ではインタビューしますね?
「椿山とかー、コンチとかマグナスとかで結婚式すれば良かったのにー!」
「……美香子。それどれだけお金かかるの?」
「最近みんな結婚式しなくてつまんないー」
「高いし、どこまで声かければいいのか分からないし、もう会社の人を呼ぶ結婚式自体をしたくないのよ」
「まあねー。広瀬さんと菜穂の結婚式なら、うちの会社の人たち全員出たがるもん。200人規模になるよ」
「無理よ、誰を呼ぶか、呼ばないか、それを考えるだけで大変。本社まで含めたらもう無理」
私は会議室で首を振った。
四、五月の怒濤の時期が終わり、六月に入った。
ここまでくると仕事がかなり落ち着くので、私と透さんの会社向けの飲み会を開くことにした。
正直大変すぎて、もうやらなくて良いんじゃないかと思うんだけど「お祝いはいつ渡せばいいの?」と移動するたびに言われるのに疲れてきたし、こういうのを一瞬で終わらせるために結婚式があるんだと知らされた。
だから週末の金曜日、会社でよく使うお店を借り切り、食事代のみ3000円の立食方式。
入ったら食事代金として金額を頂いて(ご祝儀不要。絶対に受け取らないと宣言)私と透さんは一番奥にいて、順番に来る人に挨拶する。
その方式に決めた。
ご祝儀を頂かないのは、返す手間を省くため。
お祝いは気持ちで頂く。
時間は17時から22時まで、二次会なし。
これなら誰でも来られるし、仕事だから顔出す人たちも気楽に来られる。
私は営業で透さんはEC事業部の課長となると、関係者が多すぎてこのパターンが一番良いと判断した。
受付に立ってくれるのは美香子と最上くんになった。
最上くんはパソコンをいじりながら、
「じゃあこれを社内の広報スレッドに貼ります、大丈夫ですか」
私はそれを確認する。
場所、時間、金額、注意事項、服装は仕事終わりの服のまま着てほしいこと、アレルギー表示……。
「オッケー。責任者の所に最上くんと美香子の名前入れさせてもらってるけど、何かあったら私に聞いて。ごめんね、忙しいのに」
「何いってるんスか。まじでこれ作るくらいしかすることなくて、お祝いの気持ちのやり所がないですよ。この前久しぶりに親父とした普通の会話が、この仕切りを任されたことで笑っちゃいました」
「お、どうなの? お父さんと」
「広瀬くんと海野さんのパーティーの司会を任されたなら、それは素晴らしいことだ……って相変わらずアイツ色々勘違いしてますよ」
美香子はアップするファイルを確認しながら、
「まあ残れて良かったじゃん。それに新宿店売り上げ上がってるから、次大阪なんでしょ」
「はい。広瀬さんいなくなってマジ淋しくて死ぬかと思ったんですけど、押井さん優しいっス」
「大阪店はまた形状が変わってるから、あそこでしっかりしたデータ取ったら、都内店舗どこでも使えると思う」
「正直大阪マジ気に入ってて、住みたいっス」
「お父さんから離れるには良いんじゃない?」
「がちアリなんスよねー」
最上くんはアップして早速反応があったコメントに返信しながら話した。
最上くんは、あの後本部長が持っている六本木の家を出て、ひとり暮らしを始めた。
みんなあまりのバカボンぶりに心配して「ここら辺り良い」とアドバイスした結果、会社に30分くらいで来られる1DKのマンションに決めた。
しょっちゅう飲みに行ってるしタクシーですぐに移動するし、金銭感覚がそう簡単に変わったように見えないけど、とりあえず本社に戻らず、こっちの営業として頑張っている。会社用のスマホもちゃんと使ってる、もうそれだけで安心するのは間違ってるけど、もうこれでいい。
次は大阪店のAIカメラを担当するみたいで、この前「ひとりで出張行きました!」と嬉しそうだったから、このまま頑張ってほしい。
画面を見ていた美香子が、
「貼って5分で来る人が100人いるよ。ひとり1分で話しても100分かかるよ」
「とりあえずのチェックでしょ。そんなに来ないよ」
「もう150人になった」
「……わかった、本当にそうなったら『本日はありがとうございます!』で全てを終わらせる」
「あ、店長さんたちにもお知らせしないとダメなんじゃないスか」
私はその言葉に最上くんを見る。
そうだ、店長さんたちも来たいかも。
「最上くん、気がついて偉い」
「俺、この後新宿店行くんで、横のカフェの斉藤さんに話しましょうか。あのカフェで来週全店ミーティングあるって聞いてます」
美香子が手を叩いて、
「最上くん偉いじゃん~~~」
最上くんは鼻の下を指でこすってカッコ付けながら、
「俺やっぱ……本気だしたら仕事できると思うんスよね」
「頑張れ頑張れ!」
私と美香子はもう小学生を励ますように最上くんを応援した。
でも全店ミーティングのスケジュールをちゃんと把握して、そこでこの話をしてしまうのは効率的だと思う。
「……現時点で400人……? いや……俺たちにそんなに知り合いはいないだろう」
「本社と、各店舗の店長さん、それに仕入れ先の方も含まれた数ですけど、参加するというボタンだけ押していて実際くるのは半分くらいじゃないかと話してます。でももう……会場に入りきらないし、さらに時間でなんとなく区切らないと頭に集中するかもって美香子と最上くんが動いてくれてます」
「ふたりにはお礼をしないといけないな」
「ふたりはお祝いだからとしてくれてますが、大変だと思います。お礼にご飯にいきましょう。最上くんが淋しがってます」
「一人暮らしはどうだって?」
「カップラーメンにハマって毎日食べてるらしいです」
「それは大丈夫なのか……?」
私は透さんにご飯を出しながら話した。
最近はタイミングがあう時は離れでご飯を一緒に食べている。
なにより仁菜が「パパにおかえりを言う!」と決めているようで、透さんの帰宅が22時をすぎる時以外はこっちにいる。
もう六月で真冬のように寒くなくて、冷暖房が必要じゃない今だから余裕もある。
私と透さんが話していると横でお絵かきをしていた仁菜が、
「結婚式のお話?」
「結婚式は仁菜とみんなで教会でしたでしょ?」
先月私たちは家族だけでの結婚式を済ませた。
立川のチャペルで私はウエディングドレスを着て、透さんはタキシード(すっっごくカッコ良かった!)、仁菜も子ども用ドレスを着て。
両家の家族が集まって、ささやかなパーティーをしただけで、メインは写真撮影だけど楽しかった。
仁菜は飾ってある写真を持って来て、
「なんだあ、また可愛くできると思ったのに」
「今度は会社の人たちに『結婚しました』ってお話するの。それがもう人が多くて。仁菜の学校の一年生から四年生まで集まるっていうの」
「全校集会じゃん!!」
「そうなの、もう私とパパが校長先生」
「え~~~~?! あのつまんない話、すぐに終わったほうがいいよ」
「あははは!!」
分かりやすく説明したつもりだったけど、全校集会の校長先生=つまらないという図式にはめられてしまって笑う。
透さんは仁菜に向かって、
「すぐに話を終わらせて仁菜の所に帰ってきたいけどごめんね。その日はママもパパも遅くなる」
「えーー、心配だなー。仁菜ちゃんも行こうか? きっと仁菜ちゃんのが面白いお話できると思うけど」
仁菜が心底心配そうな顔をするので私は笑ってしまう。
そして私と透さんの前に座って、
「はい、じゃあ面白い話ができるように練習しようね。みんながパパとママの所にきてお話するのね?」
「そう。結婚おめでとうございますって言ってくれるの」
「よーし、仁菜が会社の人の仕事するね。えーーっと、ママ、結婚おめでとうございます」
そう言ってマイクを向けてくれる。
これは何の時間だろうと思いつつ、
「はい、ありがとうございます」
「えっと、いつからパパを好きになったんですか?」
「えっ! そんなこと聞かれる会じゃないの」
「いつからですか?」
目をキラキラさせながらインタビューしてくる仁菜に戸惑いながら……横の透さんをチラリとみると、背筋を伸ばして楽しそうに待っている。
もお……。私は軽く咳払いをして、
「えっと……営業で入った時から……考え方が素敵な人だなとは思ってたけど……」
「ほほー、最初から好きだったんですね。それは夢が叶いましたね。ハッピーウエディング!」
「ちょっと仁菜、ママこんなの恥ずかしいよ!!」
私が叫ぶとエアマイクを今度は透さんに向けて、
「パパはママのどんなところが好きですか?」
「パパは、ママが仁菜を大切にしてる所。家族を大切にしてるところが一番好きだ。その中に俺も入れて貰えて、全力でママを愛せて幸せだ」
「え~~~~~~?! あまーーーい!! こんな感じの会?」
「全然違うから!!」
私は透さんのまっすぐすぎる答えも嬉しくて恥ずかしくて、冷蔵庫を開いて冷たいお茶を飲む。
もう顔が熱い!
透さんはエアマイクを逆に仁菜に向けて、
「仁菜がママの一番好きなところはどこですか?」
「ママは絶対に仁菜を大好きだから。絶対に大好きって分かるの。困ったらママ、嬉しくてもママ、泣いてもママ、勉強が分からなくてもママ! 食べられないものも全部ママのお皿! パパは鉛筆削りのゴミ捨ててくれるから好き」
透さんは目を丸くして、
「鉛筆削りのゴミ?」
「そう。仁菜はいっつも鉛筆ピカピカが良くて鉛筆削り大好きだから、毎日削りたいの。そうすると鉛筆削りがすぐにいっぱいになっちゃうの。そのゴミ、前の家ではすぐにいっぱいになってたけど、こっちの家ではなってないの。パパが綺麗にしてるんでしょ」
「……確かに掃除してるかも。俺も鉛筆好きなんだよな、尖ってるの」
「そう、パパも鉛筆削ってる。だからね、パパの一番好きなところは、鉛筆削りだよ」
「……そうか」
そう言って透さんは優しく微笑んだ。
……知らなかった。というか、
「……私、今まで鉛筆削りのゴミなんて捨てたこと無い気がする……」
「そうだよ、ママは、仁菜にゴミ捨てろっていうのに、鉛筆削りのゴミ捨ててくれない!」
「自分ですればいいでしょう!」
「パパも使ってるもんねー?」
「これからは仁菜と交互にしようか」
「いいよ! 見て! 仁菜の鉛筆どれもトゲトゲなの!」
そう言って仁菜は小学校に持って行っている筆箱を見せてくれた。
どの鉛筆もきれいに尖ってる。
「綺麗ね」
「でしょう? そっかあ、仁菜がインタビューしてあげるのになあ。そのほうが絶対面白いと思うんだけどなあ。またドレス着てさあ。仁菜、紫のドレスもう一回着たいなあ」
そう言って唇を尖らせる仁菜が可愛くて、ふたりで笑った。
そのほうが会社の人たちも喜んで私たちも楽できるけど、どれだけ時間があっても足りないので夏にみんなでキャンプに行こうと提案した。
そして挨拶当日。
入れ替わり立ち替わり、本当に300人くらいが訪れて、私と透さんの声は枯れた。
一番長く私たちに話しかけてきたのは最上くんのお父さんで、この日のために大阪からお呼びしておいた大森部長と二次会に消えて行った。
すべてが仕事以上に大変だったけど、これで会社関係のお披露目もおしまい!
敷地内に建てている家も、もう大詰めで、家具をあれこれ選び始めた。
そして新居に引っ越す日が決まった。




