死ぬわけにはいかない
少しでも気を抜けばリバース待ったなしの状態にいる僕は生き返ったバーミンを再び殺そうとする北玄の巫女からバーミンを守るため拳を構える。
この騒動が起こる前に弔い会場にあった料理を食べていた僕は黄色い食べ物を沢山食べていた気がする。
リバースなんて事になればと考えると恐ろしい絵が想像できてしまった。
嫌なことに、こういう想像もまた吐き気を催すのだ。
お互いに睨み合う両者。
そんな中で僕は再び襲ってきた吐き気に僕は口に手を抑えつけて堪える。
「正直な話ッスけど..今でも驚いてるっス...黄泉の世界から強制的に現世に引き戻すなんて閻魔さんだって簡単じゃないっスのに...」
「ハハハ。北玄の巫女様ともあろう者が驚くなんざスゲェ話だぜ..まあ俺も驚いてるけどな賀露島にはな...」
どうやら僕の話をしているようだ。何やらこの戦いは僕が中心になっているらしい。
まあ液体かけるだけで人が生き返るアイテムを1人で独占して持っているんだから当然ではあるのだろう。
「まだ死んではいないッスので殺す気は無かったんでッスけど、幾ら殺しても生き返らせてくるから意味ないんスよね。」
あれ?なんか僕の方を見てるけど、もしかすると僕が狙われちゃってますか?
「そもそも一度失われた命がまた宿るのは世界の均衡を破る事になるッス!だからそんな人は今すぐにでも閻魔さんに審判を受ける必要があるッス!!」
どうやら本当に北玄の巫女は僕を殺しにくるそうだ。
なんて迷惑な話なんだ。
「おい!賀露島来るぞ!!」
北玄の巫女が足を一本踏み歩く。
ヤバイ。僕を殺しにくる!
しかしここで不運な事に吐き気が襲う。
「おぇぇぇぇ...」
僕はつい目を瞑り吐き気を抑えるために左手で口を抑えた。
しまった。
恐らくそう思った時には遅いだろう。きっともう殺されているに違いない。
閉じた瞼を開くときっとバーミンの言っていた三途の川が見れるのかもしれないし、もしかするとまた元の世界に戻っているかもしれない。
とりあえず目を開けなければ分からない。僕はゆっくりと瞼を開く。
しかしそこに写ったのは、先と変わらない景色だった。
ただ違うのは向かい合っていた北玄の巫女が見当たらない所だ。
「..あれ...?」
分からなかった。一体何があったのだ。
怖くなった僕は他の誰かに助けを求める為に周りを見回ると皆が僕を見て驚きの表情を見せていた。
「おい..賀露島...お前って一体何者なんだ...?」
静かになっていた会場にいた者達の皆が思ったことをフクニーグが先に喋る。
「え?僕って何かやったんですか?」
「何ってお前..今お前は巫女をブッ飛ばしたんだぞ...?覚えてねーのかよ。」
は?フクニーグから訳の分からない事を言われて少し混乱する。
僕は吐き気を抑えただけなのだが。
しかし右手をよく見てみると握った覚えのない拳が何かを殴り終わった後の動作状態だった。
状況が全く読めない中でとりあえず、自身のステータスがどうなっているか確認するため、枠を操作する。
すると気になることがあった。
「え?僕っていつの間に〈狂化モード〉になってたの?」
全く身に覚えがない。ステータスに異常がないか確認してみたら勝手に〈狂化モード〉になっていた。
無意識の内にオートで発動したのか?
以前にも無意識の動いていた時があった気がする。一体僕の体はどうなっているのやら。
「..ねぇナルタリカ..今もしかして僕って無意識にやっちゃった?」
小声で肩にいるであろう姿を隠しているナルタリカに問いかける。
「そうね..アンタが意識してなかったって言うならきっとそうね」
驚いた。本当に僕は無意識の内に動いてしまっているようだった。
それも良い意味で勝手に動いている。
「アンタには言ってなかったけど、あのか理楊とかいう娘とアンタほぼ互角に戦ってたのよ?」
「え?そうだっけ?」
全く身に覚えがない。僕と理楊ちゃんが戦ったなんて本当なのか分からなかったが、正直なところ最近になって、よく家に来ていた理楊がリタカートと同じようの眼になっている事に気づいたのできっとそうなんだろうと頷いた。
「何をコソコソ喋っている?ナルタリカとイチャイチャするのも良いが今は戦闘に集中しろ!命狙われてるのはお前なんだぞ!!」
確かにフクニーグの言う通りだ。フクニーグはナルタリカが姿を消せるのを知っているから僕が1人小さな声で喋っていたので彼女と話している事が分かったのだろう。
僕はまた戦闘体制に戻る。
しかしまたここで集中力が削がれる。
「..ちょっと待ちなさいよ!?私がいつコイツとイチャイチャしたですって!?..っと...取り消しなさい!!」
ナルタリカは、さっきのフクニーグの言葉に焦った様子で顔を真っ赤にしながら、彼の前に姿を現して先の言葉を取り消すようにと言った。
何をそんなに怒る必要があるのか分からないが、なんとなくショックだった。
「..痛いっスね...久々に閻魔さん以外の人からのパンチが痛いと思いましたっスよ..」
会場の壁の瓦礫に埋まっていた北玄の巫女は頬を片手で抑えながらゆっくりと立ち上がる。
すると彼女は手に持っていたカードを見つめていた。
「..なるほどッス...カロシマコーキって言うんスね?」
え?なんで僕の名前が分かったの?
まあ本当の読み方はカロシマコウキなんだけどね。って事は北玄の巫女が今まさに手に持って見つめているのは僕の冒険者ライセンスだろう。
いつ取られたか分からないが、どうやらポケットに入れていたライセンスを奪われていたようだ。
「おい賀露島?お前の名前ってカロシマコウキじゃなかったか?」
「..あ。そうでしたねフクニーグさんには冒険者ライセンス見せてなかったですね。そうなんですよライセンスにはカロシマコーキって登録されてるんですよ。」
「なんでライセンスカード貰ったときに直してもらわなかったんだお前。」
その時はカワモラ文字が読めなかった為ナルタリカに冒険者ライセンスを見てもらうまで気がつかなかったなんて恥ずかしくて言えない。
僕は笑って誤魔化した。
「まあコーキだろうがコウキだろうが、今はどうでも良いことッス..今は世界の均衡を崩そうとする貴方を閻魔さんの所に連れていかなきゃいけないッス。だから...」
北玄の巫女が両手の拳を重ねて瞳を閉じる。
2、3秒ただ拳を合わせている。まるで何かに祈りを捧げるかのように。
そして瞳を開け拳を離した時にそれは感じた。魔力ではない別のオーラを。
「チッ..この感覚..使ってきやがったか...神聖を...」
「神聖?」
「それは..」とフクニーグが話そうとした瞬間に賀露島の後ろにいたリザードマンが我先にと口を開いた。
「神の力だ。巫女の場合は神では無いので神の加護という所だな。」
ドヤ顔を決めるリザードマンだが、突然話しかけられたので少し驚いていた。
「賀露島?なんだこのトカゲは...」
「トカゲでは無く、ビーザルと呼んで貰いたいんだがな。まあ俺の名前を知らなかったのだから仕方あるまい。次からは気を付けろ。」
ビーザルと名乗るリザードマン。見た目は本当にトカゲのような顔をしており、人間では無いことがわかる。
性格は静かそうな雰囲気だが、言葉が若干悪そうだ。
「まあそんなことは後にして今は巫女狩りといこうじゃないか。」
リザードマンのビーザルはいつの間にか持ってきていた背中にある大剣を両手で取る。
身長にして2メートル近くあるビーザルよりも大きい大剣は、この会場に異質な存在感を放っていた。
だがこのリザードマンからは魔力は全く感じられない。
魔力社会であるこの世界では魔力を感じとる事の出来ない程度の魔力の持ち主は弱者とされている。
そんな弱者と呼ばれてもおかしくない彼からは弱者と呼ぶには程遠い気迫を感じ取れた。
多分それはあのかなりデカイ大剣を軽々と持ち上げているからなのだろう。
「なんかやりづらいッスね..無能者2人を相手に神聖を使っちゃうのは...でも何がなんだろうとカロシマ。貴方は死んでもらうッス!!」
北玄の巫女は再び腰を低く下げる。今度こそ賀露島を殺すため。
ここを踏ん張るしかない。首を切られてしまえば賀露島とて助からないだろう。
思考をする前に殺されてしまえば意味がない。バーミンとの戦いでそれを深く思い知った。
神の雫も賀露島のみが出せるアイテムだ。だから賀露島が死ぬわけにはいかない。
お互いの殺気が交わる会場でいよいよ決着の時が近づいていた。




