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呪い

この世界の創造者である神。神はこの世界を創造して、この地に命を与えた。

宿った命は過酷な環境を生き抜き、姿と形を変え、今を生きる生物たちに進化していった。

しかしある意味では退化とも言えた。神が創造した生物よりもかけ離れていってしまった為だ。


そう。ある意味人は神という存在、神聖から遠くなってしまったのだ。




しかし、進化をせず神が創造したままの生物がいた。それが鳥、亀、虎、竜の4体の4神獣である。



彼らは何千何万年と存在を変えずに今の今まで生きてきた存在。つまり4神獣は今現在で神に一番近い存在の生き物。



そんな生き物の近くにいる存在である巫女。

彼等ほどは生きれないが人間より寿命が長い巫女は彼等と共に修行し、巫女として神聖を鍛え上げる彼女達はこの世界でも最強格なのだ。



話は変わる。

ある日、北玄の巫女である彼女を見たものがいた。何十年と時が経ち、老衰しきった体になったその者は今でも仕切りに彼女の事を振り返り、次の者へと伝える。



「我々人間は神にのみ祈るだけではいけない。巫女様にも祈りを捧げなければいけない。」



世に珍しい神のみでなく、その使いの人間である巫女にも祈りを捧げていた男。

彼が何を見たのかは彼のみが知る事だが1つだけ分かることがある。



巫女に手を出すな。



これは彼が必ず最後に言う言葉。

多くの者がこれについて笑いこけていた。



巫女は簡単には姿を現さず、種族も人間である為、一般の者は彼女達に対して感謝の意もなく、ましては恐怖も無かった。


つまり巫女の事を知らないものが多いのだ。


彼女達の恐怖を知っている者は大抵、色々な場所を旅する冒険者達だけだろう。

なので巫女を知る冒険者はこの男を笑う者は居ない。

何故ならば。




冒険者は彼女達の恐怖を知っているからだ。

人智を超えた力に巫女を知る冒険者は屈服するしか無いのだ。





しかし今そんな巫女に歯向かう者達がいた。



「賀露島!また来るぞ!!」



フクニーグの掛け声と共に、一気に仕掛けてくる北玄の巫女。

ある程度取っていた距離も一瞬にして詰め寄られる賀露島。



時間にしてごくわずかな移動。そう気づいた頃にはそこにいた。

そして北玄の巫女が持つ大鎌を賀露島の首に目掛けて振り回す。



「..速い!!」


「カロシマァァァァァ!!」



ヤバイ死ぬ。



やはり強さは歴然としていた。北玄の巫女にこの一瞬で反応できたものは居ない。


そこには圧倒的な力量差は猿ですら容易に理解が出来るほどだ。

本来巫女と対峙した者は皆が恐怖により心が折れてしまうもの。

それは異世界から来た賀露島とて同じこと。今でも北玄の巫女からの殺気で手の震えが止まらない。


だが立っていられるのには、やはり理由がある。

巫女と戦って少しでも勝算を上げる方法。


それは単純な事。




諦めない事だ。




北玄の巫女が賀露島の体を切り裂かんと振り抜いた鎌は空気が切れる大きな音が鳴る。鎌は空を切る。 

賀露島はこれを避けたのだ。



しかし巫女が全力で振り抜いた鎌は、当たらずとも3人と妖精1人を風圧のみで壁まで容易に吹き飛ばした。



危なかった。

速度は決して遅くはない。寧ろ始めにバーミンを切り裂いた時よりも速かったと思う。



しかし賀露島は諦めず、北玄の巫女の鎌を見切ろうとした。

すると世界が一瞬スローモーションに変わる。いつかのどしゃ降りの雨の日に見た景色と同じだ。



1秒にも満たない時間の中で賀露島はスローモーションの世界で何とか避ける事が出来た。



こういうのを僕は何処かで見たことがある。敵が攻撃をした際に時間の流れがスローになり、敵の攻撃を避けるシーンをゲームで確かに見た。


ゲーム害獣討伐組でよく敵の攻撃を避ける時にこういうスキルがあった。



スキル名。見切り。




害獣討伐組は敵の攻撃が当たるとき一瞬スローモーションにある事がある。

そのスローモーション中に回避行動をすると大抵の攻撃は避ける事が出来る。


極希に発動するスキルではあるがピンチの時は、よくこれが発動するチートスキルである。




「まさかこんな時に〈見切り〉が発動するとは思わなかったよ...」



壁に打たれつつも何とか耐えきった賀露島。

ナルタリカにこれ以上迷惑をかける訳にもいかない。


賀露島は伝説の剣【鈍器】を取り出した。あまりの重さに手で掴むことが出来なかったが、それはそのままにして僕は北玄の巫女の方へ歩いた。



「ちょっと..待ちなさいよアンタ。..何でアンタは、いつも他人の首に突っ込むのよ..」 



壁に打ちつけられ、倒れこみもがいている。そんな彼女が痛みに耐えながら僕に問いかける。



「..それは...。」



「..殺されかけた奴なんかの為に身を危険に晒してまでアイツ(バーミン)を守る必要なんてあるわけ?むしろアンタはアイツを恨むべきじゃないの?」



キュウカにもそんな事を言われた。僕とバーミンの出来事を知っていれば皆がそう言うのだろう。



「..確かにバーミンさんには恨みの方が多かったけど、良いこともあったんだよ。」



「..なにそれ...バカじゃないの..?それがアンタのよく言う理由は探せばあるってのやつなのかしら...」



ナルタリカは「もう好きにしたら?」とソッポ向いた。

僕はそんなナルタリカに頷く。



「うん。そうするよナルタリカ。ありがとうね。」



僕はナルタリカに背を向け、前を歩く。それは恐怖への道。

 


「..死んだら許さないわよ...絶対に生きてなさい...」




僕はそのナルタリカの問いには答えず、北玄の巫女の所へと向かった。



「そんな事言われちゃったら私じゃ止められないじゃない...。だって私はアンタのそのバカみたいな優しさで...。」


その先は言うことはなかった。

独り寂しく呟くナルタリカがそこにいた。




「おお。お前スゴいな..あれを避けるとは中々だぞ。まああの程度では俺も死なんがな。」



ビーザルが自身よりも大きい大剣を構えながら、近くに寄ってくる。

バーミンの弔い会場に来ていたようだが僕は全く知らない人だ。



「貴方も中々にタフですね。フクニーグさんは流石にダウンしてるみたいですけど。」



「へっ...。人間と一緒にするんじゃない。俺はリザードマンだぞ。」




1人で戦うよりは心強い。

そんな僕らをジーと見下す北玄の巫女。その下にはバーミンが血を流して倒れていた。



「本当によく分かんないッス..そこのリザードマンは、ただ戦いたいだけみたいッスけど..貴方はこの(バーミン)の為に命を張る必要が分からないッス。人間に限らず生物は自分の命が一番大切に決まってるッス...なのに。」



恐らくこの巫女にも過去で何かがあったのだろう。

この世界の人たちは、僕の知る世界では感覚がずれている。


全員では無いが大半の人が命の危険が迫ったら、他の誰かを助けるなんて事はしないだろう。

恐らく北玄の巫女は、この事を言っている。




「そうですね..確かに貴方達には分かりませんね。僕もただの無能ならこの状況は逃げてたと思います。」


「でも僕に今、誰かを助けられる力があるかも知れないと分かったら動きたくなるんですよ。」




北玄の巫女はギリッと歯ぎしりをする。



「...ふざけるなッス..。ヘドが出るッスよ偽善者。」



「..ハイ。偽善者ですよ。男に生まれたんです。力があれば、こんな歳になった僕でもヒーローになりたいと思いますよ。きっと生まれた頃からの呪いなんですよ。」



僕は枠を操作し1つ選択する。そして何もない(てのひら)小さな黒い旗のような物が出てきた。

その旗は手よりは大きいサイズで持ち手の下部分の先が尖っていて、お子様ランチなのでオムライスなどに刺さっているあの旗のようだった。



「ん?貴方は魔力もないのに物を具現化できるッスか。〈変型変質〉系統の魔法だと思うんッスけど、魔力の感知も出来なくする〈魔法能力〉って事もありそうッスね。」



少し警戒してくれたみたいだ。本当は魔力なんてのは全く使えないんだけど少しでも相手の判断が鈍ってくれるなら、この上ない幸運だ。



「悪いですけどバーミンさんは殺させませんよ。」



「...本当に筋金入りの偽善者だな..」



味方であるビーザルに言われると少し傷つくのだが。

でも確かに今のは台詞的に臭かったと思う。



「偽善者を見てると、どうもイライラするッス。マジで死ねッス偽善者。」



少し怒った表情を露にする北玄の巫女。偽善者が相当に気に入らないらしい。


僕はそんな彼女の質問に答える。

昔、カッコいいと思っていた特撮のような物真似を無邪気な笑顔でカッコよく喋る。



「偽善上等です!だからバーミンさんは絶対に助ける...。偽善は僕が産まれた時に付けられた大和魂って名前の呪いがかかってるから!!」



僕はカッコよくポーズを決める。端からみれば恥ずかしいオッサンにしか見えないだろう。

だが今は吹っ切れた方がやり易いから。


今はヒーローであれ。



手に持っている旗を僕は北玄の巫女へと投げ付けた。

勝利の算段は整った。


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