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凍結

黒い雷光が賀露島を覆う〈マジックフォール〉に直撃していた。激しく黒く輝きを放つ〈ブラックボルト〉は賀露島が使用した時よりも大きいものだ。

その威力は地面を大きく揺らすほどである。



あまりの威力に地面が大きく砂塵をばらまき、1メートル先すら分からなくしている。



「...流石はマジックフォールっと言った所かな?だけど主様は...少し僕の魔法に過大評価過ぎると思うけど?いや。過剰評価...かな?」



賀露島を覆っていた流れ続ける土の壁はボロボロと崩れ落ちていき、やがて彼がその顔を現す。

体に傷を付けた様子がない。どうやら無傷で〈ブラックボルト〉を防いだようだ。


だが賀露島はこの時、内心焦っていた。リスフィスの魔法人形から〈ブラックボルト〉を防げた事を喜ぶのでは無く、事態の悪さに焦っている。




(マズイことになってきた...マジックポイントが少くなってきた....)



賀露島は自身のステータス欄を見て考える。勿論リスフィスの魔法人形に対しての警戒だって怠っていない。


〈マジックフォール〉とは属性防御魔法最強の壁である。これの効果は、属性を含む魔法に対し属性の相性が良い(かた)を張ることで属性ダメージを0にする魔法である。

どんな攻撃魔法にも特有の属性が付いているため、正しく対応すれば敵の攻撃を無傷で防ぐ事が出来る。

だがこの魔法にも唯一1つだけ欠点がある。それは魔法を使用する時に消費するマジックポイントが他の防御魔法に比べて比較的消費量が多い事。


この〈マジックフォール〉の使用用途は主にゲーム内のフェアリーワールドのボス戦で敵が使用する即死の属性魔法を防ぐ為に使用するもの。なので本来は対人で使うためにあるものではない。

それを賀露島はリスフィスの魔法人形からの魔法から守るために使用しているので、彼女に対してそれを使った事が過大評価だと言っていたのはそういう事だ。




「少し前に会ったときにはブラックボルト、今はマジックフォール...どういう訳だか主様は強力な魔法しか使っていない。一体どうしてだろうか?」



不気味に頬を上げるように笑うリスフィスの魔法人形。

独り言を言っているつもりだろうが、わざとらしく賀露島にも聞こえるように言っているのがその顔で分かる。



リスフィスは事情は知らないだろうが、賀露島には使える魔法に制限がある。

フェアリーワールドで使用できる魔法スキルはコンプリートしている賀露島はそのデータがそのままこの世界に引き継がれているのだが、どういう訳か最上位魔法しか使用できなくなっていた。


フクニーグに初めて出会った時もそうだったが、使える魔法が最上位の広範囲のため程よい威力の魔法が使えず、〈ハリケーン〉を使って周りに甚大な被害をもたらした。

出来ればもう少しコスト的にも威力的にも抑えたいのだが、最上位魔法以外の魔法は選択できなくなっている以上は、最上位魔法でやっていくしかない。




「ハハハ...リスフィスちゃんこそ僕を過大評価しているんじゃないかな?」



魔力がない賀露島は彼自身魔力や魔法に対してあまり耐性がない事が分かっている。

魔力による物理的攻撃のみであれば、ある程度耐えられるが、純粋な魔法での攻撃に対して賀露島は、それを守る(すべ)を持ち合わせていない。


実の所、賀露島はいまだに魔法を得意とするタイプの敵とは、まともに交戦した事があまりない。あるとすれば魔法による攻撃はバーミンぐらいにしかやられていない。

属性魔法で攻撃されたのは今回が初めてだ。


この世界に来て初めてリスフィスに会った時も、彼女とは戦っていない。つまり賀露島は比較的に魔法に対して弱いという事が説明できる。

リスフィスの魔法は例え最上位魔法で無くても、賀露島にとっては強力な魔法なので即死してもおかしくないので〈マジックフォール〉で防ぐ意味がある。

つまり賀露島のいう通りリスフィスは彼を過大評価しているのだ。




「主様を過大評価してるなんて思うわけがないよ。寧ろ足らない...僕の主様はね?いつだってスゴいんだ...僕を助けただけじゃない。全ての魔法スキルを習得して世界一にまで輝いた事がある雲の上の存在なんだから。」


また彼女はフェアリーワールド内での話をしている。ゲームでは確かに全国1位になった事がある。

勿論お金にものを言わせていたが、1位になった事は確かなので彼女が言っている事は間違えてはない。だがゲームをやっていたのは僕だが、実際にそれを体験した訳じゃない。




「以前にも言ったけど僕は君を助けたのかも知れないけど、それは僕であって僕ではないんだリスフィスちゃん...」



そう。リスフィスの魔法人形が評価しているのはフェアリーワールドでの賀露島。

今の賀露島に対して彼女の評価は過大評価なのだ。いや過剰評価だ。

これは直接的には言わないが、フェアリーワールドの時のような力がない。っと言う事も遠回しに伝えた。




「....ふーん。そういう事だね。分かったよ.....。」



「..そう?分かってくれたのかリスフィスちゃん....」



先ずは賀露島という着火材を取り除く。これを理解すれば賀露島という存在がこの件で絡む事が無くなって、リスフィスの魔法人形は〈ヤンデレモード〉で無くなる筈。



だがこれは失言であった。





マ・タ・ボ・ク・カ・ラ・二・ゲ・ル・ノ・カ・イ




リスフィスが足を少しだけスッと上げる。足踏みをするつもりなのだろうか。

だがこの時、賀露島は気づいていた。これはリスフィスの魔法人形からの攻撃である事を。


何故そう判断したのか。

それは彼女の瞳の色を見れば分かった。



そしてそんな彼女の足が地面に着く。

その一瞬。それを確認した時には賀露島は体が動かせなくなっていた。




(体が...動かない!?)



体が動かせない訳。それは周り全体を見渡す事で納得した。



(...僕は..凍っている!?)


周りは氷で包まれている。しかもそれは賀露島の体にも付いてあった。


確か以前にもこんな光景を目にした。初めてリスフィスに出会った時に見たあの魔法。

周り一体を一瞬にして凍結させる〈完全凍結〉。


この魔法は確か西雷の巫女が使用していた〈魔法能力(ユニークマジック)〉の筈。




「..あぁ...主様....僕の主様...氷付けになっても僕は主様を...」



氷付けになって動かないオブジェになる賀露島の方へ歩み寄るリスフィスの魔法人形。

薄気味悪い笑みを浮かべながら一歩一歩と近づいてくる。


そして彼女が賀露島が凍っている氷に触れようとしたその時。

リスフィスの魔法人形はある物体に気が付いた。


それは彼女目掛けて飛んでいたので避けられた事により目的を失ったそれは、凍った地面に突き刺さった。

いや。突き刺さったという表現は少し違う。


まるで空から降ってきた隕石が地面に落ちたような。そんな衝撃があった。



(...って言うかヤバイ!僕の体を覆っている氷にヒビが!!)



賀露島の体は〈完全凍結〉により彼自身が氷となっている。その為、彼を覆う氷にヒビが入り割れる事で、その亀裂がそのまま賀露島にも入ってくる。

つまり氷が割れれば賀露島の体も割れるのだ。粉々に。



(そっ..そんなの嫌だぁぁぁぁぁ!) 



恐らく今賀露島に出来る事は体を使用せず頭の中だけで行える魔法スキルの選択ぐらいだろう。

だが彼の魔法は最上位魔法のみ。この凍結を解凍できるかもしれない魔法があったとしても、使えるのは最上位魔法なので威力は言われずとも強力なものしかない。

そんなのを使ってしまっては粉々になるのを速めるだけだ。



どうするべきか。そんな考えを巡らせている内にも、もう亀裂は賀露島の腹部付近まで入り込んでいた。

その状況に焦る賀露島。表情は凍っているので変えられないので心の中で焦っている。



しかし。カキィィインと大きな音が鳴り響くと賀露島の体は更に分厚い氷に包まれていた。

取り敢えず体の亀裂は再び新たな氷で塞がれた。



ひとまず助かった事にフゥと心を落ち着かせたが、根本的には解決していないので再び考える。


しかしそんな悠長に考えている時間がなかった。



(いっ...息が... .)




賀露島は現在氷付けの状態。体は全く何も動かせないし、表情も変えられない。

それどころか密閉空間なので呼吸すら出来ない。本来こんな事は氷付けになった時点で気づくものだが、そんな事を忘れてしまうぐらい切迫詰まっていたのだ。


動くことも下手に助ける事も出来ない。

これが〈完全凍結〉の能力だ。



次第に視界が薄れていく中で、綺麗な氷は透き通っていて賀露島はその中で外の様子を見ることが出来た。


未だに何かしらの物体がリスフィスの魔法人形目掛けて飛んでいる。

激しく揺れる中、賀露島はその物体を飛ばしている者の影を視界に捉えたが、視界がボヤけて誰か分からない。

賀露島はゆっくりと瞳を閉じた。



賀露島は遠退く中で何かに吸い込まれていく感覚がした。これは自身の頭の中の世界だ。


そしてそんな頭のイメージで何だろう?何が見える。

頭のイメージ内で見えたのは僕の姿だった。

凍って間抜けなオブジェになっている僕の姿だった。


そして完全に意識が無くなった。



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