9.友希の悩み
「私の悩み聞いてもらえますか?」
友希は落ち着いてから話した。いつもとは逆の立場だ。もちろん返事はOKなのだが、不安がないというと嘘になった。
俺は友希のように100%悩みを解決できる能力はない。しかも、悩み相談と言ったら、友達の話を少し聞いてあげたくらいでほとんど経験もない。
「力になれなかったらごめん」
俺は不安を口にした。今さら自信のない発言をしてどうする。俺は自分を攻めた。
「大丈夫ですよ。悩みを解決するのって難しいことです。でも悩みって聞いてもらうだけで気が楽になるものでもあります。今の私がそうですから」
俺は心が楽になった。そして、真剣に向き合おうと思えた。
「どうして成仏できないの? やっぱりこの世に未練があるから?」
「恥ずかしいんですけど、私が死んだことを認められないのが原因だと思います。完全に私の責任でごめんなさい。16年も認められないなんて情けないですね」
「何で死を受け入れられないの?」
「親······。お母さんに会いたいから。いい歳して何言ってるんだって私も思います。しかも、こればかりは厳しいですよね」
俺自身も驚くほど友希が素直に話してくれた。俺はますます未練を晴らしてあげたいと思った。たしかに3つ悩みを解決しても成仏できるのかもしれない。だが、未練は残ったままとなるだろう。
俺は考えた。会えない理由はおそらく地縛霊だからだろう。
「友希は何で死んだの?」
「交通事故です。それから私は悩み相談のとき以外は、その死んだ場所を離れられなくなりました」
悩み相談のとき以外か。なら今しかチャンスはない。会うこと自体は場所が分かれば簡単だが、話せないと意味がない。
だが、皮肉なことに友希は俺以外に見えない。見えて話せるようにさえなれば······
あ、いけるかも! でもできるのかな。俺は自信はなかったが、聞くだけ聞いてみることにした。
「お母さんのいる場所は分かる?」
「まだこの町にいるとは思います。でも、私見えないから話せないし気づいてももらえなくて······」
第一関門は突破。これは大きかった。しかも場所が近い。俺は少し自信が持てた。
「前に憑いて会話をした。だったら、あれで俺の体を使って、友希の声を出すことはできない?」
「えっ······」
友希は予想外の質問なのか混乱しているようだった。これで、会話ができたら何とかなるかもしれない。
「たしかにできるとは思いますが、正気ですか?」
よかったと俺は安心した。憑くことができるなら、声を出せてもおかしくない。順調だった。
「もちろん。1日俺の体を乗っ取っていいですよ」
「そんなことして、もし私が体を返さないなんてことになったらどうするですか?」
「そんなこと言う時点でするつもりないだろ」
俺はそれぐらい承知の上だった。根拠なんてなかったが、俺は友希のことを信用できた。
友希は半分呆れたように言う。
「全く······。いい人過ぎますよ。自ら取り憑かれることを望むなんて。詐欺に引っかりそうで心配なくらい」
「引っかからないって」
俺は少しムッとした。絶対引っかからない。そう言いつつも気をつけなくてはと思う。
友希は話を続けた。
「でもありがとうございます。嬉しかったです。まさかそこまでしてくれるなんて思ってもいませんでしたから」
「当然。友希だって言ったじゃん。‘‘それが悩みなら解決しなくてはいけません。100%納得いくまで私は諦めませんから’’って」
俺の真剣な顔を見て、友希は笑った。そんなに変なことを言ったかな。俺は少し気まずそうに言った。
「やっぱり俺が言うと変だったかな」
「いや、嬉しかったんです。真剣に向き合ってくれているんだなって思って」
友希は笑いながら答えた。そんな友希を見て、俺は思わず笑った。たしかに悩みを聞いて相手が喜んでくれると嬉しい。友希の気持ちがよく分かった。
ただ、まだ悩みが解決したわけではなかった。最大の難関が残っていた。
「姿は俺でも友希のお母さんは気づいてくれるかな。要は声しか分からないから」
「それは······。大丈夫。お母さんを信じる。16年経ったって覚えてくれている。きっと······」
憑いて会話しても友希と分からなければ意味がない。友希自身も少し不安があるようだ。だが、こればかりは友希のお母さんを信じるしかなかった。
「しかも俺、ブサメンだし」
「いいえ、悟史くんは十分かっこいいです。もちろん中身も合わせて」
かっこいいなんて言われたのは初めてで純粋に嬉しかった。普段こういうことを言っても、友達はバカにしてくるだけだ。
いつの間にか日は暮れて夜になっていた。
「今日はもう遅いし明日でもいい?」
「もちろん。でも一つ気になるんですけど······。何でそこまで私のために尽くしてくれるんですか?」
友希が不思議そうに聞いた。だが、俺には深い答えなんてなかった。
「友希が俺の悩みを解決してくれたからではいけないの?」
「悟史くんが悩み相談の相手で本当によかったです。できることならもっと一緒にいたいですね。それはいけませんけど」
友希はいつも以上に嬉しそうだった。その笑顔を見ていると俺もがんばれる気がした。




