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19 これが俺の能力だとしても…

今までの苦戦がウソのように形勢が逆転する。


相手の放つ水は風によって弾き無効化した。


周囲の水は炎で気化して辺りにある水という水を次々と消していく。


背後から水を忍び寄らせないように動き回り炎を放っていく。


気がつけば、巨大に見えた水の塊が明らかに小さくなっている。


どうやら水の補給が追い付いてないか、できないようである。


また塊で突っ込んでくるのかと思ったが、それはしないようだ。


まあ、突っ込む前に風で水の塊を小さくされては無駄に水を消費し、自分の武器を失うだろうしな。


「空、おかしいと思わないか?先ほどまであれだけ詰将棋のような戦法を取っていた敵が正攻法で来ている。何か企んでいる可能性がある。気を付けろよ」


「そうか?俺の新しい力に対応しきれてないだけじゃないのか?水の塊も最初見た時の半分くらいになっているし」


このペースで戦えば後三十分もすればあの水の塊も消えるだろう。


そうなった時に本体を攻撃すれば勝利は見えてくる。


「いや、それはダメだ。長期戦に誘導されているように見える。意図は分からないが、早めにケリを付けろ」


シエロらしからぬ焦った考えに俺は賛同できなかった。


相手を弱らせる前にこちらから全力で仕掛ければ、何かの罠が発動すると俺は踏んでいた。


「それこそ短期決戦を誘ってきてるように俺は思うけどな。こんなじれったいことさせて、我慢できなくなるのを待っているように思えるんだけどな」


少し皮肉を込めて言い放つ俺。


俺だって経験を積んでるんだ。少しは考えているさ。


俺の新たな力は相手にとって予想外。


ならば、相手の出方を見て対応する方が無難ではなかろうか?


「時間をかければ相手に考える時間も与える事になる。相手は策士だ。時間を与えるのは得策じゃない」


それも一理ある…か。


だとしても、相手は何をしようというのだ?


減る一方の水だ。


あれを集めるために最初俺たちに気付かせないように戦っていたわけだろ?


つまり、水を集めるのは大変なはずだ。


となると、やはり水の塊を小さくして攻撃した方が安全ってことだ。


やはり俺の読みの方が合ってる。


「じゃあさ、あの減っている水が増えないのはなぜだ?水の塊は小さくなる一方だろ?このままいけば相手の武器が無くなって地上に降りてくるしかない。そうなれば少ない水しかない相手と風と炎と光を操れる俺、どちらが有利かは…」


「疑問に思わないのか?相手は何で『お前程度』が予測できることを続けているんだ?」


返す言葉が出てこない。


さらにシエロは続けた。


「無駄な攻撃をするタイプならお前の考えでいい。でもな、そうじゃない相手なら…短期戦、長期戦両方の策を考えるはずだ。そうなると、考える時間を取れる長期戦は避けるべきだ」


そう言われても…。


こうして話している間も相手から水の玉がいくつも飛んできているわけだし…。


さっきよりも水の塊が小さくなってきているわけだし…。


「なあ、シエロ、考え過ぎじゃないの…か?」


話しかけている途中でシエロの表情が驚きで固まっているのに気づき、会話を止めシエロの視線の先を見る。


空に…雲が広がってきているだけで、特段何の変化もない。


何を驚いているのだろうか?


雲くらいどこでもあるだろ?


「早く倒せ!このままだとヤバい!」


叫ぶシエロの意図が分からない。何がヤバいんだ?


「バカ!相手の背後の雲の意味くらい気づけよ!あの雲は間違いなく敵の作戦だ!」


ぽつん。


俺の頬に何かが当たる。


…水?


「来るぞ、空!」


シエロの声で何とか風の防御壁を作ったが、遅かった。


針のような形になった雨粒が、俺の手足に無数に刺さる!一本一本の威力は低いが…多すぎる!


かろうじて風を起こして防ぎ逃げるも雨粒の数に圧倒され防ぎきれない!


「クソッ!シエロの言葉が正しかったのかよ!」


今度は肩に痛みが走る。


「下から…かよ…」


落ちたはずの雨水まで、俺に殺意があるかのように地面から跳ね上がり、俺に襲い掛かってくる!


「気を付けろ!雨は上からだが、落ちてきた雨は相手のコントロールで横や下から来るぞ!」


つまり…全方位攻撃…か。素直にシエロの言う事聞くべきだったな…。


唯一救いは攻撃力が低いこと。


風の壁で防げるが…また攻撃ができない状況に逆戻りだ。


「おい、二つ同時にスピリットスキルを使えないのか!?」


「できたらこんな苦労してないだろ!」


多分、相手もそれを見破っているのだろう。


俺のスピリットスキルの特性は


・異なるスピリットスキルを同時に使えない。


・一つのスピリットスキルで二つの技を同時に出せない


ってとこだ。


もし、風のスキルを攻防で分けて同時に使い、コントロールミスを起こせば雨の餌食になる。


今は体を繭のように包み込む風を起こして雨を防いでいる。


それを少しでも攻撃に回すとこの風の守りが弱くなり、ダメージを喰らうだろう。


しかも水の塊を壊せるほどの威力の攻撃を無駄に仕掛けることになる。


雨が降り止むのを待っても、水が辺りにある以上、相手の優位は変わらないわけだよな…。


「空!二つ使えないのはイメージが弱いからだ!もっと具体的なイメージをしろ!」


無茶苦茶言いやがるな、シエロ…。


いや、二つ使えないなら…二つ同時じゃなければできるんじゃないか?


てことは…相手の近距離に行ければ…今の俺なら逆転できる!


俺は風の防御を解き、少しでも水の塊に近付くために全力で走った。


一瞬は攻撃が止まったものの、すぐに俺を狙って雨の針が俺に向かってくる!


「バカ!死ぬぞ!」


無謀とも見える俺の行動にシエロが叫ぶ。


「せーの!」


地面に向けて突風を叩きつける。


まるでミサイルだ。


一瞬で相手の高さに届く。


だが、想像以上に痛い!風の当て方が悪かったのかもしれない。


本来はファンタジーなどでよくある風に乗って飛んでいく感じでいきたかった。


しかし、いざやってみると風でどうやって飛ぶのか想像ができなかった。


だが、風で人が吹っ飛んでいるのは動画で見たことがある。


竜巻に巻き込まれ、飛んでいる人を…だけど。


だから、水の塊の高さに飛ぶにはこれしか思いつかなかった。


方向は合わせられるが、どのくらいの威力で飛べばいいのかは運任せであった。


どうやら運は悪くないようだ。


水の塊の真上に体が飛ばされた。


そして水の塊の中にいる相手を見つけた。


どうやら俺に意表を突かれたようで、俺を見て動けていないようだ。


自由落下が始まる。


俺はどんどん水の塊に近付いていく。


相手は我に返ったのか、水の玉を作り出し、俺に向かって放ってくる。


しかも、今回の水の玉は先ほどより大きい。バスケットボールくらいだ。


やはり相手に近付いた分、使える能力も強くなるってことか。


しかし、それは相手だけではない。


「水に囲まれているなら…これでどうだ!」


俺はありったけの力を使い、相手の水の塊に匹敵する大きさの炎の玉を作り出した。


炎の玉はまるで太陽のように赤く、勢いよく炎が噴き出している。


「お前の水の力が俺の炎を消すか、俺の炎がお前の水を蒸発させるか勝負だ!」


炎の玉を前面に押し出しそのまま自由落下を続ける!飛んでくる水の玉は片っ端から気化して消えていくほどの熱量。


これでダメなら…次は何も考えてないので俺はやられるだろう。


でも、これは俺だけじゃない。焦馬と俺の炎だ。


そんな寄せ集めの水程度に消せるものか!


「勝負だ!フェゴディアルマ!」


掛け声共に巨大な炎の玉を水の塊に向けて投げつける!


もの凄い音と爆風で俺は再び吹き飛ばされてしまった。


だが、炎の玉は直進を続けて水の塊にめり込むように当たった。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!」


気合を込めて叫ぶ。


水の塊がまるで熱せられた鉄板の上に置かれた氷のように小さくなっていく。


炎の玉も小さくはなっているものの、水の塊よりはまだ大きく、ついには炎が水の塊を飲み込んでしまった。


巨大な水の塊と巨大な炎の玉がぶつかり合う。


まさにスピリットスキル同士の戦いでしか見られない光景だろう。


そんなことより相手がどうなったか、だ。


俺は落ちながら相手の行方を探す。


逃げたのか?


それともまだ水の塊の中か?


俺は目を凝らすが離れていく水の塊から相手を探すのは無理だった。


とりあえず着地を考えないと死ぬ。間違いなく死ぬ。


風の力を使い、クッションのようにして落下の衝撃を和らげ…いや、それ失敗したら水の塊の上まで吹っ飛んだ時のように痛い思いをする。


どうしよう。


対策を考えていると何かが背中に激突してきた!


「ぐえっ!」


何が飛んできたかを確認するために背中を触る。


濡れた感触。


それを確かめるために手を目の前に持ってくると、色のない水で手が濡れていた。


つまり、俺は相手を倒せてないということだ。


最後の悪あがきの攻撃であって欲しいが、付着した水は糸のように変化すると俺を締め上げてきた!


「マズい…このままだと地面に…激突…する!」


見たくない地面を見る。


自由落下は加速度を増し、どんどん地面が近付いてくる。


「クソッ!何回博打させるんだよ!」


俺は両手に風を溜めた。


地面に激突する直前に風でブレーキをかけて衝撃を抑えるというアニメのようなふざけた作戦に賭けた。


地面が迫る!


俺は溜めていた風を地面に向けて放つ!


一瞬体は止まったものの、風を放出している腕に激痛が走る!右腕はおかしな方向に曲がってしまった。


折れた…かな。


右腕の負傷でバランスを崩し、風の反動で横向きに転がり飛んでいく。


まるで風に転がされている紙くずみたいに、なかなか止まらず転がっていく。


どのくらい転がったかわからない。


体は痛みだらけで、どこが無事なのかわからない。


まず、立てなかった。


体が痛すぎて…立つどころじゃない。


何より右腕の激痛で思わず叫んでしまっていた。


これなら死んだ方がマシじゃないかと思ってしまった。


「空!大丈夫か!」


駆け寄ってくるシエロを見ようとしても首も痛くて動かせない。


これ…かなりヤバいんじゃないか?


今、この状況で相手が攻撃してきたら…。


そんな俺に今一番聞きたくない音が聞こえてきた。


大量の水が地面に衝突し、弾け飛ぶ音。まるで雷が落ちたようである。


こんな音、初めて聞いた。


「おい…空…」


俺を呼ぶシエロの声が震えていた。俺は無理やり体を捻り、水の音がした方へ視線を向ける。


誰かが立っている。


水浸しになった地面を一歩ずつこちらに向かって歩いてきている。


手には水を槍先のようにした鋭い棒状のものを持っている。


ただ、その足取りは満身創痍に見えた。


俺まで百メートルもない距離を、一歩ずつ、まるで足を無理やり前に動かしているかのような不自然な歩き方。


万全の状態なら、あっという間に歩き切れる距離を、じっくりと時間をかけて歩いてくる。


相手も無傷ではなさそうだ。


ちゃんと攻撃は通じている。


あの一撃でかなりのダメージを与えたはずだ。


だからと言って状況は良くはない。


少なくとも俺は動けない。


相手は迫ってきている。


時間の問題である。


「空!今ならお前の光の攻撃で倒せるぞ!相手も過敏にかわせそうにないし、何よりスピリットスキルもあの水の槍を作るので精一杯のようだ!」


簡単に言ってくれるが、俺も体が動かない。


焦馬の時のようにシエロに指先を動かしてもらうか?


いや、それでは相手から見えてしまう。


そうなると相手が水の盾でも作れば光は相手に当たらない。


炎か?風か?どちらにしても…体が動かないことには…。


相手が数メートルの所までやってきた。


さて…どうするかな。


イメージをしようにも痛みで思考がまとまらない。


ここまで来て、俺は負けるのか…。


とうとう俺の眼前に相手がやってきた。


相手は手に持った水の槍を振り上げる!


来るな…来るな!その水の槍!


願うことしかできず、目を閉じる。





…痛く、ない?


恐る恐る目を開ける。


俺の目に飛び込んできたのは相手の顔。


そして、頬に垂れる水滴。


てかこの水滴、熱いんだけど!?


ゆっくりと目線を横に動かす。


水の槍は…俺の顔の横の地面に突き刺さっていた。


外した…のか?


水の槍をじっと見ていると、その槍は姿を消した。


それと同時に相手が俺に覆いかぶさるように倒れてきて、俺が押しつぶされた。


まるで冬布団が何枚ものしかかってきているような重さである。


意識が途絶えた…のだろうか?まるで動かない。


「勝負あり。まさかオーチェの選んだ者が勝ち残るとは意外だったよ」


俺の視界にセロが入ってきた。相変わらず何を考えているか分からない笑顔である。


「しかも、今回は見てて楽しかったよ。空、君は実に面白い。どうしてそんなにいくつもスピリットスキルを使えるのかな?」


答えを返したくとも呼吸をすることすら必死の俺には答えを返すことはできなかった。


まあ、返せても俺自身、どうしてなのか分からない以上、答えようがないのだが。


「それに、相手を茹でて殺すとは…案外冷酷な面あるんだね」


茹でて…殺す?


「もしかして知らずにやったのかな?あの小さな水の塊を高温で熱したら常温の水なんかすぐに沸騰するよ。それを狙ったんじゃないのかい?」


言葉の意味を一つずつ頭の中で整理する。


俺は相手が中にいる状態で水の塊を炎で熱した。


熱した水は高温になり、沸騰する。


それくらい…子供でもわかる。


つまり、この倒れているヤツは…大火傷を負いながらも、最後の最後まで俺を倒そうとここまで来たのだ。


そんな体だったのなら、あのゆっくりとした歩き方も納得できる。


何より全身に火傷を負いながらも俺の元に来て、俺を倒し生き残ろうとする気力は…敵ながら見習うべき精神と言える。


「どうせ…コイツを助けてはくれないんだろ?」


ダメ元でセロに聞く。


「また、無駄な質問をするんだね」


答えはその一言だけであった。


きっと俺の上に倒れているコイツも生き残りたい理由があったのだと思う。


だが…コイツのことは俺以外の誰もが忘れてしまう。


何だろ。


スピリットスキルが二つ使えるようになったのに…何も嬉しくない。


動けない俺は覆いかぶさっている相手をただ見つめるしかなかった。


すると、その傍らからピョンと蛙が一匹飛んできた。


アマガエル。


緑色の小さなカエル。


この辺にいたのか?と思ったが、そのカエルは白いエプロン?をしていた。


このカエルは確か…相手のパートナーか。


俺の思考を読んだのかは分からないが、カエルはつぶらな瞳で俺をじっと見つめ、俺の顔へと飛んできた。


カエルは何を思ったのか、長い舌で俺の額を軽く舐める?と、どこかへと飛んで行ってしまった。


何のつもりだ、あのカエルは?


そのおかげか、時間経過による回復か分からないが、少し体が動かせるようになってきた。


俺の上に倒れていた相手の体をゆっくりとずらすためにそっと手を伸ばす。


その瞬間、その体は重さを失い…存在が少しずつ消え始めた。


どういう理由であれ…俺は相手を殺した。


意図してないとはいえ…また、殺した。


頭の中に黒い何かが駆け回り、吐き気に襲われる。


嫌だ…。


もう…こんなの…嫌だ。


あと一回…こんな事をしなくてはならないなんて…俺は耐えられそうにない。


「次も期待している。素晴らしい戦いを見せてくれて」


今の俺とは対照的な清々しい表情で微笑むとセロはそのまま消えてしまった。


「なぁ、シエロ」


「何だ?」


「俺…何やってるか…分からなくなってきたよ…」


ぐるぐる回る頭の中から引っ張り出した言葉。


悲しいのか、辛いのか分からない…そんな感情の中、引っ張り出した言葉。


そんな俺にシエロは眉ひとつ…いや、眉は無いが表情筋一つ動かさず、いつも通りの口調で言った。


「理解する必要はない。戦いの意味は生き残った者が決めるものだ。理由など…その程度でしかない」


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