呼び出しの告白が『大嫌い』だった件
「急に呼び出してごめんなさい。実は私、ユウ君のこと…」
夕暮れ時、放課後の校舎裏。
赤く染まる影の中で、目の前の少女、クラスの高嶺の花であるカレンちゃんは、可憐な唇を震わせていた。
き、来た~!!
俺の心臓はバックバクだ。
だってそうだろ!?
クラスでも一目置かれる美少女からの、人生初・校舎裏への呼び出し!
これなんてギャルゲー?もしかして恋のイベント発生ですか!?
…いや、待てよ。落ち着け俺。
一瞬、冷たい思考が脳裏をよぎる。
最近のWeb小説でよくあるパターンだ。実はクラスの裏グループにいじめられていて、罰ゲームで嘘の告白をさせられているんじゃないか?
で、そこから嘘から始まる偽物の恋人関係になって、最終的にめちゃくちゃ懐かれる…みたいな。
…うん、それはそれでアリだな!
むしろ大歓迎まである。
俺の準備は万全だ。さあ来い、嘘でもなんでも抱きしめてやる!
「私、君のこと…顔も見たくない!大嫌い!」
「…は?」
空間が凍りついた。
カレンちゃんは顔を真っ青にし、その瞳にポロポロと涙を浮かべながら、スカートの裾を固く握りしめている。
そして俺がフリーズしている隙に、まるで恐ろしいバケモノから逃げるかのように、全力で走り去ってしまった。
…おい。
「嘘だろ…」
ぽつんと一人、校舎裏に取り残される俺。
…告白どころか、わざわざ呼び出しておいて『顔も見たくない、大嫌い!』って叫んで逃げられた?
「…待てよ?」
俺は顎に手を当て、高速で思考を巡らせる。
おかしい。あまりにも不自然だ。
もし本当に俺のことが嫌いなら、視界に入れないようにスルーすればいいだけのはず。
わざわざ放課後に校舎裏まで呼び出して、面と向かって『大嫌い』なんて感情をぶつけてくる必要がどこにある?
ハッ!?
俺の脳内に、稲妻のような電撃が走った。
「そうか…そうだったのか!!」
わざわざ呼び出してまで、涙目で感情を爆発させてきた…
これってつまり『今のアンタじゃ満足できないから、もっと私にふさわしい男になりなさいよ!』っていう、ツンデレの超高度な愛のメッセージなんじゃないか!?
『大嫌い』は『今のアンタのままじゃ嫌』の裏返し!
わざわざ嫌われ役を買って出てまで俺に喝を入れてくれたんだ!
「なんて深くて激しい愛なんだ…カレンちゃん…」
一瞬で前世での超ポジティブ魂にスイッチが入る。
よし、決めたぞ。
この貞操観念逆転世界で俺をそこまで本気で評価し、期待してくれているんだ。その期待に全力で応えてみせる!
今日からガチの自分磨きを始めて、絶対に彼女に相応しい男になってやる!!
俺が拳を握り締め、希望に胸を膨らませていたその頃。
◇◇◇◇
遠く離れた校舎の陰。
「くすくす…見た? 今の!」
「マジで言ったよあいつ!『大嫌い』だって!」
「ユウくん拳握ってる、あいつ死んだわw」
隠れて様子を伺っていた女子グループが、下劣な笑みを浮かべてヒソヒソと囁き合っていた。
「あいつ、男子にチヤホヤされて調子乗ってるから気に入らなかったんだよね」
「そうそう。ウチらの方が百倍可愛いっつーの。これでカレンの人生も終わりね」
彼女たちがカレンに命じた『罰ゲーム』。
それは、男子に暴言を吐かせて学園で完全に孤立させるという、あまりにも陰湿で悪質な罠だった。
そして…
当のヒロイン、カレンちゃんは校舎の陰で崩れ落ち、激しく過呼吸を起こしていた。
「やってしまった…やってしまったやってしまった…くっ!!」
真っ白になった頭の中で、絶望の叫びが渦巻く。
この世界において、希少で尊い存在である男子に対し「キモい」「大嫌い」などという暴言を吐くこと。
それは人前で無抵抗な人間に暴力を振るい、悪質なハラスメントを働くことと同義の『大事件』であった。
もし誰かに見られていたら、男子に暴言を吐いた異常者、サイコパスとして一瞬で指名手配され、社会的抹殺は免れない。
「私の人生、終わった…あんな優しい男の子に酷いことを言って傷つけてしまった… 私は男子を傷つけた悪魔として、一生蔑まれて生きていくんだ…」
罪悪感と恐怖で、血の気が完全に引いていく。
彼女はまだ知らなかった。
自分が傷つけたはずの男子が、今この瞬間、「カレンちゃんにふさわしいイケメンになるぞ~!」と恐ろしい勢いでモチベーションを爆発させているということを…




