一途な男と覚醒する重愛
カレンちゃんが気持ちよさそうに眠りについたのを確認し、俺はそっと保健室のドアを閉めた。
「ふぅ…さて、午後の授業に遅れる前に教室へ戻るか」
カレンちゃんの熱も少し下がったみたいだし一安心だ。
意気揚々と教室のドアを開け、自分の席へ向かおうとした、その時。
「あ!ユウくんだ!!」
「ちょっとユウくん!マジでこれ見てよ!」
バタバタと騒がしい足音が響き、クラスのギャルグループが一斉に俺を取り囲んだ。
中心にいるギャルが、スマホの画面を俺の目の前に突きつけてくる。そこには、サロンのホームページのトップを飾る、プロの手で完璧にセットされた俺(超絶イケメンモード)の写真がデカデカと掲載されていた。
「マジでモデルじゃん!超ヤバいんだけど!」
「ねえねえ、ユウくんってさ~、カレンの他にも好きな子とか狙ってる子っているの?」
「ウチらじゃダメ?今度二人で放課後遊びに行こうよ~!」
ぐいぐいと距離を詰め、腕を絡めようとしてくるギャルたち。
俺は一瞬、眉をひそめた。
ふっ…なるほどな。
俺の脳内で、瞬時に解読(ポジティブ変換)が完了する。
カレンちゃんが保健室で休んでいるこの隙を狙って、俺の『一途さ』と『浮気をしない誠実さ』を試す刺客を送り込んできたわけか… どこまでも抜け目のない愛のテストだな、カレンちゃん!
ここで鼻の下を伸ばしてギャルと遊ぶような軽い男なら、カレンちゃんに呆れられて当然だ。
求められているのは、どんな誘惑にも揺らがない『鉄壁の誠実さ』!
「悪いけど」
俺は凛とした表情で、彼女たちの誘いをキッパリと拒絶した。
「俺の心にはカレンちゃんしかいない。他の女子と二人で遊ぶなんて、カレンちゃんに対する裏切りだろ」
「「「きゃあああぁぁぁ!!素敵♡」
一分の隙もない過剰なまでの超絶一途イケメンムーブ。
ギャルたちは顔を真っ赤にして。
「一途すぎる!」
「カッコよすぎて無理!」
「カレンが羨ましすぎてヤバいんだけど!」
と胸を押さえて悶絶しだした。
◇◇◇◇
その頃。
「うぅ…やっぱり、ユウくんのそばにいたい…」
少し体調が回復したカレンは、ユウの温もりが恋しくなり、フラフラと覚束ない足取りで保健室を抜け出していた。
しかし、教室の前にたどり着いた瞬間。
ドアの隙間から、ギャルたちがユウを取り囲んで甘い声を上げている光景が目に入ってしまった。
「ねえねえ、ユウくんってさ~、カレンの他にも好きな子とか狙ってる子っているの?」
「っ!?」
カレンの全身から血の気が引いていく。
やめてっ!私のユウくに触らないで!!
激しい罪悪感が胸を押し潰す。
そうよね…私があんな酷いことを言ったから…ユウくんが他の女の子に奪われちゃっても、私には責める資格なんてない!ああ、嫌だ、嫌だよっ!!
絶望の淵で涙をこぼしそうになった、その時だった。
「俺の心にはカレンちゃんしかいない。他の女子と二人で遊ぶなんて、カレンちゃんに対する裏切りだろ」
隙間から聞こえたユウの声は、どこまでも澄んでいて、力強かった。
「彼女は俺の魅力を一番引き出してくれた特別な人だ。他の子なんて目に入るわけないだろ」
ピシッ、と。
カレンの中で、何かが決定的に砕け散る音がした。
あ………
罪悪感の限界突破。
そして、自分をどこまでも肯定し、世界中で私だけを愛してくれる完璧な男への、狂おしいほどの愛おしさ。
その二つが混ざり合った瞬間、カレンの瞳から光が消え、底知れぬ漆黑の熱が宿った。
ああ…そうだったんだ。ユウくんは、最初から私だけのものだったんだ…もう、罪悪感に苛まれて逃げるのはやめよう。
こんなに私を愛してくれて、私好みの完璧な男になってくれたユウくんを、他の女に渡すなんて絶対にあり得ない。
『暴言を吐いた悪魔』?結構じゃない。
ユウくんが私を『特別な人』と言ってくれるなら、私は喜んでその言葉に応えよう。
カレンはドアの影で、真っ赤な顔でうっとりと、そして歪んだ笑みを浮かべた。
もう絶対に誰にも渡さない。
ユウくんの優しさも、カッコいいお顔も、その甘い声も…全部全部、私だけのもの。
一生私のそばに閉じ込めてあげるね…ユウくん♡
カチリ、と。
貞操観念逆転世界で、最強のヤンデレ重愛ヒロインが完全覚醒した瞬間だった。
もちろん、教室の中で「よし、カレンちゃんへの誠実さを見せられたぞ!」と爽やかに満足しているユウは、自分が望んでいた『試練』が、想像を絶する重愛となって返ってこようとしていることに、まだ気づく由もなかった。




