第二十四回
馬車から降りると、すぐに迪拉科の姿が目に入った。背が高いからすごく目立つ。きらきらした金髪に、まぶしいくらいの笑顔。そのまま太陽みたいに大きく手を振って、僕たちを呼んでいた。
その隣には三人。一人は男、二人は女の子で、年齢は僕たちと同じくらいに見える。
もう一人の男の人は迪拉科と同じくらい背が高いけど、体つきはもっとがっしりしていて、大男って感じだった。でも、僕を見るなりぷいっと顔をそらしてしまう。
……え、僕、嫌われてるのかな。
女の子の二人は双子で、どちらも赤い巻き髪。身長は僕と同じくらいだけど、つり目気味だから妙な迫力がある。二人は僕をじろじろ眺めたあと、そのまま僕の周りをぐるっと一周して、うんうんと頷きながら、
「なるほどね……」
……いや、何が「なるほど」なの?もちろん、二人のことは知っている。
迪拉科が見せてくれた動画の中で、【奇幻秘境】の仲間として何度も見ていたからだ。
可愛らしい双子の瑪莉亞と蕾娜。落ち着いた瑪莉亞は槍使いで、元気いっぱいな蕾娜は二刀流。性格そのままの戦い方だった。
そして男の人は……たしか艾威恩、だったかな?
「俺の名前、知ってるのか!」
突然、艾威恩が勢いよく飛びついてきて、僕の両手をぎゅっと握った。
体格が大きくて、僕より頭一つ以上高い。そのまま覆いかぶさるように迫られて、思わず怖くなって一歩後ずさる。
「あっ、ご、ごめん! 驚かせちゃったか?」
慌てて手を離し、おろおろし始める。
大柄な男の人なのに、そんな困ったような表情をされると、なんだか可笑しくなってしまって、
「だ、大丈夫です。」
そう答えた。
しばらく待っても返事がないので、不思議に思って顔を上げると、艾威恩は耳まで真っ赤になっていた。
「か……可愛い……」
ぞくっ、と背筋に冷たいものが走る。首筋に冷水を流されたみたいな感覚だった。
慌てて迪拉科と艾莉亞の方を見ると、二人とも口を押さえ、肩を震わせながら必死に笑いをこらえている。
……誰一人助けてくれない。
「この裏切り者ぉぉぉぉぉっ!」
僕は思わず天に向かって叫んだ。
*
「ねぇねぇ、一つ聞いていい? このゲームって二刀流ないの?」
任務へ向かう途中、双子の妹蕾娜が尋ねてきた。
【奇幻秘境】では忍者風のスタイルだったから、この【武俠仙蹤】でも同じような戦い方をしたいらしい。
「二刀流自体はあるよ。でも、忍者っぽい感じじゃなくて、どっちかというと宮本武蔵みたいなタイプかな。」
武侠小説にも、短い双剣を素早く操る忍者みたいな武功はある。でも、このゲームには実装されていない。
今作で二刀流を扱う門派は二つ。
一つは華山派の坎水離火劍。
華山の上級剣術で、少なくとも親伝弟子にならないと習得できない。
ちなみに、門派に入門したばかりのプレイヤーは全員が外門弟子から始まる。功績を積み、昇格任務をこなすことで内門弟子になり、その上が記名弟子、親伝弟子、長老や堂主、さらにその上が護法や副掌門という流れだ。
「もう一つは青城。」
「青城? そんな門派あるの?」
「あるよ。青城は青城山にあって、成都の近くだね。青城も霹靂堂と同じで、最初の門派選択には出てこない。でも、門派クエストをクリアすれば武功を習えるんだ。」
「この前、青楼のクエストをクリアして音律系武功を覚えられるようになったのと同じ感じ?」
「うん。それで青城は剣術だけを極める門派なんだ。修練を続けると、奥義の雌雄龍虎劍が使えるようになる。」
「名前からして強そう!」
「う、うん。」
僕は頷いたけど、少し言いにくそうに続けた。
「でも、それもレイラさんの求めてるものとは違うと思う。」
「どうして?」
「雌雄龍虎劍は龍棘と虎辟を組み合わせる剣法なんだ。龍棘は全長四尺あるけど、刀身が細長い。虎辟は逆に二尺もなくて、刃が幅広で刀みたいな形なんだ。」
「つまり?」
「簡単に言うと、長短二刀だね。」
「でも四尺って、もう両手剣じゃない?」
「いや、龍棘は細身だから片手で扱えるんだ。それに虎辟は、西洋に昔あった左手短剣っていう武器に少し似てるかな。短くて厚みがあって、防御に使う剣なんだ。」#
蕾娜は口をへの字に曲げて、あまり納得していない様子だった。
「武侠小説では、二刀流そのものが一つの特殊な剣術なんだ。ゲームではそこまで細かく分けてないけど、本来は一刀流とは別物でね。
二本の剣は最初から対になるよう特別に作られていて、一方が攻撃、一方が防御だったり、長短の組み合わせだったりして、戦闘中に互いを補い合いながら使うんだ。」
「逆に、ただ両手で武器を扱いたいだけなら、このゲームには雙手互搏っていう特殊な武功もあるよ。」
「雙手互搏?なんか左手と右手でケンカするみたい。」
「まあ、ある意味その通りかな。【奇幻秘境】にも分割思考《Split Thinking》ってスキルがあったでしょ?雙手互搏は思考を左右で分けて、左手と右手で別々の武功を同時に使えるようになる技なんだ。」
「それいいじゃん!」
蕾娜は目を輝かせながら、そのまま僕にぎゅっと抱きついてきた。む、胸が……やわらかい……。腕にふにっと押し当てられて、僕の身体は一瞬で固まる。顔まで熱くなって、どうしていいかわからなくなっていると、
少し遅れて瑪莉亞がようやく事情を察したらしく、慌てて蕾娜の襟首をつかみ、そのまま僕から引き離した。
#ここは香港の作家・喬靖夫先生の武侠小説『武道狂之詩』へのオマージュです。
喬靖夫先生は実際に武術の経験がある作家で、その作品は戦闘描写の迫力と緻密さで高く評価されています。武功を現代的な理論で分析・解釈するような描写も多く、とても読み応えのある武侠作品です。




