第二十五回
僕たちは【武林連盟】の依頼を受け、迪拉科たちに【武俠仙蹤】と【奇幻秘境】の違いを知ってもらうことにした。そのため、【武林連盟】で【村莊慘劇】という依頼を見つけた彼らは、大きく反応した。
「あれだな。」
「名前も同じだし、六人用クエストなのも一緒だ。」
「じゃあ、これに決まり!」
……なんだかよく分からない。
でも、迪拉科たちが楽しそうなら、それでいいか。
この依頼は、【武林連盟】が「近くの村が数日間音信不通になっている」という情報を受け、調査へ向かうという内容だった。
そして現地へ着くと、村には人影がひとつもない。
地面一面には赤黒い跡が広がっていて――クエストログに【村莊滅門を調査する】と表示されるまで、それが乾いた血痕だと僕は気づかなかった。僕だって、こんな血だらけの光景を見るのは初めてだ。ホラー映画やスプラッター映画なんて観ないし……。
幸い死体はなく、ゲームでも血の臭いまでは再現されていなかった。このゲームはハードコアRPGらしく、ほとんどヒントがない。
唯一の情報は「四つの重要な手掛かりを見つけろ」というものだけで、誰かが一つ見つけるたびにクエスト内容が更新される。
だから僕たち六人は手分けして村を調べ始めた。
ここは貧しい農村らしく、家の多くは土壁に藁屋根。裕福な家だけが木造で建てられている。鶏小屋もあったけれど、中に鶏の姿はなく、残っていたのは乾いた血だけ。豚小屋も同じ有様だった。村の裏には田畑が広がっている。
青々とした田んぼでは稲が風に揺れ、何事もなかったかのように静かだった。
「たぶん……あそこに何かあると思う。」
艾莉亞が田んぼの一角を指差した。そして本当に、彼女は一枚の令牌を持ち帰ってきた。
同時にクエストも更新され、その令牌が手掛かりの一つだと判明する。
令牌とは、中国古代で身分証として使われていたものだ。役人や特殊な職業だけでなく、武侠作品では門派の弟子も自分の所属を示すために携帯している。
偽造防止の工夫も多く、門派の近くでしか採れない素材を使ったり、その門派だけの技術で加工したり、刻まれた文字や紋様にも特殊な細工が施されていて、普通の人では見抜けないようになっている。
この令牌は近隣の県令のものだった。
つまり……何を意味するのか。
艾莉亞は何も言わなかったし、僕も聞かなかった。
村へ戻る頃には、四つの手掛かりがすべて見つかったという通知が届いていた。
迪拉科たちは村長の家で、三つの証拠を前に考え込んでいた。一枚の黒い布切れ。服から引き裂かれたように見える。半分だけになった玉佩。上半分だけが残り、紐が付いていることから、誰かの首に掛けられていたものらしい。
そして――六歳くらいの男の子。
少年は膝を抱えたまま虚空を見つめ、ぴくりとも動かない。話しかけても反応はなく、ただ僕たちには見えない何かを見つめ続けていた。
「どうして子供が……?」
「【奇幻秘境】にも子供はいたぞ。」
迪拉科が付け加える。
「向こうは女の子だったけどな。」
その時、新たな目的が追加された。
――密室の秘密を暴け。
低レベル向けの依頼だからか、難易度はそれほど高くない。ほどなくして帳簿を発見し、その中には村長と県令の賄賂の記録が残されていた。どうやら県令が要求する賄賂は年々増え続け、耐えきれなくなった村長は共倒れ覚悟で都へ訴え出ようとしたらしい。その結果、県令に口封じとして村ごと消された――そんな流れのようだった。
僕たちは少年を【武林連盟】の支部へ預け、依頼に従って県令のもとへ向かう。
「やっぱり【奇幻秘境】と流れはあまり変わらないな。向こうも六人用クエストで、相手は子爵領主。こっちは県令だけど、進行もほとんど同じだ。子供がいるところまで一緒。」
「向こうは女の子だったけどね。」
「だから『ほとんど』って言ったんだよ。」
「最後は狼人間だったっけ? ――あ、着いた。」
県令がいる場所は衙門と呼ばれる、中国古代の役所だ。執務を行う建物の奥には居住区も併設されている。
僕たちが正門から入ろうとすると、話しかける間もなく門番に追い返されてしまった。
「じゃあ、前と同じように潜入ね。」
潜入できるのは夜になってから。
ゲーム内時間は現実の四倍速なので、一日に四回夜が訪れる。それにしても、このゲームは本当に細かい。住民たちも日の出とともに働き、日没とともに眠る生活をしている。
夜になると衙門の門は閉じられ、開けることも壊すこともできず、侵入不可エリアになる。
ただし今回はクエスト中なので、裏門だけは開けられるようになっていて、中はインスタンスダンジョンになっていた。
侵入方法はいくつかある。
一番簡単なのは門を蹴破ること。あるいは軽功で塀を越え、中から門を開ける方法もある。前者は衛兵に気づかれる。後者は飛び込んだ一人で門番二人を倒さなければならない。
そして僕たちは――というより艾莉亞は、もちろん前者を選んだ。
「行くぞ!」
ドォンッ!
艾莉亞が一掌で門板を吹き飛ばし、たちまち屋敷中の衛兵が駆け寄ってきた。
【奇幻秘境】との最大の違いはここだった。【武俠仙蹤】の衙門は四合院造りになっていて、僕たちが踏み込んだ中庭は前後左右を建物に囲まれている。そのため衛兵たちは四方八方から押し寄せ、僕たちを包囲する。
西洋風庭園のように、敵が正面一列から来るわけではない。
これが僕たち六人での初めての共闘だった。
迪拉科は動画で見た通り、刀を構えて最前線へ。彼は【血刀教】の弟子で、攻撃するたびに体力を回復しながら耐える、珍しいタンク型の門派だ。
艾威恩と蕾娜は剣を振るい、一太刀ごとに衛兵を斬り伏せる。
槍使いの瑪莉亞は、一突きで何人もの敵をまとめて貫いていく。
でも、一番豪快だったのはやっぱり艾莉亞だ。左右の拳を次々と繰り出し、衛兵たちをまるで紙人形みたいに吹き飛ばしていく。壁が破壊できる仕様だったら、きっと全員が大の字で壁にめり込んでいたと思う。
あっという間に、中庭には衛兵たちが折り重なるように倒れていた。
「君たちは……【武林聯盟】の者か?」
その時だった。
屋根の上に一人の男が立ち、僕たちを見下ろしながら声をかけてきた。




