マカロゲッティー
謹慎期間2日目。
昨日は色々と物件を探し回り、半日を使用して何とか謹慎期間を過ごす為の宿を取る事ができた。
その日はあまりにも動き続けたので3人共に疲れてしまい、ベットに飛び込むとそのまま眠りに就いた。
そして今日!謹慎期間2日目!!
思いっきり楽しもう。
「さあ起きるんだよマチ!太陽さんの日差しが気持ちいいのは今だけだよ!!」
「~ん..。まだ..眠たいよ..お兄さん~...」
ベットの毛布に、しがみついて寝返るマチ。毛布を剥がそうとするが凄い力で抵抗してくる為、これ以上は毛布が破れそうになったので諦めた。
「まあまあ賀露島さん無理に起こすのも可哀想ですよ。それに子供は、よく食べてよく寝るですよ?」
「うん..確かにそうだね...なら僕達だけで行こうか。」
僕とリューノは朝早くから外に出て何かを食べに行く事にした。
大都市イチヤナとて流石に朝早くは騒がしくはなく。小鳥の可愛らしい声が聞こえてくる位に静かだ。
チュンチュンと聞こえてきた綺麗な音色を少し聞き入っていた。
「賀露島さん!聞いてますか?」
「..あーゴメンゴメン。何だったかな?」
「もう..しっかりしてくださいよ。この時間からやってるお店なら酒場なんてありますけど..。」
酒場。酔っぱらい達が常にドンチャン騒ぎしているあの場所はお酒を完全に絶つと決めた僕にとっては、かなり辛い場所である。
「ゴメン..そういう所は朝からは無理かな?」
「..そう...ですね..。なら後は入った事が無いんですが..喫茶店なんて所がありますが。」
え?そんな事を言われると戸惑う。
喫茶店という文化がこの世界にもあるのかと戸惑いを隠せない。
「ならそこに行こうか!」
「ええ。私も行ってみたいと思ってました。これを機に私も喫茶店を体験したいです!」
僕はリューノに喫茶店があるという方向に手を引かれる。
するとその店の前に着いた。
見た目は木材で建てられた古い雰囲気を漂わせるオシャレな感じの建物がある。
前にいた世界でも此所まで古い雰囲気をオシャレに見せる喫茶店は中々見られないだろう。
扉を開けると扉の上の方に付いていた鈴がチリチリンと綺麗な音を出す。
その音と共に室内へ足を踏み入れると、少し薄暗いが小さな明かりがポツポツと点いていて大人なゆったりとした雰囲気を出している。
それに朝が早いからなのか僕たち以外には他に客もいなさそうだ。
「うおお..かなりの高クオリティー...」
「凄いですね..喫茶店はこんな感じだったんですね...騎士団の人達が行かない理由が分かりました。」
こんな大人しい雰囲気の所に騒ぐのが好きな騎士団員が行ってはいけない。
何となく僕もそんな気がした。
「とっ..とりあえず席に座りましょうか...」
「そうだね..早く座ろう。お腹も空いてきたし。」
この世界の喫茶店と呼ばれるお店は、前にいた世界で言うとバーなどに似ていたが喫茶店と言えば喫茶店のようにも見える。
カフェと言っても良いのかもしれない。僕自身あまりそういう場所には縁が無かったので、うる覚えだ。
結局2人が座った場所はカウンター席だった。
なぜワザワザこんな席に座ったのかと言うと、テーブル席がいくつか並んではいたがリューノがカウンター席に座ったので僕も、やむなく座った。そういう事なのだ。
「お客さん..何にしますか?」
カウンターの向かい側にいた赤い半袖シャツにその下には長袖の緑のインナーを来ていた店員らしき渋い男が小さな声で接客をする。
あまり無駄な声を出さない寡黙なタイプの人だ。
男はメニューが書かれたメニュー表を〈物体操作〉魔法で僕達のテーブルの前にいた置いた。
「うわぁ..あの魔法ってやっぱり凄く便利だね。持ち場を離れずに物を運べるんだから人員いらずだ..。」
「魔法は戦いでのみ使用される訳ではありません。冒険者や騎士団にならない人が大半です。そんな人達だって魔法は使えるんです。」
確かにそうだ。この世界は僕のような魔法が使えない無能者と呼ばれ迫害されるのは人口的に極僅かだからだろう。
無能者が人口的に少ない極僅かならば、それ以外の人は魔法を使えると言うこと。
騎士団や冒険者なんて総人口の3割も居ない。
なのでその殆どが戦いで魔法を使用していない事になる。
「なので皆さんはそれぞれの魔法を業種に合わせて使ってるんです。仕事によっては、その魔法系統が使えないといけないなんてものもあるぐらいですから。」
消防士は水魔法なんかを使える〈属性変換〉とか、工事現場では荷物を運ぶ為の〈肉体強化〉や便利な道具に変えたり出したり出来る〈変形変質〉なのだろう。
それぞれに考えれば色々な職業で色々な魔法が使える。恐らく魔法が使える者ほど優秀なのだろう。
だから魔法の使えない無能者が余計に迫害されるわけだ。
「だから僕みたいな無能者が住みにくい世界なんだね。」
「.....。」
リューノはこの言葉に沈黙する。
僕の言葉に何も反論出来る事なんてない。そういう世界なのだから。
「まあまあさあメニューも貰ったしリューノ君も早く決めては?」
「...え!?あっ..はい...。」
とりあえずメニューを見る賀露島。しかしここで嫌な事に気づく。
(何これ..読めない...。)
絵がなく文字しか書かれていないメニュー表。
ある程度のカワモラ文字なら読めるようになった賀露島であったが、ここにきて初めて見る単語にぶち当たる。
かろうじてサンドイッチとか、ご飯とかそう言う名詞は分かる。
だが明らかに文字がグチャグチャに混ざりあった固有名詞みたいなのは分からない。
カワモラ文字は文字が絡み合う事で意味が色々とガラッと変わったりする。
学校に通っていた時も賀露島と書いた筈なのに、文字を一文字間違えただけでゴリラって書いていたらしい。
テスト返却の時にゴリラくんと先生に呼ばれて、意味を理解した時は凄く顔を赤くしたのを覚えている。
ヤバイどうする!!
「あの~スイマセン..注文良いですか?」
ここは安全対策でリューノ君と同じメニューを頼もう。
「ここは無難でマカロゲッティーを1つください!」
..マカロゲッティー!?なにそれ?そんな事がこのメニュー表には書かれているのか!?
そりゃ聞いたこともないし、見た事もねぇよ!!
てかマカロゲッティーって無難なの?
「..あれ?賀露島さんは何にするんですか?」
見た事も聞いた事も無い食べ物に戸惑う賀露島だったが、1つの答えを出す。
「...いっ..一緒で...」
賀露島は額を机に付けてカウンターにいる店員に見えるように人差し指を上げてリューノと同じものを頼む。
その時、少し手が震えていたのは黙っておこう。
カウンターの渋い定員の男がマカロゲッティーを作る為に水を入れた鍋に魔法で火をつける。
「おぉ。あの方、多才ですね..。プロの料理人であれば当然かも知れませんが。」
「そういうものなのかもね?」
基本魔法系統は1つだけの人が多い。2系統使える人は才能があると言われるほどだ。
まあそれでも2系統使えても中途半端で終わる人も入れば、1系統を天才と呼ばれるほど極めるもいる。
「多くの系統が使える者を優秀と言われるのは実力主義の冒険者にも言えますが、騎士団は魔法を重要視してませんので無能者だろうと実力があれば身分関係なく重宝されますよ?」
明らかに僕に対して言っている言葉に「騎士団に正式には入りませんよ」と呆れながら言うと、リューノは残念そうな顔をしていた。
しかしやはり僕は冒険者であって騎士団では無い。ここは譲れない。
「まあ派遣騎士として籍を入れてくれるのであれば何時でも騎士団員として駆けつけるよ?」
「流石賀露島さんです!私感激しました!!」
僕の手を握り感動したように目を輝かせるリューノ。
大袈裟ではあるが、悪い気はしない。
「ハイ~!お待ちどう様でで~~す!!」
そんな話をしていると、いつの間にか眼鏡をかけた女性の定員が丸いオボンを持ってきた。
服装は大体カウンターにいる男と同じような格好だが、ヒラヒラしたスカートを履いているのは恐らく違うだろう。
その女が持ってきたオボンの上には二皿料理が乗っていた。
「お待たせしました~。マカロゲッティーになります!」
そう言われ僕の机の上にマカロゲッティーが置かれた。
見た目は何とも言い難いが、一言で言うのであれば言葉通りの長いマカロニとスパゲッティーが混ざったような感じだ。
マカロニはマカロニサラダなんかに使われるている、あのちくわのような奴だ。
それが普通の麺のように長く、スパゲッティーのような赤い見た目をしている。
何と言うのだろうか。
食べれそうではあるが、あまり美味しそうには見えない。
そんなマカロゲッティーがリューノの前にも置かれるとリューノは「美味しそうですね!」と手を合わせた。
すると手元にあるフォークで長いマカロニを刺してクルクルと丸めだし、そのまま口に運んだ。
「うっまぁぁぁいです!」
リューノはセッセとマカロゲッティーを口に運んでいく。
そんな美味しそうに食べているのを見ていたらお腹がなってしまった。
(こっ..これはそんなに美味しいのか!?)
僕は昔から食わず嫌いが多い。野菜はある程度克服出来たが、見たことがない食べ物や好きではない食べ物は食べないように生きてきた。
この世界に飛ばされてからも食べるものは前にいた世界で好きだった物ばかりを食べていた。
「あれ?賀露島さんはたべないんですか...?」
未だに料理に手をつけない僕を見て心配そうに聞いてきたリューノ。
正直あまり進む気にはならないがお店に入って料理を頼んでしまった手前、後には引けない。
もう食べるしかない。
そう思い、僕もマカロニをフォークで刺してグルグルっと丸くすると、一気に頬張った。
僕は目を見開く。
何だこの味は!!!
「うっ..旨いィィィィィィ!!」
衝撃だった。
上品なトマトの味付けに意外と合う長いマカロニが良いコシを出している。
こんな美味しいものはヨークルトシティでも騎士団でも食べた事がない。況してや前の世界でもだ。
「すっ..凄い...革命的だ...マカロゲッティー..恐るべし。」
「私の言う通りでしたね。やはりマカロゲッティーは無難です!!」
久しぶりの美味しすぎる料理に僕はフォークが止まらない。
「ちょっと気を付けてくださいよ賀露島さん..そんなに早く食べていると...」
リューノが何かを話しきる前に僕は喉の奥で違和感を感じる。
苦しい。息が出来ない。
僕は胸をドンドンと叩く。どうやら速く食べた勢いで喉を詰まられてしまったようだ。
「あの~スイマセン!お水貰ってもいいですか?」
「はわわわ!ちょっと待ってくださ~い!!」
定員の女は慌てた顔で水を持ってくる。
そして何故か分からないが何も無いところで女は綺麗にズコーンと大きな音を立てて転ぶ。
その拍子で女は手に持っていた水の入ったガラスコップが賀露島を乗り越えてリューノの所に当たった。
水が貰えなかった賀露島は、もがきながら胸をドンドンと更に強く叩くが、次第にその力も弱まりついには机の上に顔を突っ伏した。
リューノは頭から水をかけられガラスのコップが割れ頭から血を流し、心ここにあらずの状態で下を向いていた。
肝心のこの事件を引き起こした定員の女は転けた拍子で気絶したようだ。
全く動かない3人にカウンターにいる寡黙な男はタバコに火を付け、口に加えてフーと息を吐く。
そして一言。
「オッウノォォォォォォ!!」
男の悲痛な叫び声がまだ早いイチヤナの朝に響き渡った。




