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経験

ワキューダスケは竜人として沢山の敵と戦い、その殆どを葬ってきた。

同じ魔族や偶然居合わせた冒険者や獣属達。本当に様々な生き物と戦ってきた。それに彼は昔ではあるが魔族軍として戦ってきた経験もある。


勿論彼が負ける事も希にある。同じ種族の竜人や意外と神獣にも会った事もある。

あの時は出会ったのが巫女で無くて良かったと感謝している。

そして1度だけ人間に負けた事がある。



人間を下等な種族と認識しているワキューダスケにとって人間に負けると言うことは彼のプライドをへし折る事になる。

そんな事があれば彼はノウノウと今を生きている訳がない。



しかしワキューダスケにそんな悔しい思いは何故か無かった。寧ろ清々しいものであった。

だってその人間を彼はーーー。






人間と言う認識からその者を外すのに時間が掛から無かったからだ。



そうその者はどの種族にも当てはまらない。

だからワキューダスケはその者に簡単に元に下る事が出来た。


かつて魔族軍の王だった自分の主である魔王に()えて、激しい戦乱を駆け抜けてきたワキューダスケ。

王亡き後は司令塔を失い、誰にも見つからぬようヒッソリと暮らしていたワキューダスケだったがその者との出会いにより、新たな主が彼には出来た。


寧ろ今では人間であるその者に敗れて感謝している位だ。




ーーーーこの世界を塗り替えてみたくないですか?ーーーー



この言葉で彼は何の迷いも無く、その者の配下になった。

その者は退屈だったワキューダスケに一筋の光を与えてくれたのだ。




ーーーーーーーーーーーー





「へーそうなんだ?でも経験としては僕の方が長く生きてるし、かつての戦争にだって参加した事があるんだよね?」



確かに魔族軍と連合軍との戦争は1度しか無く、その戦争に参加したと言うことであれば彼はかなり長く生きてきた事になる。




「人間って本当に脆いよね?弱いくせに寿命が100年しか無いんだよね?」



熟練の魔法使いであれば100年という限りではないが、それでも精々200年ちょっと位だ。

巫女の場合は例外中の例外で元は人間であるが神と等しい存在の為、寿命で死ぬ事はなく殺されて死ぬか、他の者に巫女の位を譲って寿命で死ぬかの2つだ。

因みに余談だが巫女は巫女になったその日から命の時計は静止するのだ。


だが魔族である竜人は平均でも1000年は生きると言われている。




「ですがその戦争の後に人間は魔法を沢山極めて来たであります。人間の強さは成長し、学んできた事でありますよ?」



「ククク...それじゃあ、まるで.....僕達が成長して来なかったみたいじゃないかぁぁぁ?」



ワキューダスケは拳に邪気を込めて突っ込んでくる。するとそれを見てクミは空かさず左目を開く。



きた。

クミの能力が発動している。



ワキューダスケは、この瞬間に足を止める。恐らくこの距離からの攻撃では流石に避けられてしまい逆に斬られてしまう。


彼は1度止まりクミの行動を警戒しながら少しずつ近づいていく。

そして苦しい表情を見せだしたクミ。どうやら左目を開くのが限界に達してきたようだ。




(君が左目を閉じた時、それが君の最後だよ?)



ワキューダスケは少しずつクミに近づきながら、その左目が閉じられるのを見る。




しかしクミはここで動く。

何とクミは刀を放り投げたのだ。

クミから放たれた刀。彼女の左目は開いたままだ。

彼女の魔法能力が発動する条件として手に握っている武器のみだと言う結論は出ていない。

つまり彼女の手から離れた飛んでくるこの刀に魔法能力が発動しているかもしれない。



当然ワキューダスケはこれを避けた。スピードは、それほど速いものではない。

彼はこれを体を斜めにしてギリギリで避けた。


その際に少しだけ邪気を刀に触れさせる。すると邪気は綺麗にスパッと斬れた。

つまり離れていてもクミの刀は魔法能力を使用できる事が分かった。



ワキューダスケは魔法能力者との闘い方を完全にマスターしていた。



しかしワキューダスケは見た。クミが笑みを浮かべている事を。




「やっぱり貴方はまだまだ経験不足であります。魔法能力だけが魔法の闘い方では無いでありますよ?」



クミは指をスッと振る。

その刹那であった。ワキューダスケの体がスパーンと真っ二つになっていた。




何故?ワキューダスケはまた疑問だけが頭に過る。

遠退く意識の中でワキューダスケは飛んでいった刀の方角を見る。



すると、そこには衝撃的な光景が見えた。



刀が横に移動していたのだ。その動きはまるで、クミを中心に円を描くように動いている。


クミは指をピンッと引くと刀が彼女の元に戻ってきた。その行動を見てワキューダスケはある者に気付いた。



糸。刀の持ち手部分にオーラで出来た糸が絡まっていて、その糸はクミの指から発せられていた。

つまりクミはこの糸を使って予め絡めておいた刀を操作していたのだ。



「貴方は魔法能力にばかり気を向け過ぎているであります。相手がどんな魔法系統使いなのか警戒していないのは経験の無さの表れでありますよ?」



「寧ろ魔法能力者である方が珍しいでありますから、本来は魔法系統から探るものでありますがね?」



消え行く意識の中でワキューダスケは笑みを浮かべる。

彼はまた1つ学ぶことが出来たのだ。喜びで笑わずにはいられない。




「....ククク...これで次に.....生かせ....」



倒れるワキューダスケ。しかしまだ終わってはいないクミは、まだ分かっていないワキューダスケがどうやって生き返っているのかを。



そんな事を考えながらワキューダスケの体が消えたのを確認する。

するとーーー。



クミのすぐ真後ろの瓦礫の中からワキューダスケが出てきた。




「これでまた僕は成長してしまいましたねぇぇぇぇ?」



真後ろで邪気の込められたワキューダスケの拳が迫り来る。その距離からしてクミは避けられない。


本来ならクミはここで振り返り、両手で刀を握り魔力全開で守る体勢に入る筈だ。



しかし彼女は振り返る事なく敢えて刀をフッと片手で彼に向けた。



何だその守りの構えは?バカにしているか諦めているようにしか見えない。


だが何かを企んでいるにしてもワキューダスケには関係ない。

策があるならそれを見せてもらうだけだし、諦めているのならそのまま殴り殺すだけだ。



思いっきり拳に邪気を込めるワキューダスケ。彼はその刹那で背筋にヒヤッと冷たいものを感じた。


振り返るクミの左目が開いていた。



何かくる!この人間は諦めちゃいない!


だが拳は止めない。



ワキューダスケはそのまま拳を刀目掛けて振り抜いた。するとどうだろうか。

彼がクミを殴らんと振るった拳が彼女の刀に当たった瞬間、空気のように消えていった。



腕が消えた事により、肘から大量の血が漏れ出すワキューダスケ。



また疑問が頭を過る。



そんなワキューダスケを余所にクミは左目を閉じて地面を掘りあげるように刀を下から振り上げた。


地面を掘りあげた事により大量の瓦礫と砂が宙に舞う。




「貴方は本当に経験不足であります。まさかここまで上手く事が運ぶとは思わなかったであります。」



「...どっ..どういう事だ!?どっ.. どうして僕の腕が空気みたいに消えたんだぁぁぁぁぁ?」



クミの能力は刀に触れた部分を水に変える能力の筈。彼女だって自分でそう言っていた。



「だからでありますよ?そう言う能力の決めつけが経験の浅さを物語ってるでありますよ?」



決めつけ?どういう事なのか?

つまりである。つまりクミの能力は他者の体を対象の武器で触れた所だけを水に変える能力では無かったと言う事なのか?



「今度こそ冥土に持っていくでありますよ?」




瓦礫が沢山空から降ってくる中でクミは1つだけ何かを掴んだ。

それを見たワキューダスケは戦慄する。



クミが手に掴んでいる物。それは小さな旗であった。

そうこの旗がワキューダスケが死を無かった事にしていた物である。



「どっ...どうしてそれをぉぉぉぁ?」



「簡単でありますよ?貴方が同じ場所で2回も現れたら、その場所にある物を疑うのは当然でありますよ?」



「だけど..何故僕が生き返る謎がそれだと分かったんだ....?」



クミは手に持っていた旗をポキッと折り、そこら辺にポイッと捨てる。

そしてクミは子供と喋るような感じでニコッと微笑む。




「貴方がクミを建物内で叩きつけた時に何かを一緒に落したでありますね?普通にあんな旗を不自然に投げていたら誰でも気になるでありますよ?」



「ククク...そう言う事だったんだね?本当にスゴいね?」




ワキューダスケは拳に今までに無いほど拳に邪気を込める。恐らくこの拳に全ての邪気を込めたのだろう。



クミもそんな彼に刀を両手で掴み、頭上の上で構える。



そしてお互いの拳と刀がぶつかりあった。



するとどうだろうか。

ワキューダスケの体が煙のように散りばめられた。



それを見たクミは力が尽きたように地面に倒れ込む。

力はもう使い果たした。そんな感じであった。




「もう戦えないであります.....」



そんな彼女に歩み寄ってくる足音が聞こえてきた。

そしてそれがクミの顔を覗きこんだ。



それを視界に捉えたクミは大きな声で笑った。

なんとそこには全く無傷のワキューダスケが立っていた。



「本当に最後まで君はスゴいね?人間にしては僕をかなり追い詰めてたよ?あの人の旗が無かったら君に3回は殺されてたんだからね?」



ワキューダスケは称賛した。生まれて600年以上の時が経って初めて人間に対して称賛した。


国を守るためと玉砕覚悟で突っ込んできた命知らずの勇敢な人間達ですら彼にとっては称賛に値しなかったが、自分を何度か殺した人間の努力と成長に対して彼は称賛をせざるを得なかった。


クミだけではない。彼は全ての人間達に対して彼女を通して惜しみない称賛を感じた。




「もう人間族を下等な生物とは僕は認識しないだろね?それは君が教えてくれたんだ...だから君はもう眠りなよ?」



ワキューダスケは拳に邪気を込める。もう動けないクミを殺すため。


クミは左目と同様に右目もゆっくりと閉じる。クミは死を受け入れたのだ。



「やっぱり旗はもう一個あったでありますね....」



「君と闘っていたらどうも一個だけじゃ足らないと思ってね?もう1つ付けていたんだよね?」



そう本来の魔族ならクミは勝っていたのだ。だがクミは魔法能力者との闘い方を学んだ強者だ。そうなった魔族は最早人間では勝てないのだ。


人間の最大の強さである魔法学での知恵と戦闘スタイルを魔族が覚えてしまえば人間に取り柄などない。

まさに全てにおいて負けているのだ。



「それじゃいくね?」



ワキューダスケは邪気が込められた拳を降り下ろす。




その時だーーーーー。






「痛い痛い痛いです!!」




「諦めろバーミン....俺達にはどうにも出来ん...」



何処かで聞いたような男2人の声が聞こえる。そしてもう1人が声を出す。




「...もう煩いな~.....」




その一言でワキューダスケは恐怖で拳を止める。


ゆっくりと振り返るワキューダスケ。

そこには男2人の服を引きずりながら歩いてくる包帯が巻かれている黒髪ツインテールの小さめの女の子がいた。




「ん?何アンタ見てんの?殺すよ?」



感じたことのない程の殺気を浴びるワキューダスケ。

彼の体はもう全て動かす事が出来なかった。



そんなワキューダスケが震えるのを見ていたクミも恐怖で震えていた。


そうクミがこのナンヨーンに来るキッカケになったこの殺気。間違いなく彼女のものだ。



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