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球体の脅威

「あのさぁ?何か言ったらどーなのさぁ?」



ワキューダスケは恐怖で動けないどころか喋ることすら出来ない。


目の前にいる包帯を巻いている少女から放たれる殺気がワキューダスケの全身に鳥肌を立たせる。

耳と尻尾の生えた獣属であろう少女に殺気を浴びただけでビビってしまった。本来獣属のような生物に竜人が恐れを抱いてはならないのに何故か納得する。

彼は知っている。この圧倒的強者からの殺気を。




「...あっ....あう....あ...」

何とか喋ろうと頑張るが異様に震える唇がそれを許さない。




「おい理楊...殺気を無闇やたらに振り撒くなって言ってるだろうが!」



「あっ...いけないいけない..」


理楊はワキューダスケに向けていた殺気を引っ込める。

それにより少し楽になり多少動けるようになったワキューダスケは先手必勝!っとばかりに邪気を込めた拳を理楊にぶつけた。



ドォォォォォン!っと大きな音を出す。

ワキューダスケの拳は理楊の顔面に直撃した。

普通のどんな獣属でもこれ程の威力のパンチを食らえば死は免れない。



しかし振り抜いた筈の拳は何故か止まっていた。いや止められていたと言って良いのだろうか?



よく見ると理楊は何食わぬ顔で顔に手を置いてくるワキューダスケの手を弾いた。

すると、ワキューダスケの腕は細い木の枝に蹴りを入れたようにポキッと彼の腕が消し飛ばした。




「うわぁぁぁぁぁ!!」


痛みで泣き叫ぶワキューダスケ。

クミにも同様に体を真っ二つにされたりしていたが叫ぶ事までは無かった。


クミの攻撃は刀で触れた部分のみが水に変えられる能力の為、傷が綺麗に切断される。

それにより綺麗に斬れた傷を傷だと認識しないので、すぐには痛みとして認識して神経を通して痛覚を脳には伝えないのだ。

つまりバーミンの魔法能力とは関係なく、自然と脳が痛いと認識していないようにしているっと言うことだ。


だが理楊は違う。

手でワキューダスケの腕を弾いただけではあるが、その威力は凄まじく彼の腕が、もげてしまう程だ。

もげた腕は傷口が荒々しく空気に触れる事で痛みが脳に最短で伝達するのだ。


他人の痛々しい現場を見てしまった人が同様に同じ痛みを感じてしまう視覚的痛みがワキューダスケを襲っていた。



「わあ..!?何かごめん!見た目で多少なら大丈夫だと思ったけどアンタかなり脆いじゃん!!」



軽く?その場にいたフクニーグやクミ達は驚きで口を大きく開ける。


あの竜人が相手である。禍々しく存在感を放っているあの大きな翼は後から見たものでもドラゴンの羽だと分かるぐらいだ。

そんな伝説の生き物を手を弾いただけで腕ごと持っていくなんてフクニーグ達でも予測出来なかったのに、理楊を知らないクミにとっては相当な驚きようであろう。



「え?ちょっとアンタ達何やってんの?口開きっぱなしにして... 間抜け面も良いところよ?」



前にもあったかもしれないが、彼女といると驚きの連続である。

自分達では足元にも及ばなかった強敵に対しても自分達と同じ扱いをしている事に驚きは隠せないだろう。



そんな中でワキューダスケの体が段々膨張していた。



「ぬおおおおおおおお!!」



着ていた服は全て破れ、体はみるみる鱗のような皮膚に覆われ色も黒色に変色していく。

彼の体は、ますます大きくなり約8メートルはあるだろうかという程に大きくなった。


それは正に誰もが歴史で学んだドラゴンの姿だった。




「これが僕の全力だよ?この怪物が..死ねぇぇ竜光砲!!」


そう叫んだ声はナンヨーン全てに響き渡る砲口となり、やがてその口の中が激しく閃光する。そしてーーーー。



ズドドドドドォォォォォン!


閃光は、やがてワキューダスケの口から巨大な光線となって理楊に放たれた。

この時、理楊は瞬時に両手に掴んでいたフクニーグとバーミンをそれぞれの方向へ投げ捨てた。


そして理楊は逃げる暇なくワキューダスケの光線に呑み込まれた。




「おい!理楊!!」



理楊は恐らくワキューダスケから放たれた光線を避ける事は造作も無いことだろう。

だが理楊は敢えて避けなかった。それはフクニーグとバーミンは分かっていた。



「俺達を逃がすために...」


そう理楊は両手にフクニーグとバーミンがいた。例え彼等を持っていた状態であろうと逃げる事は可能だったであろう。

だが問題は理楊の速度であった。

理楊はこの世界に来てから自分でも驚くほど速くなっていると自覚していた。

故に彼女のスピードが果たしてどれ程の速度であるのかは彼女自身分かっていない。



惑星には重力が存在する。

それぞれの惑星でその強さは異なるが、惑星の持つ中心へと引っ張る力がどの惑星にも存在する。

この惑星とて重力が存在し、こうして地面に足が付けていられるのも重力のお陰だ。


そして話を戻して何故理楊はフクニーグ達を持ったまま避けなかったのか?


それは過剰な重力負荷を恐れたからである。

仮にこの惑星の重力を1Gとする。Gは1ずつ増えることで力が2倍、3倍となる。


普通の人はこのGが4Gから5Gまでであれば何とか耐えきれると言われているが、それでもかなり危険な状態のようだ。

6Gまでいけば気を失ってしまうレベルだ。


このGが増えるのは重力に対しての抵抗力が関係している。



実際に水の中にソッと手を入れても何とも無いが、思いっきり叩きつければ叩きつける程、その反動は大きくなり痛くなる。


何もない空気にもそれはある。重力という力が働いているにも関わらず、その重力よりも強い力で動けばその反動が体に返ってくる。



理楊の速度は計り知れない。彼女が一瞬で動く間にどれだけの重力抵抗を受けているのか分からない。

理楊であれば8G位の力を受けていてもおかしくはない。


そんな速度で動けば魔力を使い果たしたフクニーグ達で耐えられるだろうか?

それに生身であれば風の抵抗も発生する。

そんな危険がありながら理楊は彼等を持ったまま動けるだろうか?



理楊は飛んでくるワキューダスケからの光線を見て少し考えた。

そして判断する。そう彼等を左右に投げつけ光線から遠ざけた。



彼等を持ったまま避けるのが危険なら、危険じゃない方を選べばいい。


そう彼女は。

光線を受け止める事にした。




ワキューダスケの放った光線は遥か彼方まで吹き飛んでいった。

その光線に触れた建物は全て跡形もなく消え去っていた。

そしてそこには理楊の姿も無かった。




「.....クク...キャハハハ!どうやらあの女は綺麗サッパリ消えてしまったみたいだね?」



あまりの威力の光線にフクニーグ達は動けないでいた。

そもそも動けなくなってはいるが、これは驚きのあまり動けなくなっていた。



「りっ...理楊が....負けた?」



実はフクニーグとバーミンは光線の威力で驚いていたのではなく、理楊が跡形もなく消えた事だ。

あの理楊が負けたのか?


フクニーグは驚きで動けなくなっていた。




「ククク...僕のこの姿を見た者は皆等しく殺さなきゃならないんだよね?だから死っ....」



ワキューダスケはフクニーグ達の方向を向き違和感に気づく。

それはバーミンの服装であった。



「...え?君...何でパンツ一丁なの?」



「...はぁ?って何じゃこりゃ!?」



バーミンの体を見るとバーミンは上半身裸の下半身がパンツの下着と靴下と靴のみだった。



「ちょっとバーミン殿!クミはこれでも女の身でありますよ!?そのような格好は(いささ)かどうなのかと思うであります!!」



「いや...待ってくれ!俺じゃないぞ!俺は服を脱いだ覚えはないぞ!!」



露出狂じゃないのかとこの場にいるクミから疑いの目を向けられるバーミン。

しかしこれは本当にバーミンがやった事ではなかった。




「ごめんバーミン...アンタの服はアタシが貰ったよ!!」




ワキューダスケは声がする方へ振り向く。するとその方向には理楊が立っていた。

彼女は先の光線で服と包帯が消えたらしく、あの一瞬でバーミンの服とズボンを破って彼女の大事な所にグルグルと巻き付けていた。

彼女が包帯していた所はまだ少しだけ火傷の跡が残っていた。




「なっ...何で生きてるんだ!僕の全力の魔力と邪気を混ぜた竜光砲をどうやっ....!?」


彼女の体を見るにあまりダメージは被っていないようだ。あの火傷の跡だって竜光砲で出来た傷とは考えにくい。


ワキューダスケは再び戦闘体勢に入るため叫ぼうとした時である。またこの一帯は理楊の殺気に覆われる。

殺気の対象であるドラゴンのワキューダスケは再び動けなくなっていた。

しかもただの殺気ではない。

本当に怒っている殺気。先程の冗談混じりの殺気ではなく、本気で殺すと心から思った時に出る殺気だ。




「アンタの口から出てきたビームの所為でアタシの服が消えちゃったんだけど...どうしてくれんの?」



弁解の余地などワキューダスケには無い。確かに彼の口から出てきた光線である竜光砲が理楊の服を燃やしたのだから何も言えまい。


魔力も邪気も無いこの世界では言わば無能者で獣属であろう彼女からハッキリと殺気のオーラが目で見える。

こんな女がまだ居たのか。殺気の凄まじさで言えば主よりも上かもしれない。



これ程の殺気を直接受けてしまったらフクニーグやバーミン達なら今頃頭がおかしくなっていただろう。




「...ククク..確かにあの方の殺気では君の凄まじさには勝てないだろうね?だけど君の殺気はあの方に比べて....」



ワキューダスケは再び口を大きく開き、口から眩い閃光が発生する。




「純粋過ぎるんだよね?」




眩い閃光と共にワキューダスケの口から光線が発射される。その寸前であった。




ドォォォォォン!っと激しい音と共にドラゴンの姿になったワキューダスケの顔は理楊の拳で一瞬の内に消し飛んだ。

そんな肉塊となったワキューダスケの光景を見てフクニーグとバーミンはフッと笑っていた。

少しだけ焦ったものの、やはり理楊が勝った。その安堵から、つい笑みが溢れたのだろう。



その一方でクミは相変わらず驚いていた。最早自分の知る知識では到底語ることが出来ない出来事が目の前で起きている。

恐らくクミはこの戦いについて他者に説明しても信じられないだろう。

「馬鹿げてる」なんて言われるだろう。

だが説明出来る事は、それだけなのだ。



だがまだ終わってない。



「不味いであります!奴は生き返るであります!!」



そうあの旗が建てられている限りワキューダスケは殺されても死なない。

どれだけ殺そうと旗を建てた場所から何度でも生き返るのだろう。


これ程の魔法能力であれば何かしらのリスクはある筈だ。

しかし弱点と言える弱点が見つからない。それに魔法能力に関わらず魔法を使用すれば魔力的痕跡である魔痕が残るものだ。


だが手に触れたあの旗には魔力の反応がなかった。つまり旗には魔法能力の影響は無いと確定した。だがクミの勘は確実に旗をワキューダスケが生き返る事に関係があると確信していた。


だが魔痕が無ければ、こうなってしまっては、あの旗について何も分からない。




「おお..タケチタ。それについてはだな?理楊に任せとけば大丈夫だ。」



「...そうでありますか...?」





ーーーーーーーーーーー





近くに誰も居ない瓦礫の山がゴソゴソと動き出す。

その中からは人間の姿をしたワキューダスケが破れた筈の服を着て現れた。




「ふぅ...何て獣属なんだろうね?あんなのを相手にしてたらどれだけこの旗で生き返っても足りないよね?」



ワキューダスケは予めクミとの戦闘中に建てて置いた旗を引っこ抜く。

借りた物なので返さないといけない。

手に旗を握りしめ、探知される前に逃げなければならない。

だがーーーー。



「へぇ~アンタ生き返るんだぁ~。それもこの旗ってわけなんだ~。」



ワキューダスケは声が聞こえた方を向く。何とそこには離れた場所にいた筈の理楊がいた。




「なっ...何でここに!?」



「何でって言われてもアンタ殺す為に決まってるじゃん?突然死体が無くなったら普通探すでしょ?」



探したというのか?

何処に旗が建てているかなんて理楊は当然知らない筈だ。


探知結界を使えばそれに気づけるし、マーキングされたわけでもない。

距離もそこそこ離れているし、ワキューダスケは可能な限り気配を消していた筈だ。




「どうして居場所が分かったんだ!?」



「はぁ~?何でアンタがキレてんのよ?キレてるのはアタシの方じゃん?」

大きく舌打ちをする理楊。

かなりのご乱心の様子だ。


これ程の圧倒的力を持ってはいるが、まだ精神年齢的にも見た目も子供である為、情緒が不安定であるので怒りっぽい。



ワキューダスケは詰んでしまった。


旗はもう手元にある一本のみで、今はこれを引っこ抜いてしまったので旗の効果は無くなっている。

つまり今は生き返る事が出来ないので実質殺されれば完全に死んでしまう状態だ。



その時だった。上空より気配がする。

これは何かが落ちてくる。そう空から激しく輝く太陽のような球体が降ってきていた。



その大きさはフクニーグ達の頭上に落ちてきたものよりも3倍は大きな球体だった。



流石の大きさに理楊はその球体を目を細めながら見上げていた。

これを好機に逃げ出すワキューダスケ。


理楊はそれに気づいていたが、こんな球体が落ちれば被害はこの町だけで収まる筈がない。




それを別の場所で見上げていたフクニーグ達。最早彼等にこの球体からの脱出手段は無い。


フクニーグとバーミンとクミの3人は死を覚悟していた。だが何故か妙に助かる気もしていた。




隕石のように迫ってくる光輝く球体。それを見上げながら理楊は大きく溜め息を吐く。




「ハァ~...取り敢えずはこの辺のガラクタで良いよね?」



そう言うと理楊はあまり型崩れのしていない建物を両手で崩れないようにソッと持ち上げる。

その大きさは13階位の高さはあるだろうか?ガラクタと呼ぶには、あまりにも大きくまだ生活しようと思えば出来なくはない普通のビルだ。



理楊はそれを球体目掛けて放り投げた。






ーーーーーーーーーーー





凄い勢いで飛んでいくビルを見ていたフクニーグ達。

そんなあり得ない筈の光景をフクニーグ達は真顔で見上げていた。


もう大概の事では驚く事は無いだろう。フクニーグとバーミンは勿論の事、クミも理楊と言う少女の異常さに慣れつつあった。




「フクニーグ殿...今クミにとって今世紀最大のピンチでありますが、拍子抜けしてしまったであります....」



「...ん?..あぁ....拍子抜けって言うかだな?変な安心感があるんだよな...?」




もう光る球体がそこまで来ているにも関わらず冷静にフクニーグに問いかけるクミ。

それにフクニーグも同じ感じで答える。



あの球体がナンヨーンに落ちれば彼等に命は無い。そう確信できる程にアレは危険だ。


しかし理楊と言う存在が仲間というだけで、どれだけ危険な状態でも妙な安心があった。




「おっけ~。それじゃあマジで皆出来るだけ頭伏せて最後の力振り絞って身を守ってなよ?」



理楊が何処からともなく現れる。もう彼女は何処にでも居るのでは無いのかと錯覚してしまう。


そんな理楊はゆっくりと息を目一杯吸い込む。

そんな理楊からジェスチャーで3人固まるように指示をしてきた。



フクニーグは頷くとバーミンを抱えフラフラとクミの方へ歩いていく。



そして。

空から迫り来る球体に理楊が放り投げたビルが球体に直撃し、上空で大爆発を起こす。

地面には落ちなかったものの、まだ爆風だけでここまで来そうだ。

爆風は球体が落ちてくるスピードよりも速く迫ってきた。この爆風でも今のフクニーグ達なら潰れてしまいそうだ。


その時、理楊が大きく吸っていた空気を勢いよく吹き出し、理楊が吹き出した空気は球体の大爆発の爆風を簡単に押し退けた。



理楊はフクニーグ達を救った。それどころか彼女はナンヨーンの消滅すら救ってしまった。




「ふぅ...取り敢えずはセーフって所っぽいね。まあ後は....」




理楊は空を見上げると、散りばめられたガラクタの鉄を一瞬で集めて両手で握りつぶしていく。

5メートルは長さがあった鉄骨を紙のように丸めていく理楊。フクニーグ達もそれを見て、その鉄骨は本当は紙で出来ているのでは?と錯覚してしまう程に鉄を簡単に丸めていく。


そして握りこぶし位の大きさの鉄で丸めた鉄球が理楊の両手の中から現れた。




「おぉ...あの大量の鉄骨がそんな小さな玉になっちまったぞ!?」



「ん?まさか気になる感じ?別に良いけど怪我しないでよ?」



理楊が丸めた黒い鉄球をフクニーグに渡す。すると、どうだろうかフクニーグは鉄球を持った瞬間鉄球ごと地面にズドンと落ちた。



フクニーグ手がボキッと嫌な音を出すと彼は痛みで叫びだした。




「ぐおおおおおお!いってぇーー!!」



フクニーグの手ごと地面に落ちた鉄球は地面にあまりにも重いのか5センチ程めり込んでいる。勿論フクニーグの潰されている手も一緒だ。



その様子を見てすぐに鉄球を持ち上げる理楊。フクニーグの潰れた手を見て「だから言ったのに」と呆れた様子で溜め息を吐いた。



そして理楊はその鉄球を持って空をジーと見上げる。そして理楊は何かを見つけたように鉄球を持った手を大きく振りかぶる。




「え?理楊ちゃん何やってるの?」



バーミンが不思議そうに質問をする。




「何ってこれを投げるに決まってるじゃん。」



「何処へです?」



「何処って...そんなのアンタでも分かるじゃんか。ほらあの浮いてる奴!」



バーミンは理楊が指差す空を見上げるが彼に見えているのは何も居ないいつもと変わらない空だった。



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