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非道

ネフィタリカは息を荒げながら目の前で起こる事を含めて改めて整理する。


彼女は絶体絶命の場面に場面に直面していた。

威圧による恐怖で体は動かない状況であった彼女に向けてリスフィスの魔法人形は〈記憶の矢〉を放とうとしていた。



ネフィタリカはリスフィスの魔法人形からの威圧から解き放たれ体が動くようになった。恐怖が無いと言われると嘘になるが体が動けるようになれば一先ず助かったと言うことだろう。

しかし立ち上がる時に右肩に違和感を感じた。



感覚が無くなっている。〈記憶の矢〉に肉体的ダメージは無いという事は本人が一番分かっている。

それは外観を見れば分かる。



〈記憶の矢〉はあくまで相手の記憶回路へ強制的に記憶を加える魔法能力だ。それを只の記憶と認識出来れば何事も無く終わる。まあ認識出来ればだが。

しかしリスフィスの魔法人形が放つ〈記憶の矢〉は、その限りでは無かった。


偽りの記憶だと分かっている。分かってはいるのだが、射られた右肩から先はまるで本当に無くなってしまったのでは無いか?と思うほどに感覚が無い。


植え付けられた記憶は脳に本当の傷として認識させている。ネフィタリカの脳は偽りの記憶を本当だと思ってしまったのだ。

意識では分かっているが体は騙されている。




「...ウフフ.....ショック死しなかった事が奇跡ですね...体が恐怖して真実から目を剃らしてるなんて...。」



痛みが消える。これは体が痛みによる死を防ぐ為に起こる。



偽りとは言え確かに痛みはあった。しかしそれは嘘であった。

ならまたその痛みを受けることになる。体はその痛みを二度も受ける気はない。



ならどうする?




なら痛みを無くせばいい。

それが体の答えだ。


痛覚どころか感覚すら無くした。まるで本当にそうされたかのように。

こうしてネフィタリカの脳は右肩にまた来るかもしれないあの痛みから逃げたのだ。



それでもそれを忘れさせるような出来事を今確かにネフィタリカは見た。


氷付けになっていた賀露島が自らそれを壊して抜け出した。それだけならあまり驚く事ではない。

ネフィタリカが自身の体の心配より優先した事。それはあのリスフィスの魔法人形を一瞬で地面に背を着けさせた事だ。


何をしたのか?どうやったのか?

それは分からない。目で追えなかったから。

たが分かることは確かに賀露島がリスフィスの魔法人形を倒した事だ。




「痛いよ主様...奴隷とは言っても女の子なんだけどな?」



リスフィスの魔法人形は問いかける。しかしその答えは帰ってこない。




「...主様..?.....!?」



彼女はこの時に見上げた賀露島の顔に違和感を感じていた。

彼の目は冷たい目をしていた。まるで自分を物か何かをみるようなそんな目。

まるでかつてのあの者達みたいな。


賀露島はそのまま彼女を見下ろしたまま足を振り上げる。




「...冗談だよね主様?....」



勿論賀露島から答えなんて帰ってこない。まるで人が変わったかのように接する彼に震え出すリスフィスの魔法人形。


頭の中にノイズが走る。あの者達の顔と賀露島が重なりつつある。



ヤメテ。ヤメロ。ヤメ.....。





ドスッ!

鈍い音がなる。その音と同時にリスフィスの魔法人形は腹部の側面のあばらに強烈な痛みを受けた。



砂煙が100メートルはあるだろうか?

かなりの勢いだったのか砂煙もブワッと立ち上る。砂煙は爆発するような広がり方ではなく縦に細長く立ち上る。

それはまるでロケットが打ち上げられたようなそんな砂煙だ。それほどまでに賀露島の蹴りが上に向いていたという事だ。


つまり賀露島はリスフィスの魔法人形を蹴り上げたのだろう。砂煙もろとも。




ドサァッ!!


何かが落ちる音がした。それは鈍く肉の音。やがて晴れていく砂煙がその姿を現した。




「...ぁあ..主..サマァ....ドウシテ...?」



イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ



決して彼女はその三文字の言葉を口にはしていない。

だが確かに彼女から放たれる殺気はそう叫んでいるように頭の中に訴えかけてくる。




「...すっ..スゴいわ....あんな相手を賀露島様は...。ナル姉様が認めるだけの事はあります..。」



ネフィタリカはナルタリカの話を聞いている限りだと賀露島の強さは人間族(ヒューマン)にしては強いぐらいだろうと考えていた。


否。そんな比ではない。

要は自分より弱いと思っていた賀露島は、自分が威圧で怯んでしまう敵を簡単に倒す力を持っていた。


ナルタリカの言っていた賀露島と言う男の強さはネフィタリカが思っている以上だった。



(..難しくなったわ.....そこは残念ね...ウフフ..)



笑う顔は少し不気味さがあった。



(...でもこれは..。彼はわたくしが求めているものを..きっともしかしたら貴方様なら...)






「...カハッ..息が....」



当たりどころが悪かったのかリスフィスの魔法人形は上手く呼吸が出来なかった。

いや。あれだけの威力の蹴りを受ければこれで済んでいる方が奇跡なのだろか?



苦しい。呼吸が出来ず苦しい。

痛い。あばらの骨が何本か折れているだろう。

そして何より辛い。今目の前に大切な人から物のような目で見下され、挙げ句には暴力を振るわれている。


大切な人が大嫌いな者達と同じことをしている。その失望が、裏切りが辛い。

いや。それこそが今最大の痛みで苦しみだ。




「...ダメ..苦しい....痛い...。主様..お願いだから止めて...?」



リスフィスの魔法人形は涙目で今目の前にいる賀露島に頼み込む。

きっとあれは嘘だったと。たまたま起きた偶然で意図してやった事じゃないと言って欲しい。


だがそんな思いを賀露島は蹴った。思いもそうだが物理的にもだ。

賀露島は何も感じていないのだろうか?顔の表情は何一つ変わる事無く彼女の顎を蹴り上げるように一蹴り加えた。



これには遠くから見ていたネフィタリカも驚きを隠せずにいた。

最早人のすることではない。躊躇無く放たれる蹴りはネフィタリカの記憶に焼き付けられる。


この行為を非道と言わずして何と呼ぶのか?

正当防衛?彼女に戦う意思はない。

油断をみせない為?いや。それでもない。


だってそれは一言も話さない彼だが顔を見ればすぐに分かる。

ネフィタリカはその顔を見て両手を頬に重ねる。その頬は真っ赤に火照っている。





「....そう..そうです!わたくしが見たいもの!!....ぁあ..賀露島様...貴方様はわたくしの...」






(......運命の方です..)



彼の顔は笑顔で歪んでいた。



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