつの間にか俺の目の前、間違えばキスできる距離にセロがいた。


思わず頬が熱くなる。


子供っぽいとは言え、整った可愛らしい顔立ちは女の子にも見えなくはない。


美少年…というか、神ってことは性別は無いのか。


「不思議な人間だよね、空くんは。複数のスピリットスキルを持つ者か」


セロの瞳は見ていると吸い込まれそうになる。


何と言うか…魅了されてしまいそうなくらい…いやいやいや、ダメだ!それはダメだ!


「初めてだよ。私と同じことができる者は」


同じ…こと?


「常人の特技程度のスピリットスキルなら複数持つ者はいる。だが、人間のできる領域を超えたスピリットスキルを一人がいくつも扱えるというのは、本来許されるものではないんだ」


ゆっくりとセロの顔が離れていく。


ホッとしたのだが、わずかに残念な感じがしたのを無理やり押し殺した。


「つまり、君は神になれるってことだね」


無邪気に微笑むセロ。


さらっと天地創造できるって言われても…ねぇ。


街作りゲームですら住民が集まらない俺には無理な話である。


「さて、オーチェにもお仕置きはしたし…空くんにも忠告はしたし…これで私の用は終わりだ。また会おう」


笑顔のまま、消えるセロ。そのまま取り残された形になった俺とシエロは動けずにいた。


「…なあ、帰っていいかな?」


「…そうだな。帰ろう…か」


シエロとオーチェの計画が潰されたのは分かったが…セロがわざわざここに来るほどのことなのだろうか?


精神的に疲弊して得たものは「次の相手は空間をコントロールする」という一つだけ。


そう言われても…実際、空間をどう扱うのか?


俺には分からない。


かといってセロにバレた以上、シエロに詳しくは聞けない…か。


とりあえず疲れた。帰ってゆっくりしたい…。


俺は疲れた足で深夜の公園を後にするのだった。





「何であなたはこうも寝起き悪いの?」


その理由は昨日の疲れだよ。ホント鬱陶しい妹だ…。どうせ言われて起こしに来て…。


「へ!?」


薄目を開けて様子を見るだけのつもりだったのが、冷や水を浴びたように目が覚めた。


なぜ…なぜ香織がここにいる!?


「もー!どうして私があなたを起こしてあげなきゃならないのよ!」


声もちゃんと聞こえる。夢じゃない!?


もう一度見るも、見間違えではなく、呆れ顔の香織が俺のベッドの横に立っている。


誰かこれ、説明してくれないだろうか!?


「な、何で香織、ここにいるんだよ!?」


慌てて飛び起きるも、俺は大切なことを忘れていた。


男の朝は…元気…なのだ…。


香織もどうやらそれに気が付いたらしい。


急に顔が赤くなり、問答無用に平手を喰らってしまった…。


「あ、あ、あのね!私は…私はおばさんに言われたから起こしに来たの!」


話が飛びすぎて説明になっていない。


悪いが、なぜ呼びに来たのか分からない。


「毎日毎日同じこと繰り返しじゃない!少しは起きる努力してよね!」


毎日?


いや、毎日起こしに来てないだろ?どういう…。


俺の思考は急に冷静になった。


こんな感じ…以前にもあった…。


もしかして…また俺の周りで誰か…消えた…?


「えっと…香織。どうして俺を起こしに…来るの?」


まずはそこからだ。


もしかしたら、誰が消えたかの手掛かりがあるかもしれない。


「そ、そ、それは、お、お、幼馴染だからよ!」


顔を真っ赤にして大声で俺に説明してくれた香織なのだが、幼馴染は理由になるのか?


「さっき毎日って言ってたけど…そうなの?」


俺の言葉に訝しげな顔になる香織。


だが、急にハッとして俺に駆け寄ってきた。


殴られる!と反射的に俺は身をかがめ防御の構えを取る。


「空、もしかしてどこかぶつけた!?大丈夫!?」


香織の声に恐る恐る目を開けると、そこには俺の視界一杯に心配そうに俺を見る香織の顔があった。


あ、いや、その、何か…可愛いんですけど、香織。


「…か」


「か?何?どうかしたの、空?」


「可愛い…な」


思わず出てしまった言葉を止めようと両手で口を塞いだが、そんなことで言葉は止まるはずもなく、二人の間に変な空気が流れてしまった…。


「そ、そんなこと急に言わないでよ…バカ」


今、俺は見たことないものを見ている。


ちょっと恥ずかしそうに、照れたように目線を俺から外し頬を赤くする香織。


ちょっ、ちょっと待ってくれ!


何だよ、このマンガのような幼馴染といい感じになるパターンは!?


何だよ!何が起きてるんだ!?


落ち着け、俺。


香織の理想って…自分より強い男性…だったよな?


当然、俺になんか恋愛感情なんて持ってるわけないよな?


でも…俺の記憶では、香織が俺を起こしに来た事なんて…無い。


もしかして!


俺は慌てて隣の部屋の前に行き、ドアノブに手を掛ける。


香織が何か言ったような気がしたが、俺の耳には届いていない。


不安が頭の中を支配する。


間子がいつも起こしに来ていたのに、それが香織になっているってことは…。


勇気を持ってドアを開ける。


そこには…制服に着替えようと下着姿の間子が今、スカートを手にしたところであった。


間子と目が合う。


良かった…。間子、いたんだ…。


俺の安堵の気持ちも知らず、間子の拳が俺の右頬に世界を狙えそうなストレートをお見舞いしてくれた。


とりあえずよかった…。


成長した妹の体と拳に時の流れを感じつつ、俺は…再び眠りについた…もとい気を失った。


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