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悩み相談承ります  作者: 卯月 友
10/16

10.再開

 翌朝。

 昨日の大騒動の疲れがまだ残っている。特に、俺は緊張で寝不足だったため、何となく目覚めが悪かった。

 だが、そんなことは言っていられない。今日も重要なことをしなければいけない。俺は部屋の窓を開けて大きく伸びをした。


 友希はまだいない。寝ているのかな? 俺は友希の石を持ち上げてみた。見かけじゃ分からないか。そう思い俺は再び石を元に戻そうとしたときだった。

 突然目の前で大きな音がした。突然のことに俺は、オーバーに驚く。


「いったー! もう何?」


 友希が目の前で尻もちをつき、痛そうにしながら混乱している。まさか今起きたとか? 俺が石を持っていたからか。俺は急いで謝った。


「ごめん、そ、その、俺が石を持ってたから······」

「はぁー? 何やってるんですか? めっちゃ痛いんですけど。幽霊だから浮くことができるとでも思ったんですか?」


 友希がようやく状況を理解して言った。やばい。怒ってる?


「ごめんなさい。わざとじゃないんです」

「分かってますよ! 全く、今日は重要な日だというのに」

「でもおかげでちょっと緊張が解けたよ」

「まあそうなんですけど······」


 憑く前からトラブル発生。ある意味、緊張が解けたのはよかった。

 ただ、予定よりも30分も遅れてのスタートとなった。


「準備はいいですか?」

「いつでも」


 ようやく友希も落ち着いて準備を始めた。痛みはなく、この前憑いたときと似た感じということらしいが、やはり少しは緊張した。

 目の前で友希が消える。その直後、俺の体が勝手に動いた。何これ! 俺は心の中で驚いた。


「よかったです。成功ですよ」


 今度は俺の口が勝手に動き、言葉を発する。しかも友希の声で。これで無事成功なのだが、やはり全く慣れない。体が勝手に動かされる。まるで糸で操られたからくり人形のような感覚だった。


「ここからだと少し遠いし、バスで行きましょう」


 友希に返事をしようとするが、全く言葉にならない。それどころか言葉を伝えることすらできなかった。もし、このまま友希が変なことしたらどうしよう。例えば、橋から飛び降りられたら······

 いや、友希に限ってそれはない。俺はそう自分に言い聞かせた。


「大丈夫ですよ。この件が終わればすぐに体は返します。私はこれでも一応善の心を持つ地縛霊みたいですから、裏切りとかは絶対しないです」


 友希が俺の不安を感じ取るようにそう言った。友希なら大丈夫か。俺はそう信じた。

 体が勝手に荷物を持ち、勝手に家を出ていった。歩いてないのに歩かされるという変な感覚だ。くれぐれも事故とかはやめてくれよと思う。


 しばらく歩いていると、前方から人影が見えた。あれって? 俺は焦った。急いで友希に方向転換を伝えようとするが、言葉にならない。前方から友人が歩いてくる。今話しかけられるのはまずい。しかし、友希は友人とは知らずにどんどん前進する。


「あ、おはよう早川。どこか行くの?」


 見つかってしまった。友希は完全に動揺している。俺はおはようと言おうとするが、声にならなかった。これはもう友希に託すしかない。


「おはよう。ちょっと散歩を」


 とっさの友希の声真似に思わず息をのむ。びっくりするほど似てない。


『ど、どうしましょう······』


 友希が脳内でそう言うが、それは一方通行。俺の考えは届かない。というかその台詞は俺が言いたい。


「お前、そんな声だったか?」


 やばい。絶対、怪しまれてる。とにかく早くここから立ち去ってくれ。


「ちょ、ちょっと風邪ひいたみたいで······。じゃ、じゃあな」

「そ、そうか。お大事にな」


 友希は急いでその場を去った。助かった。俺は心臓が飛び出るほど緊張していた。よく考えたら向こうに着いてから、憑いてもらえばよかったと後悔する。

 とにかくバス停へ急いでくれ。友希も焦りながら、バス停へと走っていく。しかも、走ると俺が息切れする。理不尽すぎる。

 だが、そんなことよりも今はバスに乗るのが先だ。流石にバスの中に友人がいるということはないだろう。バス停まで一目散に走った。


 助かった。土曜日の朝というのがついていた。人通りが少ない。無事にバス停まで着くことができた。しかも、バス待ちの人はいない。俺は安心してバスを待ち、乗ることができた。バス内もガラガラ。運がよかった。


『ごめんなさい、友人とは知らずに』


 友希の謝る気持ちが伝わってくる。俺は怒ってはいない。友希には何の罪もない。むしろ、友希も被害者だ。そう答えたかったが、今は答えられない。俺は気持ちだけ受け取った。


 しばらくすると友希は席を立ち、勝手に俺の財布から運賃を払い降りる。俺の金······。心の中でそう思うが、今はそれより大事なことがある。そのことが優先だ。

 降りたこともないバス停だった。そこからしばらく歩き、少ししたところで立ち止まった。


『この家です。昔と変わってない。本当に久しぶりです。ある意味16年ぶりの帰省。懐かしい』


 友希は感嘆の言葉を並べた。表札の岡村と言う文字を見て俺は安心した。引越しはしていないようだ。


『ここでよく日なたぼっこしてましたっけ。もう雑草だらけになって』


 友希は懐かしむように庭を見て回っていた。その様子を見て俺は、友希の生きていたときの姿を想像してしまった。


『悟史くん、ここでですね。あっ、それから······』


 まるで無邪気な子どものように友希が話す。本当に嬉しそうだ。俺も親元を離れて、何年かぶりに帰省するとこのような感情を抱くのだろうか。

 そのとき突然誰かの声が聞こえた。


「誰?」


 その声の先に勝手に顔が向く。友希はしばらく呆然としてからつぶやいた。


「お、お母さん······」


 その言葉に俺はその人をよく見た。もうそれなりに年老いた女性。言われてみると、身長が高いところなど、何となく友希に似ている。


「誰? そこで何しているんですか? 警察呼びますよ」


 その女性は怪訝そうな顔でそう言った。まずい。ここで信用を失うわけにはいかない。

 友希ははっとしたように女性の方へと走っていく。16年ぶりの再開だった。


「お母さん、私よ。友希だよ」


 ここが最大の難関。友希だと気づいてもらえなかったら全て台無しになる。むしろ下手をすれば、俺の立場も危うい。傍からみれば不法侵入だ。

 これはもう友希に託すしかない。俺は半端なく緊張した。


「あなた誰? なんでうちの娘の名前を知っているんですか? たしかに声は似ていますけど、友希は16年前に死んでる······。あなた何のつもりですか?」

「私が友希だよ。今、この人の体を少しの間借りてお母さんと会話しているの。その証拠にこの声······覚えているよね?」


 できることなら俺も友希にアドバイスをしてあげたかった。だが、今俺には見守ることしかできない。


「たしかに似ている······。でもそんなこと何とでもなります。早く帰ってください」


 お母さんはそう言うと、玄関の戸を閉めようとする。友希はとっさにその戸を押さえた。


「お母さんの名前は岡村杏子、誕生日は8月22日、血液型は······」


 友希は必死にお母さんのことを並べた。その手があったかと俺は感心した。これなら理解してくれるかもしれない。だが、そう甘くはなかった。


「個人情報をそこまで知っているなんてストーカー? 本当に通報しますよ」


 まずいと思う。失敗したら犯罪者に間違えられる。

 友希も実の母親にそこまで言われて辛そうだった。必死に玄関の戸を押さえている。


「お母さん、信じてよ」

「わけの分からないことばかり。早く帰りなさい」


 お母さんは無理やり外に追い出そうとした。


「やめてお母さん。私、友希だって」


 友希が必死に抵抗する。痛い! お母さんの爪が俺の顔に引っかかった。理不尽なことに痛みも俺が感じる。


「私の話を聞いて! お願い! 聞いてくれるだけでいいから!」


 その必死な叫びに心を打たれたのか、お母さんは力を抜いた。何とか助かったと俺は思う。

 しかし、お母さんの表情自体は変わりない。明らかによそ者を見る目。警戒していた。


「そこまで言うなら聞くけど、これで納得できなかったら本当に通報しますから」


 お母さんは玄関の外に再び出てきた。あくまで家の中に入れる気はないらしい。


『大丈夫。必ず私が友希だって証明しますから』


 友希の思いが伝わってきた。がんばれと俺は答えられないなりに思う。


「信じてもらえないかもしれないけど、私は本当に友希。ずっとお母さんに会いたかった。あの16年前、事故に遭ってからずっとそう思っていた。何でだと思う? 私、あのときからずっと伝えたいことがあったの······」


 そう言うと友希は俺のズボンのポケットから、ぼろぼろになった黄ばんだ紙切れを取り出した。いつの間に入れたのだろう? 友希はその紙を丁寧に開けて、お母さんに見せた。


「こ、これは······。本当に友希······」


 その瞬間、お母さんは口に手をあてたまま息を飲んだ。

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