ヒーロー
「もしもーし!元気してた?アタイは、いつだって元気だよアハハハハ!!」
煩い声で笑う女の声。それは彼女にとってはとても聞き慣れた声だった。
「ちょっと静かに話なさいよ..相変わらず煩いのね..凍らせるわよ...」
そう話すのは西雷の巫女であるフユだ。
「アハハハハ!そんなフユこそ相変わらずねぇ!氷だけに冷たい人だよ!アハハハハ!!」
この世界には情報を伝える手段としてテレパシーというものがある。
瞳を閉じて利き手を頭に置き、その手から話したい相手に頭で考えた言葉を暗号化し魔力に変換させ相手の脳内に送り込むという方法がある。
実はこれ使い勝手が悪く、かなりの魔力保持者でしか円滑に扱えないため普及はしていない。
しかし巫女クラスになれば、この程度は造作もなくこなせるのだ。
「私はアンタの話し相手になるほど機嫌よくないのだけれど...。」
「ええええ。悲しいこと言わないでよぉぉ!ホラホラ~アタイみたいにスマイル~。」
ピキッ!
流石にいつも冷静なフユもこのイライラには耐えられなかった。
「ちょっと!アンタ次にその声で笑いやがったら只じゃおかないわよ!!」
「ハハハ..ごめんごめん。そんな話は後でいいよ。それよりも...」
話相手の女の明るい喋りから真剣な話に変わった。
そのあとに話す事をフユは大体予想できていた。
「..アキの神聖ね..アキらしくないわね...」
「それだけの奴と戦ってるってだけなのかも知れないね。どちらにしろアタイ達も向かった方がよさそうよ。」
フユはテレパシーを止め、重い体を起こした。まだあのときの傷が痛む。
いつもの神社から出る。周りにビャクヤの反応はなかった。
「フゥ。とりあえず向かうしかないわね!場所は町の方ね。」
賀露島達がいた弔い会場はボロボロに少しずつ確実に崩れつつあった。
散々お互いが壁を破壊し続けたので仕方ない事だろう。
しかし、まだ破壊は終わっていない。
「うらぁぁぁ!!」
「うおおおおおおお!!」
北玄の巫女とビーザルの大鎌と大剣がぶつかり合う。金属音が不快な轟音と共に響く。
しかしビーザルは北玄の巫女の力には流石に勝てなかったらしく大剣を握ったまま飛んでいき、会場の壁を突き抜けて外へ追い出された。
「やるッスねあのリザードマン。ウチが知るなかでリザードマンとしては一番強いッスよ..。」
北玄の巫女は困惑していた。これは初めての事だからだ。
何故巫女という圧倒的存在で神聖まで使用する自分が未だに彼ら倒せずにいるのか。
「おおおおお!!」
賀露島の拳が北玄の巫女目掛けて飛んでくる。だが彼女はこれを察し、賀露島の拳を受け止める。
分からない。何故まだ倒せないのか。
戦力は蟻一匹とゾウ一匹。これ程はあるだろう。
息を吹けば一瞬でも飛んでいきそうな存在。魔力の感じない無能者な彼らなのだから直ぐに勝てて当たり前なのだ。
「おかしいッス...。ハハハ..彼らはウチの知る生き物じゃないッスよ...。」
巫女である彼女が抱いた感情それは彼らに対しての恐怖。
もし貴方の家にゴキブリが出たとして、それを殺す場面とする。
貴方の手にはモップがある。本来そのモップでゴキブリを叩いた時、ゴキブリは一瞬で絶命するだろう。それが彼女が今まで思っていた余裕。
しかしもし仮にこのゴキブリが死ななかったら?
金属バットに持ち変えゴキブリに直撃し、ゴキブリがそれを食らってもなお生き生きと生きていたとしたら?
必ず貴方は恐怖に襲われるだろう。決して強くはない。彼らでは自分を殺せないだろう。
だが簡単に殺せる筈の生き物が、これほど死なずに抵抗してくるのだ。
これを恐怖を感じずにはいられないだろう。体の底からゾワゾワと込み上げる気持ちの悪さが北玄の巫女に鳥肌を立たせた。
「貴方は一体何者なんスか?魔力も感じないのに、これだけの動きと力、そして何も無いところからの物体の出現...。マジで何者すか!?」
僕の受け止めた拳を握りしめる。その握力は女の子とは思えないほどのものだ。
よく握力自慢でリンゴを素手で割るなんて事があるが、それが可能なのだろうと思った。
とは言え。
「痛い!痛い痛い痛い!!はっ..離してくださぁぁい!」
僕が痛がる姿を見て、「あっごめんッス。」と手を離した。
離してもらった手をフーフーと息を吹き掛ける賀露島。
それを少し心配そうな顔で謝る北玄の巫女。そんな彼女の後ろからビーザルが大剣を北玄の巫女に降りかかっていた。
「巫女ぉぉぉ!俺の経験値になるんだぁぁぁ!!」
ブンッと音が出る。
ビーザルの降り下げた大剣を何気なく、頭を下げ避ける北玄の巫女。
そのままビーザルの両足を回し蹴りで体勢を崩す。
「くそっ!」
「貴方は、かなりタフなようッスけど、さほど脅威ではありませんッスよ。」
体が倒れかけているビーザルに向けて北玄の巫女は大鎌を振る。
しかしこれはビーザルが不自由な体勢から大剣で防いだ。しかしやはり彼女の怪力にビーザルは、また壁に飛ばされてしまう。
だがビーザルはそれでも負けず再び北玄の巫女へと向かって行ったのだ。
会場の屋根が先程よりも揺れ、今にも崩れそうな程に危険な状態。
その状況を見た賀露島は会場内で倒れているであろうフクニーグやナルタリカを心配した。
「2人を避難させなきゃ!」
彼らが倒れていた場所を探したが、何故かそこには誰も居なかった。
「え?ナルタリカ達は何処に?」
「安心しろよ。あの小さな妖精もフクニーグも避難させといたぜ。」
「ハイ。後はあそこに倒れているバーミンさんだけです。」
居なくなったナルタリカを探す賀露島に2人の冒険者が話しかけてくる。
大柄な赤髪で柄の悪そうな男と眼鏡をかけた女性だった。
「ワリィーが俺はあの巫女を相手にする事は出来ねーみたいだからな。これぐらいはな。」
そういうといかにも血の気の多そうな、この男とは思えないほど手が震えていた。
「ええ。私もです。あのような怪物を相手に立ち向かえる貴方達を少しでも応援してますから。」
バーミンが生き返った時に逃げずに会場に残っていた少ない人の中の2人。
巫女の殺気にやられてしまい、動けずにいたが何度吹き飛ばされても立ち上がる賀露島達を見て、少しでも賀露島達が戦いやすいように、立ち回っていたのだ。
「すいません..ありがとうございます!あの~お名前は..」
「俺はシルバー冒険者のジャックってんだ。お前も冒険者なら宜しくな。」
「私もシルバー冒険者のメルシーって言います。頑張って下さい!!」
彼等も本当は戦いたいのだろう。震える手が強く握られた様子を見て彼らの悔しさが伝わってきた。
「ありがとうございます。絶対にバーミンさんは僕が助けます!」
「ああ。頼んだぜ!アイツは愛想悪いけど俺らの大切なダチだからよ。」
そう言われ僕は2人から背中を強く押された。会ったこともない人達だが、強く僕に託してくれた。
なるほど。ヒーローってこんな気持ちだったのか。
人気になりたくて、誰かに少しでも自分という存在を評価されたくてソーシャルネットワークであるSNSで自分を表現しているあの感覚。
込み上げる熱い心が僕を盛り上げる。思い上がりかもしれない。だが確かに託されたんだ。
ならもうこれは勝つしかない。
僕が北玄の巫女を見たとき、彼女の前に血だらけで傷を抑えるビーザルがいた。
ビーザルは死んではいなかったが、意識が朦朧としていた。
「...全く..このリザードマンは相当にタフッスね。虐めるのはウチは好きじゃないんッスけど..。」
ビーザルはフラフラとしていたが、まだ北玄の巫女と戦おうとしていた。
しかし、もう立ち上がることも難しそうだ。
「止めるんだ北玄の巫女!アンタの相手は僕だろ!来いよ相手してやる!!」
ポーズを決め、北玄の巫女を煽る。
「本当にタフッスね。特に偽善者である貴方はね..それに簡単に死人を生き返らせるんじゃないッスよ!!」
彼女の神聖が僕に直接伝わってくる。呼吸が苦しくなるほどに心臓を抑えつけてくるような感覚。
やはり強い。伝わるオーラだけで意識を失いそうだ。
僕を殺しにきている。
だがそれと共にもう1つ伝わってくるものがあった。
何かが伝わってくる北玄の巫女である彼女の感情だろうか。
その感情は強い殺気の圧力とは違い、とても弱々しい悲しみだった。




