潜入2
『さあ賀露島さん!ミッション成功です!早く戻ってきて下さい!!』
急かすように話すリューノ。
賀露島はまあまあと余裕な態度でリューノを落ち着かせる。
「大丈夫だよリューノ君。山は越えたから後は外に出るだけっていう簡単な仕事だけだよ。」
後は外に出るだけ。確かにその通りである。怖いのは何が起こるか分からない行きだけであり、帰りは一度通ってきた道を静かに帰るだけだ。
賀露島は自身の部屋で点けた魔法具ランプを消して、ゆっくりと扉を開けた。
辺りには誰もいない。
何となくそんな雰囲気がしていた。リューノにも辺りには誰も居ない事は確認できていたし、何とか無事に部屋を出る事が出来た。
リューノはこの時に違和感を感じていた。ピントを戻した際に賀露島がいる第六棟に賀露島以外の姿が見当たらなかったからだ。
何がおかしい。
さっきまで非番の騎士団員は室内にいた筈だ。それが一人残らず反応が無くなっていた。
リューノはこの事を賀露島に伝えようとしたが、突然後ろから扉がノックする音が聞こえた。
ビクッと反応するリューノ。
再びノックの音が聞こえたのでトランシーバーから離れて扉に近づく。
おそるおそる扉を開けると、そこには少年が一人いた。
「...あの~どちら様ですか?」
そんなリューノの問いかけに少年は笑顔で答えた。
「自分最近隣に引っ越してきたラグノ・ナートリティと言います。宜しくお願いします。」
「あーどうも...でも私達は今日で終わりなんですよね。」
「あ...そうなんですね自分理解しました。でも一応お菓子持ってきたんで良かったら食べて下さい。」
リューノは「どうも」と伝えるとお菓子の袋を受け取って一礼すると、扉をしっかりと閉めた。
袋をトランシーバーが置かれている机の所まで持っていくと、そこで徐に袋を開けた。
「うわぁ...これかぁ.....」
リューノはその袋の中身に入っていたお菓子を見て愕然とした。
このお菓子は騎士団土産のお菓子だ。恐らくラグノと名乗る少年は駐屯地に観光してこのお菓子を土産としてリューノに差し出してきたが、自分も騎士団の一員なのでこのお菓子については、あまり物をよく貰っているのでかなり知っている。
「...賀露島さん帰ってきたらあげようかな?」
リューノは袋から取り出したお菓子を元あった状態に綺麗に詰め込んだ。
すると再び扉を叩く音がした。
またおそるおそる扉を開くと先のラグノがまた来ていた。
「あの~..お忙しい所だと思うんですけど少しだけ手を借りてもよろしかったですか?」
ラグノは引っ越しの為に色々な荷物を持ってきているらしく、かなり量があるみたいだ。
しかしその数多くの荷物の中には重い荷物があるらしく、とても一人では持ち上がらないそうだ。
「あっ...でも...」
こう言われてしまったらリューノは弱くなる。賀露島の事が一瞬頭を過ったが、そもそも後は帰るだけなので大丈夫だろうと考えリューノはラグノのお願いを承諾した。
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「リューノ君?リューノくーん.....」
リューノからの応答が無くなった。何かあったのでは無いかと考えていたが、実際もうリューノに頼らなくても問題は無い筈なので賀露島は深く考えない事にした。
ナルタリカを何とか回収出来た賀露島は浮かれながら来た道を歩いていく。
周りの音に耳をすませるが近くからは何の音もしない。
これなら鼻歌を歌いながらでも見つからないだろう。
寮棟を出た賀露島は越えてきた壁に向かって歩く。この時ばかりは少しだけ警戒していたが、静寂に包まれた様子を見ると誰も見回りは来ない筈だ。
成るべく途中で生えている木々に隠れながら壁に向かう。
茂みが無くなり残り100メートル程の平地を走り抜ければ壁に到達する。
賀露島は足にグッと力を入れる。そして最後の100メートルを走って向かう事にした。
だが2、3歩ほど足を動かしてようやく賀露島にもリューノと同様に違和感を感じた。
(駐屯地にしては馬鹿みたいに静かじゃないか?)
駐屯地の周りには民家が無いため、騒いでいても迷惑にはならないのか毎日のように夜でも騒がしかったと思う。
始めに来たときにも若干の騒がしさがあった。
それが今では駐屯地から人がいた消失したのでは?と思ってしまう程に静寂だ。
賀露島はこの時、足を止めた。考えに集中するために。
今まで潜入してからの自分の行動を改めて振り替える。
何か自分は、やらかしたのでは無いか?そう思いながら必死に頭で考える。
そして1つの答えに至った。
「...あっ....もしかしてバレてる?」
そう賀露島が犯したミス。それは部屋のランプを点けてしまった事だ。
駐屯地内とはいえ部屋の中は個人のプライベート空間だ。その部屋の中には無くしてはいけない物が沢山ある者だっている。
そのため自分の部屋は自分でしか開けれないように鍵は1個しか無かった。つまり鍵の持ち主は1人しかいないのだ。
賀露島は規則でここには来てはいけないので、賀露島の部屋のランプが点いた時点で誰であろうと拘束しなければならないのだ。
その瞬間だった。
バシュバシュッ!っと音がした。
その音と共に賀露島を囲むようにランプの光が照らされる。
その光は明らかに賀露島の方を向いていた。
騎士団だ。やはり気づかれていた。
照らされた賀露島はあまりの眩しさに目を閉じる。
こんな光を浴びせられて目を閉じない方が可笑しいと思う程にその光は眩しかった。
「会いたかったぜ間抜けな侵入者さんよ....」
聞いた事がある声の男が一人歩いてくる。その男が近づいてくるのが分かっていたが、眩しすぎる光に目を開く事が出来ないのでその姿は確認する事が出来ないが、何となく誰なのかは察した。
「今からお前を拘束するベイロットって言うんだ。分かったら大人しく捕まるんだな。」
やはりこの声はベイロットだった。声から察するにまだ賀露島の事には気づいていなさそうだ。
こんな時に黒い覆面を被ってて良かったと心から思った。
しかし状況はかなり最悪だ。何十人、いや百何十人って数の騎士団員に囲まれていた。
賀露島もここの派遣騎士なのだが、これほど人がいたのだと改めて思った。
「おい...お前名前は?」
「......。」
ベイロットが質問をするが、答えられる筈がない。今ここで声を出せば賀露島である事がバレてしまう。
ベイロットとはそれなりに喋っていたから直ぐに分かる筈だ。
「あくまで答えないか...今ここで簡単な取り調べを済ませようとしてるのにな?俺達の尋問はちょっとキツいぞ。」
いつも賀露島と話す時とは違う話し方をするベイロットに少し戸惑いがあった。
確かに相手が敵であれば話し方は自然と変わるんだろうが、いつも話をしている人が、全く違う話し方をしたら戸惑うのも無理はない。
賀露島は目を閉じてもまだ視界に入ろうとする光の中で何とかベイロットの方を向こうとする。
その時だった。
ドスッ!
賀露島の腹に拳が打ち込まれる。
突然の攻撃に予想をしていなかった賀露島は崩れるように両膝を着く。
漏れそうになる声を必死に噛みしめて、何とか食い縛る賀露島。
だがそんな賀露島に対して無慈悲にも顔面に拳が叩き込まれる。
「何だ侵入者..相手が騎士だから殴られないとでも思ったのか?」
そうか。部外者が敷地に入ってきたら場合によっては殺しても良いなんて規則だったな。
つまり相手が反抗的な態度をしていれば、何をしても良いって事だ。質問に答えないとか。
眩しい光で目を開けられない賀露島は目を閉じたまま次の攻撃に備える。
この光は厄介な事に一度見てしまった光が常に瞳の中でフラッシュバックしていて、平衡感覚が狂わせてくる。
そろそろ来るだろうと思ったタイミングでガードモーションに入るが、ガード無い所を狙われてしまう為あまり意味がない。
ガードが無い所に攻撃を仕掛けてくるあたり、ベイロットはサングラスか何かをしていて、眩しすぎるこの状況でもハッキリと賀露島を認識している。
だがベイロットがどうやってこの状況でも正しく賀露島の位置を理解しているのかを知る必要な無い。知った所で賀露島にとっては意味がないからだ。
ならば先に思考する事は決まっていた。
(さてこの状況をどう切り向けようか....)
一見ボコボコに殴られている賀露島だが、実のところ然程ダメージは受けていなかった。
ベイロットは侵入者が死なないようにある程度の力を抜いているが、それは一般的な者の感覚で賀露島にとっては子供に叩かれている程度の痛みでしかなかった。
今までの強い敵としか戦ってきて感覚が鈍ってしまっているようだが、賀露島は普通に強い。
力だけならパワートップクラスのフクニーグとだって競う事が出来る。
それのその気になればスキルを使って強力な魔法を出すことだって出来る。
なので自分の命が危ないとか、そういう事は考えていない。どちらかと言えばベイロット達をいかに傷つけず切り抜けられるかで迷っていた。
「おいおい....いいのか侵入者。そろそろキツいだろ?はやく自分の名前を言ってみたらどうだ?」
圧倒的優位に立っているベイロットは煽るように話す。
何故こんな回りっくどい事をしているのかと考えてみるが全く分からない。
だがベイロットの言動や周りの動きを見ると自ずと分かってくる。
(これは十中八九で魔法能力の発動条件だね.....)
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それは賀露島がヨークルトシティを飛び出す前。
賀露島は助けてくれたお礼にとバーミンから他の冒険者と戦う事になったらという事で色々と教わっていた。
「まあまず冒険者足るもの必ず魔法系統がある筈だ。」
「...そうですね。肉体強化系や物体操作系など様々な筈です。」
賀露島はバーミンが話すことをウンウンと頷く。
「そのとおりだ。そんでその中で一番厄介な系統は何だ?」
少し考える賀露島。だがそれは1つしか無いだろうと言わんばかりに答える。
「〈魔法能力〉ですね!」
「...おっ..おうその通りだ.....」
魔法能力は肉体強化・物体操作・属性変換・変形変質のどの系統にも当てはまらない系統で、特殊系統なんて呼び方もされている。
「何で魔法能力が一番厄介な系統なのか分かるか?」
「個性の能力故の応用力とすぐには対策が分からないからですか?バーミンさんみたいに無痛であれば相手の防御なんて関係ないですから」
「うんまあ大体その通りだ...だがそれを魔法能力だと直ぐに見抜く方法が分かるか?」
「え?分かりませ.....」
「おうおう!そうだったか!分からないか?なら仕方がねぇーから教えてやるよ!!」
最後まで言いきる前に待ってましたと言わんばかりに声を上げるバーミン。
この言葉に少しムカついたが教えて貰っているので、ここは歯を食い縛った。
恐らく助けてくれたお礼で教える事になったのだが、どうも彼的にお礼というのが気にくわないらしく教えてやってるって感じにしたかったのだろう。
「こればっかりは言葉よりも実際にやった方が早い。」
そう言うとバーミンは賀露島に槍を向ける。
言葉よりも実際に行動で見せた方が効率的に良いからだ。
「例えば俺とお前は敵同士だったとして俺は槍を持ってるとする。そしたらお前は俺の系統を何と考える?」
「肉体強化系...ですかね?」
「その通りだ。相手が武器を持っていたら普通は肉体強化系を想像する。まあこれがフェイクの場合もあるがな....最初に思い当たるのは肉体強化だ。」
そう言うとバーミンは槍に魔力を込める。その槍にはかなりの魔力が練られていた。
「まあ肉体強化は殆どの奴が持っている系統だからあまり考える必要は無いんだけどな。もし俺がお前にこの槍を刺そうとしたらお前はどうする?」
「.....えぇ..っと...守りますかね?」
引っかけ問題なのかと警戒したが、どう考えても分からないので普通に答える。
「ハハハ!その通りだ。攻撃されたら誰だって守るだろ!」
なんかおちょくってるようにも見えるバーミン。しかしそこが本質だった。
「そうだ当たり前なんだよ。普通の魔法系統であれば当たり前の事を当たり前のようにしてくるんだ。相手が余程の自信家か馬鹿で無い限り、当たり前の事をしてくる筈だ。だが....」
バーミンは言葉を途切ると槍の先を指でチョンチョンと触った。
「もし俺が強力な魔力を込めた槍をお前に放ったとして、それが全く痛くなかったどう思う?」
「それはフェイントをして実際は当たらなかったと思うか、単純に威力が無かったのかって考えます。」
「だがそれは普通に考えてもオカシイと思わないか?」
その通りである。
普通に攻撃すれば良いのにフェイントを仕掛けたりや、本来感じる筈の痛みが無いなど。
例えば剣を持つ男がいたとして、その男が剣を使用せずに戦ってきたら?
端から見れば何故剣で戦わないのか。
当たり前でない不規則な動きをする者に関しては魔法能力者である可能性が高いという事だ。
「つまりだな?回りっくどい奴は確実に魔法能力者だ。無駄に話を続ける奴。持っている武器で戦わない奴とかな?」
バーミンが言う魔法能力者を見分け方には他にもあるだろうし、その方法を逆手に取ってくる者だっている筈だ。
結局は人間によって変わってくるものだ。
だがバーミンが言っている事もあながち嘘でも無さそうだ。まあそれは、あからさまな相手に限った話ではある。




