自分磨きの限界突破
「カ、カッコいいっ!お客様、いかがでしょうか!?」
鏡の前で、美容師の女性が震える手でハサミを置き、顔を真っ赤にして感嘆の声を漏らしていた。
「うん、ありがとうございます。気に入りました。でも本当にタダでいいのですか?カットモデルでしたっけ?」
「はいぃっ!写真だけ撮らせていただいて、うちの店のホームページのTOPに掲載させていただければそれで十分です!むしろお金を払いたいくらいで!」
「そっか、助かります」
鏡に映る自分の姿を確かめる。
これまでは伸ばしっぱなしだった黒髪を、爽やかなショートマッシュに整え、軽くワックスで毛束感を出してもらった。
うん、イケメンだよな?
爽やかさが出てすごくいい感じだ!これでカレンちゃんも…
美容師の女性は、俺のうなじや顔のラインを撮影しながら「はひぃ…男子が美容室に来て髪をセットする日が来るなんて…しかも国宝級の美男子!」と鼻血を拭っていたが、まあプロのこだわりなのだろう。
よし、外見の清潔感はこれで完璧だ。
◇◇◇◇
そして翌朝。
ガラッと教室のドアを開けた瞬間、空気がピキッと固まった。
「…え?」
「ヤバっ」
「嘘でしょ…誰あの子?」
女子たちのざわめきが一瞬で広がる。
昨日までの『後ろで結んだ清潔感ある美少年』から、プロの手によって洗練された『爽やか系超絶イケメン』へと覚醒した俺の姿に、教室中の女子が息を飲んでいた。
俺はそんな周囲の視線など一蹴し、まっすぐにカレンちゃんの席へと向かう。
「カレンちゃん、おはよう!」
「!?ユ、ユウくっ!???」
顔を上げたカレンちゃんが、絶句した。
髪型を変え、完璧なシルエットとなったユウの顔が、目と鼻の先の距離にある。
ふわりと漂う、サロン特有の良い香りと、男らしい清潔なフェロモン。
(なっ…なんですかその髪型はぁぁ!!??カッコよすぎる!爽やかすぎる!待って、元から整った顔立ちだったけど、本気出したらそこらのアイドルより格好いいじゃないですか!!)
カレンの脳内で、限界突破の警報が鳴り響く。
「あのさ、カレンちゃん。髪切ってみたんだけど…どうかな?少しは『好みの男』に近づけた?」
首を少し傾げ、最高の笑顔で尋ねるユウ。
(好みの男!?好き…好きです!大好きです!抱きしめたい!今すぐそのモチモチの頬に触れたい!…じゃなくて!!)
「あ…う…っ!」
あまりの眩しさと尊さに、カレンの視界がクラクラと揺れる。
自分が放った『大嫌い』という暴言のせいで、彼がここまでのイケメンに変貌してしまったという事実。
(私は…私は酷いことを言ったのに、なんでユウくんは私に認められようと必死にっ!なんでそんなに私好みの最高に格好いい男になって目の前に現れるの!?罪悪感とトキメキで、心臓が破裂しそうっ!!)
「近寄らないで」どころか、もう声すら出ないカレンは、顔を真っ赤に熟させながら、ガバッと机に突っ伏して震えだしてしまった。
「(近寄ら)ない…め、(心臓と理性がもたないよ)」
「ないめ?あ…ごめん、そうだよな?外面だけ良くてもカレンちゃんに釣り合わないよな」
俺は少し反省する。
なるほど…『見た目じゃなくて、もっと内面や行動で示せ』ってことか。
外見だけ整えて満足している俺の甘さを見抜かれたな…カレンちゃん、どこまで俺を高めようとしてくれるんだ!
カレンちゃんの底知れぬ愛の深さに、俺は再び胸を熱くするのだった。




