騎士団駐屯地脱出劇
「さあ名前を言ったらどうなんだ?」
いつまでも喋らない賀露島にベイロットの拳が飛んでくる。
かなり今回は強いのが入ったが、賀露島にとってはまだ耐えきれる程度の痛みだ。
だがずっとこの調子といく訳にもいかない。何とかこの場を切り抜ける方法を探さなければならない。
周りには賀露島を中心に円を描くように10メートル程離れた所で騎士団員達が百何百十人単位で取り囲んでいる。
しかも取り囲んでいる先頭のグループは目が開けられない程の光を魔法具を使って放ってくる。
この状況、普通ならまず逃げられる筈がない。
騎士団も侵入者に入られるのは初めてでは無い。今までもそれなりに侵入されて来たがその度に彼等を捕らえてきた。
その最適かつ安全に捕らえらる方法が今、賀露島に行われている閃光円陣である。
閃光円陣とは敵に対して大勢の人間が取り囲み、先頭グループが目を眩ます程の光を放つ事が出来る属性魔法具を四方八方の位置から使い相手を無力化する戦法だ。
更に目に特殊なゴーグルを付ける事で余分な光を遮断して眩しい光の中でも物がハッキリと見えるようになる為、そのまま無力化した相手と戦う事も出来る。
そんな有利な状況であるベイロットだったが、彼の脳裏で1つの迷いが生まれた。
何故折れない?
平衡感覚を狂わせる光の属性魔法具を受けてまともに動けない中、逃げる事が出来ないままベイロットの攻撃を受け続けているにも関わらず、根をあげない侵入者。
本当にコイツにこの戦法が効果的なのか分からないまま、死なないギリギリのラインで殴り続けた。だが殴っても殴っても諦めない侵入者に段々と殴る力が増していく。
「おい侵入者?いい加減諦めたらどうなんだ?」
イライラが募ってきたベイロットは侵入者の襟を掴む。
だがこれはベイロットにとっては悪手であった。
(それを待っていた!)
ベイロットに襟を掴まれた賀露島は彼の腕を掴むと体を回しながら体に引き寄せ、思いっきり地面に叩きつけるようにベイロットを投げつけた。
これは賀露島の認識オートスキル〈背負い投げ〉だ。
ある一定条件を満たして賀露島がその条件を認識し、発動させる事で自動的に体が動くこのスキル。
このスキルであればストレージを開く必要が無く、フラッシュバックの所為でストレージが見えなくなっていた賀露島にとっては、とても便利なスキルだ。
背負い投げされたベイロットは思いっきり地面に叩きつけられる。その威力は凄まじく軽く地面が揺れる感覚がした。
揺れるどころか地面にはヒビが入るほどの威力。
叩きつけられたベイロットに命の別状は無かったが、そのあまりの威力に動けないでいた。
思いの外やり過ぎたのではないかと思ったが、そもそも眩しすぎて状況が見えないでいる。
そんな状況なら仕方がないだろう。
取り敢えずベイロットは抑えたが、このままでは頭がグルグルと回ったまま逃げられない。彼を止めたとしても未だに治まらない平衡感覚の異常で逃げられない。
ならばそれを次に解決させなければならない。
賀露島は手を懐に隠すようにして周りの死角で何かを取り出した。そしてそのままゴソゴソっと動く。
そして賀露島はそのまま陸上競技で見かけるスタートの構え、クラウチングスタートの姿勢をとる。
何事かと揺れに戸惑う騎士団。そんな彼らの事を確かめる事など出来ない賀露島は構わずにスタートをきった。
ドドドーン!!
立ちはだかる複数の騎士団員達をボーリングのピンみたいに弾き飛ばす賀露島。
その威力は重い鎧を着ている鍛えぬかれた屈強な騎士団員を複数人軽々と吹っ飛ばすあたり、かなりのものだろう。
賀露島はそのまま真っ直ぐと走り抜けて行くと、目をパッと開く。まだ少しボヤけて見えるが壁の位置は何となく把握出来た。
もうあの光による平衡感覚の異常は治っていた。
「おりゃぁぁぁぁぁ!!」
5メートルの壁を飛び越えた賀露島。若干飛ぶ場所が早すぎたように思えたが、結果的に越えられたので、ヨシとさした。
賀露島は涙目になりながらも何とか無事に脱出に成功した。
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「ベイロット副隊長大丈夫ですか?」
賀露島に逃げられ半分は侵入者を追いかける為に駐屯地の外へ向かい、残りの半分は負傷者の看護に回った。
「イテテテ..悪ぃ...やられちまった....。」
「何言ってるんですか副隊長。我々も取り逃がしたのでお互い様ですよ...それに閃光円陣を突破して来るなんて誰が想像できましたか。」
「うむ...あの光を見たら3日は平衡感覚を失って動けなくなる筈なんだがな...?」
ベイロットは近くにいた騎士団員に体を起こして貰い、肩を借りた。
どうやらベイロットは腰から地面に叩きつけられた所為なのか、腰がやけに痛む。
腰を自分でドンドンと叩くベイロットの様子を見て周りにはいた騎士団員達はクスクスと笑い始めた。
「ベイロット副隊長。それではまるでセーシィ隊長みたいじゃないですか」
「...なっ!俺はまだそんな歳じゃねぇーぞ!!」
侵入者に逃げられたと言うのにケラケラと笑う騎士団員達。どうやら彼を取り逃がした事にあまり責任を感じていないようだ。
「おーい何か落ちてるぞ!」
一人の騎士団員が何やら不思議な物体を見つけた。
それを聞いて駆けつけたもう一人の騎士団員もそれを確認すると何やら不思議な形をした何かがあった。
「何だこれ?初めて見る物体だな?もしかして侵入者が落として行ったのか?」
「ウ~ン。俺にも分からん...取り敢えず報告するか...」
「確かにな...この細い針の部分を見るからに何らかの武器に違いない。」
今まで見た事のない何かを拾った騎士団員は、それを報告する事にした。
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「フゥー...何とか脱出出来た.....」
暫く走って細い道をひたすら走り抜けて、追っ手の存在が無くなったのを確認した賀露島は建物の影に座り込んだ。
いい加減暑苦しいマスクを外す賀露島。雑に取った事で髪の毛が変に逆立っていた。
結構な距離を走った所為なのか少し息切れをしていたので、ゆっくり呼吸を整える。
「ハァー酷い目にあった...つい住み慣れた部屋だったから、普通にランプ点けちゃったよ...」
自分の家に行けば、いつもの慣れが出てしまうのも必然。部屋に入るまでは、かなり緊張した気持ちで居られたが部屋に入った途端に変な安心感に包まれてしまった。
まあベイロットには袋叩きされてしまったものの、顔は見られていないので別にいいだろう。
結果で言えばナルタリカは無事に回収できたし、傷も其ほど深くない。
つまり作戦は大成功である。
賀露島は5分位休憩した後、リューノが待つ拠点へと戻っていった。




