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貞操逆転世界で『男が自分磨き』をするとこうなる

「ふぅ…よし、こんなもんか」


鏡の前で俺、ユウは自分の顔をチェックする。


カレンちゃんに相応しい男になるため、昨日の夜からさっそくガチの自分磨きを開始した。


腕立て・腹筋・スクワットの筋トレはもちろん、洗顔後のスキンケアも欠かさない。


ただ、ドラッグストアに行ったときは驚いた。

男性用の化粧水や洗顔料がどこを探しても売っていなかったのだ。仕方なく店員さん(なぜか鼻血を出しそうになりながらプルプル震えていた)に勧められた女性用の最高級スキンケア用品を購入した。


なんでもこの世界、男子は『自分磨き』なんて一切しないらしい。


髪はボサボサで伸ばしっぱなし、爪も切り忘れて爪垢が溜まっていてもスルー。良く言えば自然体、悪く言えば不潔。


それでも男性の数が圧倒的に少ないため、放っておいても女子の方から群がってくる。だから男子側に自分を良く見せようという発想すら湧かないのだそうだ。


ふふん、甘いなこの世界の男子どもは!カレンちゃんレベルの高嶺の花を落とすには、清潔感こそが命だろ!


女性向けファッション誌を読み込み、メンズのトレンドを研究した俺はハッと気づく。


「そういえば…カレンちゃんって、どんな男性の髪型が好きなんだろう?」


まだ好みを聞けていない。


今日のところは爽やかさをアピールするために、少し伸びた黒髪を後ろでひとつ結びにしておくか。


◇◇◇◇


登校し、教室のドアを開けた瞬間。


俺は強烈な違和感を覚えた。


…あれ?


いつもならクラスの中心で、女子たちに囲まれて楽しそうに笑っていたカレンちゃん。


しかし今日の彼女の周りには、ポッカリと誰もいない空白の領域ができていた。


それどころか、教室の隅にいる女子グループから、カレンちゃんへ向けられる冷ややかで陰湿な視線。


まるで「関わったら同類」とでも言いたげな、露骨なハブり方だった。


な、なんだ?一体何があったんだ?


カレンちゃんは自分の席で小さくなり、顔を限界まで伏せて肩を震わせている。


…そうか!あいつら、俺に強い言葉でハッパをかけてくれたカレンちゃんを『ツンデレで素直になれない奴』って笑いものにしてるんだな!?許せねえ…


俺は迷わず、カレンちゃんの席へと歩み寄る。


「カレンちゃん、おはよう!」


「えっ!?ユ、ユウくん!?」


ガタッと机を鳴らして顔を上げたカレンちゃん。


次の瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。



―目の前にいるユウの姿に、息を呑む。

ほんの昨日まで野暮ったかったはずの髪は、綺麗に後ろで結ばれ、男らしい首筋とうなじが露わになっている。

女性用の最高級化粧水で整えられた肌はモチモチで、ほのかに甘い石鹸の香りが漂っていた。


ただでさえ希少な男子が、まさかの『清潔感あふれる美少年』へと進化を遂げていたのだ。


(えっ…えええっ!?何その格好!?か、かっこいい…ううん、そうじゃなくて!なんで私なんかに話しかけるの!?暴言を吐かれた男の子が、男子にハラスメントをした犯罪者の私に近寄ったら危険なのに!)


「あのさ、カレンちゃん。カレンちゃんって、男性のどんな髪型が好きなの?今日の後ろ結び、どうかな?」


爽やかな笑顔を意識して、ぐっと顔を近づけて尋ねる俺。


(ち、近い近い近い!!男性のいい匂いがする!待って、私なんかにそんな可愛い笑顔を向けないで!罪悪感で心臓が破裂しそう…っていうか、格好良すぎて理性が飛ぶっ!!)


「ち、近寄らないでっ!(必死)」


悲鳴のような声で、カレンちゃんは必死に顔を両手で覆い、ガバッと後ろへ距離を取った。


「………」


俺は一瞬、ピクッと眉を動かす。


『近寄らないで』…か。


普通ならショックを受ける場面だ。だが、今の俺には見える。見えてしまう!


真っ赤になった耳たぶ、必死に俺から目を逸らそうとする潤んだ瞳!


なるほど…『安易に触れ合わず、まずは男としての格好良さを高めろ。軽々しく私に触れるのは、もっと魅力的になってからにしなさい』ってことだな!?


なんて厳しい…だが、なんて深い愛の鞭なんだ!


生半可な自分磨きじゃ、彼女の合格点はもらえないということか!


「わかったよ、カレンちゃん。急に距離を詰めすぎてごめん。俺、もっと格好良くなって出直してくるから!」


「え?ふぇ?」


ビシッと親指を立てて爽やかに宣言すると、俺は自分の席へと戻った。


残されたカレンちゃんは、真っ赤な顔でポカーンと口を開けていた。


(え?出直すって…何に?なんで酷いことを言われたのに、そんなキラキラした目で私を見てくるの?私、何か恐ろしい罠にハメられてる!?)


そして教室の隅では、俺の劇的な変化を目撃した女子グループが、なぜか悔しそうに歯噛みをしていたのだった。


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