第二十三回
「はぁ……紫苑って、ほんと昔から変わらないね。」
艾莉亞は呆れたようにため息をつきながら、僕の背中をぽんぽんと叩いた。
その光景を見ていると、小さい頃、遊園地でコーヒーカップに乗った時のことを思い出す。あの時も僕は盛大に吐いちゃって……。
たぶん艾莉亞も同じことを思い出したんだろう。気まずそうに苦笑いすると、ふいっと視線を逸らし、頬を軽く掻いた。だって、あの時は裕貴と艾莉亞のせいなんだから。二人とも乗った瞬間、コーヒーカップを全力で回し始めて、ぐるぐるぐるぐる……僕なんて放り出されそうになるくらいだった。
なのに、そのあと「なんで止めてって言わなかったの?」なんて文句まで言われたんだよ……。
*
長安へ戻る馬車に乗ると、道中で艾莉亞はディラクゥ《ドラクゥ》へ連絡を入れた。
もう僕と合流したこと、そしてドッキリ作戦は失敗だったことを説明している。
「そういえば、なんで金剛宗にいたの?」
「だって私、金剛宗を選んだから!」
「いや、その……なんで金剛宗を選んだの?」
「攻撃力が一番高いから!」
艾莉亞は得意満面で両手をVサインにした。
僕は思わず額を押さえる。
「【奇幻秘境】では魔法使いだったから、こっちでも一番火力が高いのを選んだの!」
……その二つに、どういう関係があるの?
「だって魔法使いって、一番攻撃力が高い職業でしょ? ボスを倒す最後の一撃って、だいたい魔法使いが詠唱して放つ超大技じゃない!」
そ、そういう考え方なんだ……。
「あはは……」
僕は苦笑いするしかなかった。
「魔法使いほど爽快な職業はないよ!特に火属性!一発の大爆発とか隕石で目の前を全部まとめて吹き飛ばすの、最高なんだから! ふふふふふ♪」
……最後の笑い方だけ、ゲームに出てくる悪役のお姉さんみたいになってるんだけど。
「で、でも……武侠の世界には魔法使いはいないよ?」
僕がそう言った瞬間、
艾莉亞はがくりと膝をついた。
「なんでみんな同じこと言うのー!掲示板の人たちまでそうだったし!」
「そんなに魔法使いにこだわらなくてもいいんじゃ……」
「ダメ!」
即答だった。
「両方のゲームを並行して遊びたいんだから! プレイスタイルが違いすぎると、操作感を忘れちゃうの!」
「艾莉亞ってゲーム廃人なのに、それでも慣れなくなるの?」
「ゲーム廃人だからこそだよ! 操作を完全に身体へ染み込ませて、自分のビルドを最大限活かさなきゃ!」
……その世界は、僕にはよく分からない。
だから僕は話を戻した。
「もし広範囲攻撃をしたいなら、実はもっと向いてる門派があるよ――」
最後まで言う前に、艾莉亞がぱっと僕の手を掴んだ。
目がきらきら輝いている。
「ほんと!?」
「うん。」
僕は頷いた。
「霹靂堂っていう門派があるんだ。火薬を使って戦う門派だよ。」
「火薬?」
艾莉亞も一瞬ぽかんとした。
「これ武侠だよね? なんで火薬が出てくるの?」
「僕も分からないけど……あるんだ。」
「でもゲーム開始時の門派一覧に霹靂なんて名前なかったよ?」
「小門派だから。最初からは選べないんだ。」
「なんでそんな仕様なの?」
「【奇幻秘境】にもあるでしょ? 特定の条件やクエストを達成しないと覚えられないスキル。こっちも同じ。」
「小門派は一種類の武功に特化してるのが特徴なんだ。霹靂堂なら暗器専門。でも入門条件として煉藥が必要になる。」
「煉藥で戦闘用の火薬を作って、それを仕込んだ暗器を内力で撃ち出して、爆発で敵を攻撃する門派なんだ。」
話しているうちに、艾莉亞の目は「明るい」なんて表現じゃ足りないくらい、きらっきらに輝いていた。
「すっごーい! 爆発! エクス……!」
……何を想像してるのかは分かる。
でも、その霹靂堂が本当に艾莉亞の理想通りかどうかは、僕にも分からない。
「ただ、今艾莉亞が覚えてる金剛宗は金属性武功だから、火属性の霹靂堂とは相剋なんだ。今まで振ったポイントが少し無駄になっちゃう。」
「うーん……そっかぁ……他には?」
「金剛宗では拳掌と棍法、どっちを選んでるの?」
「拳掌!」
「だったら一つ聞いたことがあるよ。ゲームに実装されてるかは分からないけど。」
「なになに?」
「ずっと昔、香港で白黒テレビだった時代に放送された武侠ドラマがあってね。主人公が使うすごく有名な武功で、如來神掌っていうんだ。」
「もしゲームにもあるなら、仏教系だから少林の武功だと思う。金剛宗でも覚えられるかは分からないけど。」
「それってどんな武功?火力型?それとも広範囲攻撃?」
艾莉亞の目は相変わらずきらきらしていた。……そんなに嬉しいものなのかな。
「分からない……。まだ誰も習得してないし、情報も出てないから。でも、有名さを考えたら弱くはないと思う。」
「ふむふむ……」
「それでもダメなら丐幫かな。あそこには降龍掌法がある。」
「ある武侠小説では、あれは最も剛猛な武功って言われてるんだ。威力も期待できると思うし、土属性武功だから金属性とも相性は悪くないよ。」
「なるほど、なるほど……」
艾莉亞が腕を組んで真剣に考え込んでいるうちに、
馬車は長安へと到着した。




