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第12話 四人で一つの仕事をする

【主要人物イメージ】

前話までに仲間となった、レクト、フィナ、ガレン、リゼのイメージです。

※挿絵を表示しなくても本文はお読みいただけます。

挿絵(By みてみん)

 朝になり、水路保守員は容体が安定したため、夜の観察記録とともに治療所へ引き継がれた。


 残った俺たち四人は、辺境都市セレスティアの水路管理所に呼ばれた。


 窓口の奥では、夜明け前に提出した紙が机いっぱいに広げられている。


 放棄水路までの経路、採取した下級薬草の状態、盗賊蜂に刺された二人の症状、解毒薬を試した量と時刻。


 書いた俺でも目を背けたくなるほど細かな記録だったが、管理所の職員は一枚ずつ順に確かめた。


「救助、採取記録、事故報告を合わせて、銀貨十四枚です」


 職員が小袋を差し出し、俺は受け取る前に三人を見た。


「昨日の契約どおり、これは四人の共同運転資金に入れる」


 フィナとガレンが頷き、少し遅れてリゼも頷いた。


「私が使った薬草の分まで入っていますけど、本当に四人分でいいんですか」


 リゼが硬貨の触れ合う音を聞きながら尋ねた。


「薬だけで助けたわけじゃないし、薬を試せる状態まで運んだのも仕事だ」


 俺は銀貨十四枚と記した紙を、皆に見える向きで机へ置いた。


「成功だけを誰か一人のものにしないなら、報酬も最初から一つの仕事として扱いたい」


「分かりました」


 リゼは短く答えたが、今度は硬貨から目を逸らさなかった。


 管理所を出た俺たちは、そのまま市場へ向かった。


 昨夜だけで記録用紙はかなり減り、解毒薬の補充にも新しい材料が要る。


 リゼが材料を選び、フィナが紙の質を確かめ、銀貨三枚を共同運転資金から支払った。


「残りは十一枚ですね」


 フィナが帳面へ数字を書く。


「個人の銀貨はどうします?」


 彼女が言っているのは、以前の仕事で各自が得た銀貨四枚のことだ。


「動かさない」


 俺は即答した。


「共同の仕事に必要なものは共同資金から出すけど、個人で持っていた分まで曖昧に混ぜない」


「賛成だ」


 ガレンが自分の荷を担ぎ直した。


「四人になった途端、誰の金か分からなくなるのが一番面倒だからな」


 リゼは口を挟まず、フィナの書いた帳面を覗き込んだ。


 収入が銀貨十四枚、補充材料と記録用紙が銀貨三枚。


 誰かの好意や借りではなく、四人で確認できる数字が並んでいた。


 次に向かった共同宿舎では、大部屋を四人で三泊借りれば銀貨一枚だと告げられた。


 安さはありがたいが、寝台の間に仕切りはない。


 宿の主人が大部屋の鍵を出そうとしたところで、俺は隣の小部屋も借りられるか尋ねた。


「小部屋は三泊で銀貨三枚だよ」


「二部屋ともお願いします」


 俺が銀貨四枚を出すと、リゼが目を瞬いた。


「大部屋だけなら、一枚ですよね」


「そうだけど、男二人と女二人で部屋を分ける」


 大部屋は俺とガレン、小部屋はフィナとリゼが使うことにした。


「仕事を続けるなら、休める場所まで無理に安くしない方がいい」


 そう答えると、フィナが小部屋の鍵を受け取った。


「夜中に封緘紙を踏まれずに済みます」


「俺は踏まないぞ」


 ガレンが抗議すると、フィナはわずかに笑った。


「ガレンさんは踏みませんが、寝返りの音が大きそうです」


「まだ同じ部屋で寝てもいないのに決めるな」


 二人のやり取りを聞き、リゼが声を立てない程度に笑う。


 昨夜の彼女は、契約条件を一行ずつ疑うように読んでいた。


 今も警戒が消えたわけではないが、少なくとも鍵を握ったフィナの隣で、いつ逃げるかを考えている顔ではなかった。


 宿代を引いた共同運転資金は、銀貨七枚になった。


 フィナが帳面の残高を読み上げると、四人とも同じ数字を復唱した。


 銀貨七枚という額そのものより、誰にも隠さず次の仕事を選べることが嬉しかった。


 俺が前の人生で覚えたのは、人は熱意だけでは一緒に働き続けられないということだ。


 休む場所、使える金、断る条件が揃って初めて、明日の相談ができる。


 荷を置いた後、俺たちは大部屋の中央へ椅子を並べた。


 休養日のはずだったが、試しておきたいことが一つだけある。


「長くはやらない」


 俺は四人分の役割を書いた紙を床へ置いた。


「昨日まで、《最適編成》は相手を一人ずつ整えるものだと思っていた」


 俺の職業である《統合指揮官》が持つ《最適編成》は、同意した相手の既存の技能と動作順を噛み合わせる力だ。


 だが、同じ目的を持つ一組を、一人ずつしか整えられない方が、前の人生で業務の流れを組んでいた感覚からすれば不自然だった。


「四人が同じ仕事をするなら、役割同士のつながりまで整えられるかもしれない」


 俺は、四人それぞれの担当を紙に書いた。


 レクトは経路と指示、フィナは封緘と確保、ガレンは退路守護、リゼは薬と状態判断だ。


「一人一役で、途中の交換はなし」


 俺は三人の顔を順に見る。


「力が働くか確かめる前に、自分の役割を了承してほしい」


「封緘と確保を担当します」


 フィナが最初に答えた。


「俺は退路だ」


 ガレンは背後の扉へ目をやってから頷いた。


「私は薬と状態判断を担当しますが、薬の効果を越えることはできません」


 リゼは念を押し、それから自分の名がある紙へ指を置いた。


「その条件で了承します」


「俺は経路を決めて、指示を出す」


 全員の返事が揃った瞬間、頭の中でばらばらだった四本の線が、一本の流れとして見えた。


 力が湧いたわけではない。


 フィナの封緘が強くなった気配も、ガレンの腕力が増した様子も、リゼに新しい薬の知識が生まれた様子もない。


 ただ、誰がいつ動けば互いを邪魔しないかが、声に出す前から輪郭を持った。


「入口役はガレン、窓際にフィナ、リゼは机の薬箱を確認、俺は中央から順番を出す」


 三人がそれぞれの位置へ動く。


 ガレンが扉を開けて退路を確保した直後、フィナが窓枠へ細い封緘紙を留め、その手が離れるのを待たずにリゼが机へ着いた。


 俺が次を告げる時には、前の動作がちょうど終わっている。


「フィナ、窓際の袋を確保」


「はい」


「リゼ、薬瓶に破損なし」


「ありません」


「ガレン、通路は?」


「人影なし、いつでも出られる」


 狭い部屋で荷物を動かしているだけなのに、肩も声もぶつからない。


 四人全員へ同時に、動作順と声掛けのわずかな補正が働いていた。


「もう一度、役割を替えて――」


 もっと確かめようとして、俺はフィナへ経路判断、ガレンへ状態確認、リゼへ確保の役を当てはめようとした。


 その途端、こめかみに細い針を刺されたような痛みが走った。


 床が傾き、紙の文字が二重に見える。


「レクトさん」


 リゼの声が飛び、ガレンがすぐ背後から肩を支えた。


「止めます」


 リゼが俺の瞳を覗き込み、フィナは封緘紙から手を離して椅子を寄せた。


 四人の流れは、そこで途切れた。


「軽い頭痛と、視界の乱れだ」


 俺が症状を告げると、リゼは時間を確かめて紙へ書く。


「役割を無理に組み替えようとした直後ですね」


「たぶん、皆が了承した役割から、俺だけの判断で外そうとしたせいだ」


「なら、現場で便利だからと頻繁に替えるものではありません」


 フィナがきっぱり言った。


「私たちの役割は、レクトさんだけの持ち物ではないです」


 その言葉は痛いほど正しかった。


 俺の力は誰かへ技能を与えず、命令に従わせるものでもない。


 四人が自分で引き受けた役割を、短い間だけ噛み合わせるものだ。


「次からは、全員で決めた役割を俺一人の判断で動かさない」


 俺が約束すると、ガレンが支えていた手を離した。


「それなら使える」


 ガレンは床の紙を拾い上げ、四人の名を眺めた。


「誰か一人が強くなる力じゃないのも、俺は嫌いじゃない」


「私もです」


 フィナが頷く。


 リゼは記録を読み返した後、俺へ紙を差し出した。


「症状は治まり始めていますが、今日はここまでです」


「了解した」


 調薬師の退出判断を、俺は今度こそすぐ受け入れた。


 リゼの表情からほんの少し警戒がほどける。


 役に立つと示したからではなく、決めた条件が実際に守られたから生まれた安心だった。


 俺たちは四人で椅子へ戻り、同じ紙の記録を眺めた。


 完璧な連携ではないし、危険な場所で通じる保証もない。


 それでも四人になって最初の日に、誰かを置いていかない働き方が見えた。


 窓から入る朝の光の中で、皆が少しだけ満足そうに同じ記録を囲んでいる。


 それは大きな勝利より静かで、俺にはずっと確かな報酬に思えた。



 午後、冒険者の仕事を扱うギルドから、宿舎へ伝言が届いた。


 伝言は、浅層迷宮の入口付近に限った調査の提案だった。


 鎧のように硬い外殻を持つ魔獣――鎧殻鎌虫の殻片が、その付近で見つかったという。


 力試しと四人連携の検証に加え、放棄水路の荷に卵殻が混じった経路を調べられるかもしれない。


「今日、返事をする必要はないそうです」


 伝言を読み終えたフィナが、紙を机の中央へ置いた。


「なら、危険と条件を先に聞こう」


 俺はすぐに受けるとは言わなかった。


 ガレンも、リゼも、急かさず頷いた。


 四人で進む道は見え始めたばかりだからこそ、次は四人で止まれる条件から決める。

共同運転資金:銀貨14枚入金、補充に銀貨3枚、宿代三泊分に銀貨4枚、残高銀貨7枚。

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