4-5 お節介
竜虎たちは雷火の第一公子である雷鳴に連れられ、邸へと辿り着いた。その間、璃琳になぜここにいるのかと確認してみたら、虎宇と一緒に金華で行われる仙術大会を観覧して来るといいと言われたそうだ。
しかし金華に着くなり、宗主から第二公子の洸雷を紹介され、いい機会だから一緒に市井を見て回って来るといいと促され、あの騒動に巻き込まれたのだという。
「おかしいと思ったのよ! 母上も私を送り出す時に珍しく優しくて、粗相のないようにとかお淑やかにとか言ってきて、まさか虎宇兄上までグルだったなんて!」
「す、すみません……僕も知らなくて」
「ええと、つまり?」
「洸雷殿は、私の将来の旦那様になるみたい」
璃琳はまだ十二歳なので、数年先の話だろうが。ほとんどの場合、婚姻関係を決めるのは親同士だ。金虎と金華。どちらが望んだかは置いておいて、いずれは通る道ではある。
「今回はただの顔合わせで····だとしても、当人どちらも把握してないなんて信じられないでしょう! 言ってくれたらそれなりの心の準備もできたのに」
「す、すみません……本当に、僕なんかで」
「別に洸雷殿を責めてるわけではないので、謝るのはやめてください」
洸雷はずっとおどおどしていて縮こまっており、璃琳の方がしっかりしてるせいかどちらが年上かわからない。竜虎は同情しつつも、彼に妹を任せて大丈夫かと不安になってきた。
「璃琳が引っ張っていく感じになりそうだけど……婚姻の話は確定なのか?」
「どちらかが死なない限りそうなるでしょうね」
「それは困ります! 璃琳さんが死なないように僕が守りますね!」
その言い方だと、自分は死なないと言うこと?
「洸雷、少し黙っていろ」
「まあまあ。話はなんとなくわかったが、雷鳴殿は知っていたのかな?」
「俺も父上に当日聞かされましたので、」
「それで、近くで見守っていた、と?」
虎斗の問いに、雷鳴は表情が固まった。
「なにかあってはと思い、尾行してました。騒ぎが起こった時点で出ていくつもりでしたが、虎斗殿が介入してくださったので機会を窺っていました」
「え? そうだったんですか?」
それには洸雷も驚いており、バツの悪そうな顔で雷鳴は大きく嘆息した。
「当たり前だろう。お前が一緒だから最悪の事態にはならないとわかっていても、金虎の宗主の娘である璃琳殿になにかあれば、大変だからな」
「ありがとうございます。兄上が陰で見守ってくれていたおかげで、大事にはなりませんでした。僕が不甲斐ないばっかりに……、」
「申し訳ありません。私が騒ぎすぎたばっかりに……、」
璃琳も流石に反省しているようだ。しかもぜんぶ見られていたのだとしたら、せっかく猫を被っていたのに意味がなくなってしまうわけで。本来のあの勝気な性格で店主とやり合っていたのを竜虎も目撃しているので、当然見ていないわけがない。
「いや、璃琳殿くらい強い女性の方が、うちの弟には丁度いい。普段はこのように情けないが、剣の腕は俺よりも才能がある。仙術大会で挽回してくれることだろう」
「そ、それは言い過ぎです……僕なんて全然、」
見た目も細身で剣など到底似合わなそうな気弱な洸雷に、皆の視線が集まる。
「それは仙術大会が楽しみです。竜虎兄様も武芸の部で参加すると聞いているので、もし当たることがあっても手加減はなしですからね?」
「あ、そうなんですか? その時はお手合わせよろしくお願いします」
「こちらこそ。お互いに全力で臨もう」
竜虎自身もまだまだ未熟で、白笶に稽古をつけてもらって少しはまともになったといえど、仙術大会でその実力を試したいという気持ちは強い。なにより、兄の虎宇に今の姿を見せたいというのが本音だった。
そうして他愛のない会話を交わしている内に、本邸に到着する。金虎の敷地とほぼ同じくらいの広さ。邸の多さに驚く。宗主は取り込み中ということで、そのまま雷鳴が竜虎たちが滞在する別邸に案内してくれた。
別邸ではすでに到着して荷物を整理終えた、虎宇の護衛兼従者である天が出迎えてくれて、雷鳴と洸雷はそのまま本邸へと戻って行った。
「兄上は?」
「虎宇様は雷江宗主に呼ばれて本邸に出向いていているので、私がここの留守を預かっています」
竜虎の問いにのんびりとした口調で天は答えた。公子付きの護衛である天は、いつも虎宇の後ろに控えているのでこのように単体でしっかりその姿を見ることは稀であった。
(天殿は従者の中でも特別な、公子付きの護衛。あのおっかない第一公子様の下で働くなんて、毎日胃が痛くなりそう……あの方の悪い噂は多けれど、天殿はみんなに尊敬される、まさに従者の鑑。主の悪口のひとつも漏らさないなんて、日々脅されてるとしか思えない)
清婉は同情しつつ、自分には絶対に無理だと心の中で感心する。天の後について荷物を運びながら、青年にしては小柄な後ろ姿をまじまじと眺めていた。
後ろ姿だけ見れば女性のように見えなくもないが、彼の武芸の腕はあの虎宇に次ぐとも聞くだけに、体格だけが強者の条件ではないのだなと人知れず頷いた。いくつかある内の一部屋に案内され、清婉は荷物を置く。
竜虎は璃琳と共に大広間の方で休んでいるので、その間に荷物を整理したり天の手伝いをしようと思った。
「あなたは確か、第四公子のところの」
「あ、はい、清婉と申します!」
「天です。私は基本的に虎宇様の傍にいることが多いので、ここにいる間の仕事は清婉殿にお任せすることになると思います。食事などは運ばれてくるそうなので、片付け程度で済むと思いますが、竜虎様と璃琳様のお世話もお願いしても良いですか?」
かしこまりました、と清婉は承諾する。元々竜虎やこの後合流するだろう無明の身の回りのことは自分の仕事と思っているので、璃琳がひとり増えても手間ではないだろう。
「あの、天殿……顔色が良くないようですが、大丈夫ですか?」
元々色白なのかもしれないが、なんだかそう思えて。清婉はお節介だと思ったが訊ねてみた。やはりあの第一公子のお世話は大変なのかもしれない。それに従者として少しでもお手伝いできたら、という気持ちもあった。
「大丈夫です。この数日の旅で疲れが溜まっているのかもしれません。しかしあの方に同じように思われてもいけないので、虎宇様が戻ってくるまで、少し休みますね」
「ぜひそうしてください。後のことは私がすべてやっておきますので!」
出て行った天の後ろ姿を心配しながら、
(やっぱり、第一公子様に酷い扱いをされているのかも……休みなく働かされているとか、無茶な命令をさせられているとか)
と、かなり偏った想像をしていた。
でなければ、あんなに疲れきった状態にはならないはず。きっと心労もあるのだろう。あれに比べたら、昔の自分など全然マシである。基本的には自由だったし、無明は素行が無茶苦茶だったがそれだけで、第二夫人の藍歌は優しかった。
(無明様、早く戻って来てください)
ついでに白笶と逢魔も。
清婉はさっさと荷物を整理し、掃除を始める。少しでも快適な空間で過ごして欲しいし、埃などあってはならない。
久々に普通の従者として働ける楽しさとやり甲斐を、鼻歌を歌いながら堪能するのだった。
12月からカクヨムさんのコンテストが始まりますので、更新がまた止まります。その間、次は止まらないようにストックを頑張って作りますので、2月以降の更新までしばしお待ち下さいませ!!




