雑音は切り捨ててこそ男である
「ユウく〜ん、あんな暴言を吐く暴力的な女なんてほっときなよ〜」
昼休み。
俺が自分の席で次の自分磨き計画、筋トレメニューのアップデートを練っていると、ふにゃけた甘い声が降ってきた。
顔を上げると、そこには昨日の校舎裏の件をクスクス笑っていた女子グループが立っていた。
前屈みになり妙に胸元をアピールするようなポーズを取り、上目遣いで俺を覗き込んでくる。
「そうそう。あんな冷たくて酷い女より、ウチらと仲良くしよ?」
「男の子があんな酷い目に遭うなんてかわいそー!ウチらならユウくんのこと、もっと優しく甘やかしてあげられるよー?」
ベタベタと距離を詰め、俺の腕にしがみつこうとしてくる女子たち。
教室の隅では、その光景を見ていたカレンちゃんが「やっぱりそうなるよね…私は男子を傷つけた悪魔だもの…」と絶望的な顔でうつむいていた。
俺は一瞬、冷ややかな目を彼女たちに向けた。
…は?なんだコイツら。
女子グループの言葉が、あまりにも薄っぺらく、そして浅はかに聞こえて仕方がなかった。
優しく甘やかす?仲良くする?
冗談じゃない。
俺が求めているのは、そんな生ぬるい関係じゃないんだよ!
カレンちゃんは違った。
俺という男の可能性を信じ、あえて悪者になってまで『大嫌い』という苛烈な愛の鞭、発破を叩き込んでくれたんだ。
それなのにコイツらは、カレンちゃんの深い愛を『暴力』だなんて浅はかな言葉で侮辱している。
俺は静かに、しかしハッキリとした手つきで、まとわりついてくる女子の手をパシッと振り払った。
「触らないでくれないか」
「「え?」」
あまりにも冷ややかな声に、女子グループが凍りつく。
普段、男子から拒絶されることなんて一度もない彼女たちにとって、それは生まれて初めて経験する男からの拒絶だったのだろう。
「ユ、ユウくん?ウチらはユウくんのために…」
「君たちの言葉には『覚悟』がない」
俺は立ち上がり、彼女たちを上から見下ろした。
昨夜からの筋トレと清潔感あふれる身だしなみによって、今の俺はクラスの誰よりも圧倒的な存在感を放っている。
「カレンちゃんはね、自分の評価が下がるリスクを背負ってまで、俺に真剣に向き合ってくれたんだ。俺を本気で変えようとしてくれたんだよ…それに比べて君たちはどうだ?陰で人を笑い、傷つきもしない安全な場所から、うわべだけの甘い言葉で俺を誘惑しようとしている」
「なっ!?な、なにそれ…」
「悪いけど、俺はカレンちゃんに相応しい男になるために忙しいんだ。カレンちゃんの『覚悟』を侮辱するような奴らと付き合っている暇はない」
バッサリ。
一分の隙もないイケメンモードで言い捨てると、女子グループは顔を真っ赤にし、ぐうの音も出ない様子でワナワナと震えだした。
「な、なによそれぇぇぇ!カレンの味方するなんて信じられない!!」
悔しさと恥ずかしさで叫びながら、ダサく逃げ出していく女子グループ。
教室中の女子たちが。
「あのグループ、男子に完膚なきまでに拒絶された…」
「ダサ…」
「自業自得ね」
と冷ややかな視線を送っていた。
軽いザマァの完了である。
「ふぅ…変な邪魔が入ったな」
俺は息を吐き、呆然としているカレンちゃんの方へと向き直る。
「あ…あ…」
カレンちゃんは、開いた口が塞がらない様子で俺を見ていた。
(な、なになになに今の!?私を庇ってくれたの!?酷い暴言を吐いた私を!?)
カレンちゃんの脳内は大混乱に陥っていた。
男子に嫌われるどころか、圧倒的なフェロモンを纏ったユウから「覚悟を侮辱するな」と、熱烈すぎる肯定と守るような言葉を贈られたのだ。
罪悪感と、あまりの格好良さへのトキメキ。
二つの感情が凄まじいスパークを起こし、彼女の顔は熟したトマトのように真っ赤に染まっていく。
(尊い…無理…格好良すぎるっ!待って、私が悪者なのに、なんでそんなに一途に私だけを見てくれるの!?理性が…理性が保てないっ!!)
「カレンちゃん、大丈夫?変な奴らに絡まれて災難だったね」
爽やかな笑顔で心配する俺。
…よし、誘惑に負けず信念を貫く男らしさを見せられたぞ!これで少しは合格点に近づけたはずだ!
もちろん、カレンちゃんの理性が今にも限界を迎え、色んな意味で爆発寸前になっていることには、俺はまだ一切気づいていないのだった。




