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晴天

降り注ぐ土砂降りの雨の如く降ってくる物体がリスフィスの魔法人形目掛けて襲いかかってくる。


彼女は降ってくるであろう方角に厚い氷の壁を張っていた。

その氷は降り注ぐ物体を防いでいた。だがその余裕は、いつまでも続くものではない。


氷の壁が徐々にミキミキと軋む音が鳴る。亀裂が出来始めている。

グラグラと揺れ始める氷の壁の内側でリスフィスは特に何かをする訳でもなく、ジッと飛んでくる物体の様子を見ていた。


周りは砂煙で何も見えない。リスフィスの魔法人形目掛けて飛んでくる複数の物体は地面に叩きつけられた事により砂煙を巻き上げていた。




「...へぇ..結構やるじゃないか...そろそろ壊れそうだね。」



悠長に話をするリスフィスの魔法人形。

彼女は今すぐにでも壊れてしまいそうな氷の壁にそっと触れる。するとその一瞬で氷の壁は粉々に崩れる。

氷の壁が無くなった事によりリスフィスを守る物は無くなった。必然的に何者かからの攻撃はリスフィスの魔法人形本体へ飛んでいく。




「〈フレイ〉ーーー。」


彼女がボソッと呟くと、体の周りから炎が吹き始め、何処からか飛んでくる物体を迎え撃つ。



その炎に触れた物体は一瞬にして灰となって消えていく。複数あった物体は一つ残らず跡形もなく消え去った。

〈フレイ〉の炎は勢いを殺す事なく立ち込める砂煙の中を飛んでいく。その勢いの風圧で砂煙は無くなり見晴らしが良くなり、攻撃を防ぐことにも成功したのだ。しかし何故かそれでも炎は止まる事なくまだ動いている。

まるで始めから目的は砂煙を払う事だけでなく、攻撃を防ぐ事だけでもな、く目的の場所へ向かうかのように。




「...チッ..避けたみたいだね....」


舌打ちをするリスフィスの魔法人形は、そう呟くと視界の先に女が1人立っていた。もとより〈フレイ〉はネフィタリカを狙って飛んでいたが、どうやら避けられたようだ。



「...目眩ましは、あまり効果が無いようですね?わたくしの居場所がお分かりのようですね...探知魔法を使用していらっしゃない辺り何かしらの〈魔法能力(ユニークマジック)〉ですかね?」



ネフィタリカだ。姿は本来の姿である妖精ではなく人間族(ヒューマン)の姿だ。

手には大きな弓が握られていた。



彼女は矢を持つこと無く、弓の玄を強く引く。

その光景を見たリスフィスの魔法人形は腹部を抑え笑いだした。




「あはははは!君は一体何をやっているんだい?」



矢も無いのに玄を引きだしたネフィタリカを見て彼女は大きな声で笑う。

矢が無ければ弓でやれる事なんて無い。リスフィスの魔法人形からしたら可笑しな光景だ。


しかしネフィタリカは、それを見てニヤリと笑みを浮かべる。

そう彼女にとっては、これでいい。




「...よろしいですよ沢山笑っていてください。ですが..わたくしの攻撃を受けてからも笑っていられるでしょうか?」



ネフィタリカは右指で強く引いていた弓の玄を離した。

その離された瞬間だった。何処から途もなく白い魔力の矢が現れリスフィスの魔法人形目掛けて飛んでいった。


秒速で飛んでくるネフィタリカの矢。これには少し反応が遅れてしまったリスフィスの魔法人形。

だが彼女は敢えてこれを避けず頭に受けた。彼女自身魔力に対しての耐性が高く、対した魔力がない攻撃はダメージにはならない。

だが答えはリスフィスの魔法人形が思っていた通りにはならなかった。



スパーンッ!


ネフィタリカが放った矢は見事にリスフィスの魔法人形の眉間に突き刺さり、リスフィスの額からは血が吹き出した。




「...!?..いつッ!?」



痛い。リスフィスの魔法人形にも痛覚があるようだ。ネフィタリカからの矢が刺さり思わず声を漏らす。

眉間に矢を食らったのだから痛くない筈がない。

あまりの痛みに体をフラッと揺らすリスフィスの魔法人形。


彼女は驚いている。

最上位魔法である〈ブラックボルト〉を受けたとしても耐えられる自信がある彼女が大した魔力でもない矢が眉間突き刺り痛みを感じている事に驚きの顔を隠せない。


この程度で痛みを負う筈がない。

この程度で傷を付けられる筈がない。

この程度で体をふらつかせる訳がない。



リスフィスの魔法人形は一先ず眉間に突き刺さっているであろう矢を引き抜こうと額に手を伸ばす。

だが彼女はここで気づいた。


リスフィスの魔法人形に突き刺さっているであろう矢が無かった。

刺さった後に消えたのだろうか?

彼女は今現状の傷の具合を確認する為、額に手をあて血の確認を行ったが何も無かった。


それによりリスフィスの魔法人形はある答えにたどり着く。




「...どうやら僕を.....君は嵌めたみたいだね...?」



リスフィスの魔法人形は手を額に乗せたままネフィタリカを睨み付ける。

睨み付けられたネフィタリカは彼女の目を見て少し怯んだが、負けじと睨み返す。



「..さぁ?何事なのか、わたくしには分かりかねます....一先ずお返しは、させて頂きましたとお伝えします。」



ネフィタリカは呟くとパチンと指で音をたてて、その指をリスフィスの魔法人形に向けてドヤ顔で決めた。

彼女の瞳もリスフィスの魔法人形ほどでは無いが確かに黒く濁っていた。


リスフィスの魔法人形はネフィタリカのその顔を見て怒りの表情を次第に見せだす。




「...いい加減にするんだ。君は少し調子に乗りすぎだと思うんだけど?」



「ええ。申し訳ございません。わたくし妖精族にしては、まだ子供の方ですので...お許しください。..ですが確かに貴女様を舐めております。」



ネフィタリカは再び煽る。

しかもそれは見て分かるようにあからさまだ。

何故わざわざ彼女は煽るのか?それはすぐに分かることだ。



リスフィスの魔法人形は煽られた事により更に怒りの表情へと変わっていく。彼女から威圧が飛ばされる。

彼女の睨み付ける瞳を見たネフィタリカは一歩足を引く。睨み付けるだけで相手を怯ませる事が出来る威圧に恐怖で冷や汗が流れる。


威圧の効果を受けるという事は、少なからず相手はネフィタリカよりも格上だという証明になっている。



「いいよ...仕方ないから乗ってあげるよ。....僕は君のその、あからさまな挑発に乗ってあげるよ。大人は子供の我が儘を聞いてあげるものだもんね?」



リスフィスの魔法人形はネフィタリカに近づこうと、ゆっくり歩く。

その一歩ずつがネフィタリカの心にズッシリと重圧を加える。



冷静な顔をしている両者だが、お互いが別の違う感情を抱いている。

リスフィスの魔法人形は今にも叫びたくなるような怒りで支配されている。


一方のネフィタリカは威圧の影響を受けて今からでもこの場所から逃げ出したくなる恐怖に支配されている。

だがそんな状況でもネフィタリカは敢えて逃げない選択肢を選んだ。



威圧の効果を受けた者は戦意を消失した事と同じこと。そもそも戦う気すら込み上げない。

しかし不思議と体は動いていた。それは勝算を見出だしたからだ。勇気という意が彼女を動かしていた。



リスフィスの魔法人形後方で何が飛んでくる。それは彼女目掛けて飛んできている。

そして距離にして1メートルでそれを避けた。



「...なっ....!?」



ネフィタリカは飛んできた物をパシッと手を使ってそれを止めた。

彼女が手に握っていたのは弓と同じデザインのブーメランだった。


恐らく予め投げておいたブーメランがリスフィスの魔法人形の背後から彼女目掛けて飛んできていたのだろう。

だからなのだ。ネフィタリカはこれを避けた事に驚いていた。




「...あぁ。何で避けたんだって顔をしているようだけど、可哀想だから教えてあげるよ。」


ネフィタリカが驚いた顔をしているのを見てリスフィスの魔法人形は口を開く。



ネフィタリカには絶対的自信があった。このブーメランが背後からリスフィスの魔法人形に突き刺さるのをほぼ確信していた。


このブーメランは必要最小限の魔力のみを使用していて、相手に気づかれにくく音もしない為、ブーメランに背を向けるように誘導すればこれを避けられる者は居なかった。


しかし彼女は違っていた。まるで初めからこのブーメランがあることを知っていて、体の近くにくるまで、何処にいるのかも分かっているようだった。




「僕が君のそれに気づいていたのは君がそれを投げた時からだよ。」



あり得ない。ネフィタリカがブーメランを投げたのはまだ視界は1メートル先すら見えない状態だ。

いや1つだけ可能な方法がある。探知だ。探知魔法で魔力が含まれているブーメランを見つけることは確かに出来る。

だがそれは状況が状況であった。



攻撃をされている状況で防御する為の魔法を行いつつ探知魔法を使用していたというのだろうか?

しかし仮にそうしていたとしても、それの必要性を見いだせない。



探知魔法は主に魔力を発する元である対人に対して行うもの。

探知魔法を使用するのは極めて簡単な事ではあるが、探知魔法は一回使用する事に魔力をそれなりに消費する。探知結界などの常に発動させる探知魔法が無いわけではないが、やはりリスクは高い。


その為、常に探知魔法を張ることが出来ない。なので対物で探知魔法を使用するのは魔力の無駄な消費に繋がるのだ。

それが雑魚と見下している相手にならば、尚更探知魔法を使う必要性がない。



しかしそもそもだ。リスフィスの魔法人形が探知魔法を使用していない事を知っていた。


探知魔法は魔力を持つ者を見つけられる魔法でその効果範囲に入っている者は隠れていようが、見つける事が出来る。

だが見つけると同時に探知魔法は相手にも自身の居場所を教える事にもなり、探知魔法は使った時点で相手は使用者が探知魔法を使った事が分かる。


つまりリスフィスの魔法人形が探知魔法を使用していない事が分かっているネフィタリカは彼女が後ろから飛んできているブーメランに気づいていたのは別の何かだと察した。




「それじゃあ...今度は僕の番だ。」


そう言うとリスフィスの魔法人形は左の人差し指をネフィタリカ目掛けて指差す。何かをするという事は分かっている。

だが体が上手く動かない。威圧だ。勝算のあった勇気は簡単にへし折られてしまった。


今度はその反対の右手を動かす。しかしその手の動きは何処かおかしかった。

まるで何だろう?弓を引いているような動きだ。




「一度君自身も知るといいよ?自分の魔法がどれだけタチが悪いのかを。」



「.......え?」



弓を引く動作をしていた指がパッと離される。

 

一瞬であった。それを目で捉えられたのは、その一瞬だけだ。

光る何かが放たれた。そう認識した頃にはネフィタリカの右肩にそれは突き刺さった。




「イヤァァァァァァ!!」



突き刺さった?そんな生易しい物じゃない。

放たれたのは魔力でできた矢だ。それはネフィタリカが使用した矢と同じだ。


しかも矢は止まる事なく彼女の腕を貫通して腕を体から引きちぎった。

当然。脳へ送られてきた信号は痛みである。

両膝を地に着けて、痛みのする無くなった右肩を抑える。


だが何故だろう感触が確かにあった。無くなっている筈の右肩が。




「...ウフフフ..全く....いい気がしませんね.....」



「フフフ...これで少しは他人の気持ちが分かったかい?でもこんなんじゃ足りないよ?足らないんだ。僕の痛みは、苦しみは、こんなものじゃないんだ。もっと!もっと!もっと!もっとぉぉ!!」



また弓を引くリスフィスの魔法人形。

ゆっくり。ゆっくりと玄を引くように動かす右の指。

その顔は笑顔で歪んでいる。


いつでも殺れるぞ?今からでも殺れるぞ?

そのいつくるか分からない恐怖がネフィタリカの体を震わせる。

怖いが逃げられない。威圧に圧倒されている彼女では自由に逃げることも避ける事も出来ない。なにせ体が上手く動かないから。



「しかし弓って難しいよね?本当は眉間を狙ったのに肩に行っちゃうんだからさ。まあもう感覚は分かってるから次は外さないけどね?」



彼女が指を離す。

その時だった。ミシミシと音がなる。




パキィィィン!!

何かが割れる音がした。それはリスフィスの魔法人形近くにあった氷の割れる音。

そこに1人男がいる。氷付けのオブジェになっていた男が1人氷を破って出てきていた。



この出来事にリスフィスの魔法人形は見えない弓を引くのを止めた。




「あ..主様ぁぁぁ!?凍結されていた筈じゃ!?...とにかく今は危険だから固まっていてよ」



リスフィスの魔法人形が〈完全氷結〉をしようする為、足を少し上げ足踏みをする。

その速度は一瞬にして賀露島がいた場所を再び大きな氷で氷付けにした。


しかしその氷が1メートルの範囲を通過する前。その時である。

リスフィスの魔法人形は体を地面に叩きつけられていた。




「プハァァッ!!」



何が起きたのか?一番疑問に思ったのはリスフィスの魔法人形だ。

〈完全氷結〉をしようするために足をほんの少し上げて下ろしただけ。たったそれだけの事をしただけなのに何故か気づけば背中を地面に着けて倒れていた。


〈ブラックボルト〉で作れた黒い雲が無くなり空が眩しくて目を細めてしまうぐらい晴天だと気づけたのは今日が初めてだ。

普段空を見ること無く賀露島の場所のみを考えて下ばかり見ていたから気づかなかった。この世界の空はこんなにキレイだったと言うことに。






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