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デキる上司と秘密の子育て ~気づいたらめためた甘々家族になってました~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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小さな俺と、小さな君と、


「どう? パパ、仁菜、可愛い?」

「可愛い。お姉さんに見える」

「そう! 今日から一年生だから。パパのスーツもいつもの会社と違う」

「そう。ちょっといいやつ。仁菜の大切な日だから」

「会社にいくスーツもこっちのがいいよ、会社のスーツしなしなだから!」

「しなしな……」


 会社に着ていっているスーツ、そんなに古びているだろうか……。

 消耗品なのでそれなりの値段のものを年に一度の頻度で変えているのだが……と思っていた横で菜穂が首を振って、


「今日は仁菜のために、すっごくカッコイイスーツにしたんだよ。特別ってこと」

「そっか! だって入学式だもんねー!」


 仁菜がそう言った横で菜穂が俺のほうをみて、


「会社のスーツ、全然問題ないですよ。私はすごく好きです」

「……そうか」


 嬉しくなって菜穂の手を握ると、横に仁菜が来て、


「ママもすっっごくステキ。そのベージュのワンピース、絶対絶対似合うと思ったの」

「派手すぎない?」

「そんなことないよ! ママはもう紺とか黒とか、そういうの禁止!」

「でも仕事だとそっちが便利なの」

「禁止なの、禁止禁止! 仕事も可愛いほうがいいよ、絶対そうなの」


 そう言って仁菜は叫んだ。

 今日は仁菜の小学校の入学式だ。

 小学校の入学式は平日に行われるので、俺と菜穂は有休を取った。

 今日は入学式と教室に入って挨拶だけなので、ランドセルを背負って来なくて良いという話だったが、仁菜は着替え終わってすぐランドセルを背負っていた。

 買ってもらったという白と紫のワンピースに、紫色のランドセルは黄色と緑の縁が付いていて、まさにラプンツェル。

 でも長い髪の毛はしっかりと結ばれていて「入学式」という雰囲気がする。

 話していると、道路から階段を上ってリュウが来た。


「仁菜ちゃん!」

「リュウくん、おはようー! やっぱりその服、かっこいい!」

「良いでしょ」

「パパと同じだ。みんなで写真撮ろう!」


 菜穂の家の前で話していたら、入学式の服装をしたリュウが来た。

 卒園式と入学式のために子ども用のスーツを購入したようで、子ども用だが大人のものと形が全く同じで、作りもしっかりとしている。

 追いついてきた彩音が、


「おっはよー!」

「リュウのスーツ似合ってるな」

「そうなんだけど、ほんと値段は可愛くないよ。大人のスーツと同じ値段だもん。でも似合っててカッコイイよね!」


 そう言って彩音は笑った。

 みんなで歩いて小学校まで向かう。

 子どもが歩いて通える距離にあるのが小学校だが、それでもうちは結構田舎なので遠い。

 でも子ども園と違って自由に歩いて行けるのが仁菜もリュウも楽しいみたいで、


「こっちこっち!」


 とふたりで朝からさっそく寄り道をしようとしている。

 菜穂と彩音が同時に、


「寄り道しない!!」


 と叫ぶ。そしてスーツを着ているのに木を集めようとするリュウを彩音が止めて、小川に葉っぱを流そうとする仁菜を菜穂が止めた。

 そうなってしまうから……とかなり早めに家を出たが、これは入学式から時間のピンチを感じる。

 スマホで時間を見ていたら、目の前にトラックが止まった。


「おっ、みなさんお揃いで綺麗な格好して!」

「おつかれさまです」

「透くん! 今日よろしくな!」

「よろしくお願いします」


 俺はその場で頭を下げた。 

 道で偶然会ったのは、じいさんと合同の会社を作った大工の源さんだった。

今、俺と菜穂と仁菜の家を作ってくれていて、今日午前中に入学式があるなら、午後は上棟式をしようと決めてくれた人だ。

 先日建物の一番高い場所に棟木むなぎを上げて、建物の形が見えた。

 そのタイミングでするのが上棟式という儀式で、昔で言うと家の神様への挨拶……今は大工さんへのお礼の会だ。

 基本的に正装が必要になるので、ちょうどよいと判断した。

 ギリギリ桜の花が残っている春の日、青空が気持ち良くてみんなでゆっくり……いや間に合わない……小学校に向かった。


「おお……覚えているような……まったく覚えてないような……」

「どうですか、体育館、変わりましたか?」

「さすがに記憶にないな」


 この小学校は俺と彩音が卒業した所だ。

 だから通っていたから学校はもちろん「懐かしい」と感じるが、体育館でどういう風に式をしたかは覚えてない。

 でも体育館履きを入れる古びた棚や、寒い渡り廊下、校庭の遊具などは覚えていて、懐かしい。

 菜穂は高校のタイミングでこっちに引っ越してきたので違う小学校なので、俺の横で、


「透さんもここに通っていたんですね。どんな小学生だったんですか?」


 と目を輝かせている。

 正直あまり覚えてないが……、


「非常階段をダッシュして上がって下がって……の競争をしていた覚えがある」

 横に座っていた彩音が、

「えーー?! 小学校の非常階段って立ち入り禁止だったよ」

「……分からない……でも俺はしていた……その記憶だけはある」

 反対側に座っていた菜穂がクスクス笑い、

「透さんにもそんな時期が」

「いや……普通に入れた気がするんだが……でも鍵が壊れていた所を探してきた記憶もある」

「リュウも絶対するじゃんー! てか、そんなことできるって絶対に教えないでよ?!」


 と文句を言う。

 小学校時代……と思い出すと、出てくるのは非常階段を飛び降りるように走り下りていたことと、廊下を滑ってズボンがビリビリになったことと、組み体操の一番上に立ちたくて立候補したこと……ポツポツと語ると彩音が「はあ?! お兄ちゃんわんぱくすぎない?!」と睨む。

 横で菜穂がお腹を抱えて笑っている。そんなこと忘れていたが、小学校に来ると記憶が蘇ってくるんだな。

 入学式が始まり、真ん中の通路を新一年生が入ってくる。

 どうやら三クラスあるようで、リュウが1-1組、仁菜が1-2組のようだ。

 拍手をしていると胸をピンと張ったリュウが入ってきた。

 リュウはどうやらかなり身長が高いようで、一番後ろで誇らしげだ。

 彩音が撮影しているので、俺は写真を撮影する。菜穂は控えめに拍手をしている。

 そして2組の入場になり、仁菜が入場してきた。

 仁菜もかなり身長が大きいようで、後ろのほうで、いつもより緊張した面持ちで歩いてくる。

 でも俺と菜穂を見つけて、胸元のバラを見せて、ピースした。可愛すぎるが、前を見たほうがいい。

 大きく手を振って会場に入り、席にすわった。そしてチラチラと俺と菜穂のほうを見ている。うん、前を見た方がいい。

 横で菜穂は、


「ああ……ちょっと前を向いて……!」


 とそわそわしている。

 でも先生が前に立つと集中したようで、しっかり話を聞けていた。

 はじまった入学式で流れた校歌に聞き覚えがあって、思わず何度も頷いていたら、横で菜穂が口元を押さえて笑っていた。

 学校のことはあまり覚えてなかったけど、これは覚えている、懐かしい。

そして俺の横で、誰よりノリノリで歌っていたのが彩音で、それも面白すぎた。

 式が終わってから教室に移動する。

 廊下で待っていると、先生と一緒に生徒たちが歩いてきた。

 この前まで子ども園に通っていた子たちだから当然幼く小さいけれど、それでもどこか誇らしげで可愛い。

 仁菜はもう仲良く話せる子ができたのか、女の子と一緒に廊下を歩いて入ってきた。

 そして俺たちを見つけて笑顔になり、また両手でピースをした。

 教室に入って席に座るが……、横で菜穂が、


「机がすっごく大きく見えますね」


 と言った。教室の中には子どもたちが座る椅子と机があるんだけど、そこに子どもたちが座ると、みんな胸くらいまで机がくる。

 仁菜にも机が大きすぎるように見えるが、すぐに大きくなるのだろう。

 先生は黒板に名前を書いて自己紹介をはじめた。


「佐藤千絵先生です、ちえ先生と呼んでください、よろしくおねがいします」

「よろしくお願いします!」


 子どもたちは声を張り上げる。

 そして学校生活をはじめる上で必要なことを話し、明日必要なもの、そしてトイレの使い方を教えてくれた。

 今日はこれで終わり。親たちも教室内に入ってよいと先生が言った。

 それを聞いてそわそわしていた仁菜がパアと笑顔になり、俺たちのほうを見た。

 そして机を叩き、


「ママ、パパ! ここが仁菜の席なの!」


 菜穂は仁菜の横に座り、


「どう? 黒板見える?」

「うん! 楽しそう!」

「入学式頑張って歩いてたね」

「ドキドキしちゃった。わあ、教科書! ……すごい量だな、なんだこれ」


 さっきまで目をキラキラさせていた仁菜が、机の上に積まれた教科書を見て一瞬で現実に戻ったのが面白すぎる。

 仁菜は持って来たランドセルに少し教科書を入れたが、数冊入れて「重たいからパパとママ持って!」と押しつけた。

 たしかに全教科置いてあり、すごい量だ。今からこれを持ち帰ってすべてに名前を書く必要がある。

 俺たちは持参した袋にわけてそれを入れて、学校を出た。

 そして校門の二カ所に『入学式』の看板が立っていたので、彩音と一緒に写真を撮って帰る。

 お天気も良くて桜もまだ残っていて、菜穂のベージュのスーツは桜とすごくマッチしていて、俺は仁菜を抱っこしている菜穂をたくさん撮影した。

 最近髪の毛伸ばした菜穂は、高い場所で縛っていて美しい。

 仁菜の入学式だけど、菜穂の記念日でもある。

 今日を一緒に迎えられて嬉しい。


 そして教科書を持って家に帰り、そのまま上棟式に向かった。

 疲れているが、もう着替えの手間を省く方向性にした。

 それに昔は神主さんを呼んで大がかりにしていたが、今は簡略化されている。

 しない所も多いようだが、じいさんが庭師で、大工さんが同じ会社となればしないわけにはいかない。

 最近ではほぼしないようだが、じいさんの提案で上棟式と一緒に餅投げをすることにした。

 「子どもがいる家は、今もたまにする」ようで、仁菜に言ったら「ぜったいする!!」と目を輝かせた。

 まずは上棟式。スーツで骨組みのみの家に入り、幣束の前で頭を下げる。

 そして四方に日本酒を撒けばおしまいだ。

 でもみんなで骨組みのみの家に入るのは、確認の意味も含めているのだろうと思う。

 この時点で大黒柱に記念として何か書く人が多いと促されて悩んでいると、仁菜が「今日は入学式!」と大きな文字で書いた。

 当然見えなくなるが良い記念になるので、それを囲んでみんなで写真を撮る。

 そして餅投げをすることになった。

 家の外に足場が組んであるのだが、これがまあ足場なので、下が透けてかなり怖い。

 仁菜が怖がるのでは……と思ったが、横で目を輝かせている。


「パパ、これ、上っていいの?!」

「怖くないのか?」


 そう言うと仁菜はぶんぶんと首を振って、

「仁菜、工事してるの見てて、ず~~~っと上りたいと思ってたの、超我慢してたの!!」

 そうなのか。

 後ろの菜穂のほうは、

「ちょっと……下が透けて……?」

 と言っていたので、菜穂とも手を繋いで二階の高さにある足場にあがった。

 怖がると思っていた仁菜は、餅を投げる場所まですぐに上って、下を見た。


「わああああ、すっごい高い! みんな~~仁菜だよ~~!」


 そう言って手を振った。

 下には家族や、近隣の人、じいさんが作った会社仲間や、庭の常連さん、そして駅前の居酒屋の常連さん、そして仁菜とリュウの友だちも集まって、正直かなり人が多くて笑ってしまう。

 むしろ菜穂は俺の手を強く握って、


「えっ、怖い。怖いですよ、ここ。高すぎます」

「一緒に戻ろう」

「いえっ……それはダメです、だって透さん施主だもん。できますっ!」

「じゃあ俺が腰を支えてるから、反対側の手すりを持って。それなら大丈夫? 怖かったらすぐに一緒に下りよう」

「はいっ……!」


 菜穂は怖いようで俺にしがみ付きつつ、それでもひとりだけ下りるわけにも行かず足場に立った。

 そして誰より楽しそうな仁菜の手を反対側の手で引っ張った。

 手が足りない……!

 結局じいさんも源さんも上がって来てくれて、仁菜を見てくれた。

 俺は見守りつつ菜穂を抱っこして奥にいた。

 メインで餅を投げているのが仁菜で楽しすぎる。

 下からリュウが叫ぶ。


「仁菜ちゃん、こっちにくれ!!」

「よしリュウくん行くよ、うおおおおおお!!!」


 仁菜が投げた餅は森の中に消えて行ったが、それでもリュウは走って取りに行った。

 別のゲームになっている気がする。

 最後にお菓子を投げて、上棟式は終わった。仁菜はひたすら楽しそうで「もう一回したい!!」と目を輝かせていた。

 さすがに人生で二度することじゃないけど、仁菜が楽しそうで良かった。

 高さから解放されて元気になった菜穂と俺と仁菜で、教科書に名前を書きながら小学校の話をした。

 俺と娘になった仁菜が同じ小学校に通うのが、なんだか嬉しくてこそばゆい気がする。




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― 新着の感想 ―
 入学式用の子供スーツは高いですよねぇ。  1回しか着ないのに。
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