7.葛藤の末に
一日、また一日と友希と過ごせる時間が減っていった。何一つ状況は変わらず、ただ友達のような関係だった。唯一変わったことと言えば、友希があと一つの悩みをせかさなくなったことくらいか······
友希の力のおかげで野村とは仲良くできているし、数学についても順調だった。
そしてある日、俺は下校していた。週末の金曜日。今日はたまたま一人である。
友希と出会ったのが日曜日の夜だから、もう5日経ったことになる。5日経ったのに友希のことは何も知らなかった。
「今日も疲れましたね」
友希が俺の前を後ろを向きながら歩き、そう笑って言った。
友希といられるのもあと2日だけか······。そう考えると辛い。俺はそんな友希を見ながら言った。
「友希はいつも楽しそうだね」
「それは悟史くんと一緒に過ごしてると楽しいですから」
友希は笑顔で答えるが、なぜそんなに笑えるのか分からない。
俺は友希といろんな話をした。友達の話、先生の話、趣味や好きなアーティスト、アニメ、スポーツ······
そして、日が経つにつれて、友希と親しくなった。もっと話したいと思うようになった。しかし、それに比例して、友希と過ごせる時間は減っていく。それが俺には辛かった。
「だったら寂しくないの?」
「もちろん寂しいですよ。でも慣れです。私なんてずっと地縛霊で一人ですから」
地縛霊であることが当たり前のような答え。しかし、少なくとも寂しさを感じ、一人でいることも辛いことは何となく分かった。
だったら何で相談してくれないのだろう。俺のことなんて信用できないということなのか? 少なくとも俺は友希を信用しているし、親しくなったと思っている。しかし、それは俺が勝手に思っているだけで、友希は何とも思っていないのか?
俺は黙って家に向かった。
せめて友希の悩み、どうしてほしいのかだけは聞きたい。最近、悩みを求めないということは、友希はまだ離れたくないということ。何かを期待している?
家に着くと俺はすぐに自分の部屋に向かった。友希も後ろからついてきている。
いや、なぜ俺は会ったばかりの人のことを考えているのだろう。俺には無関係。そう考えてもみるが、どうしても悩みを解決してくれた友希が離れない。
俺は葛藤していた。
「どうしたんですか? そんな暗い顔して」
友希は心配そうに横から声をかけてくる。理由なんて分かってるんじゃないのか?
俺はついに我慢の限界にきた。こんなことしても友希は嫌がるだけかもしれない。しかし、俺は何もせず、別れるよりはましだ。何よりもう心の内にこの気持ちを抑えることができなかった。
「友希はそれでいいの? なんでそこまでして悩みを相談してくれないの? またずっとこの地をさまよう生活に戻るんだよ。なんでそこまで成仏したくないの?」
俺は隣にいる友希の肩に掴みかかった。友希は辛そうな顔で答える。
「私のことは言えないって言いましたよ。何回言わせるんですか?」
俺は心の中の言葉が上手く言えない分、友希の肩を掴む手が強くなる。
「何で聞いてはいけないの? 理由は?」
友希が嫌がるのは分かるし、俺のしていることは間違っているのかもしれない。だが、もう自分の中にためこむのは限界だった。
しかし、友希も自分自身のことをしつこく聞かれたからか、黙ってはいなかった。反対の手で俺の手を払い除けて言う。
「しつこいんですよ。悟史くんには関係ないって何回言わせるんですか?」
「何でだよ。言ってみないと分からないし、何で俺が友希のこと聞いたらいけないんだよ」
「悟史くん、いや生きている人間なんかに私の気持ちは分からない」
「じゃあ誰が解決するんだよ。そのままじゃ死んだ家族とも友達とも再開できない。それでいいんだな?」
「黙れ! 私の何を知っている。偉そうに」
俺はその瞬間友希につきとばされた。俺はその拍子に尻もちをつく。もう今までの友希ではない。完全に狂っている。
しかし、俺には友希が苦しそうに見えた。何かに縛られているようなそんな表情。
そして、友希はとどめを刺すかのように叫んだ。
「お前は私を道具じゃないって言った! けど本当に道具だと思っていたのは私の方なんだよ! 正直に言うと、私は3つ悩みを解決したら成仏できることになっている! つまり、私はさっさとお前が悩みを解決するのを待っていただけ、利用してただけなんだよ! だから悩みなんて解決してもこれっぽっちも嬉しくなんか······」
友希は自分の長い黒髪を荒々しく引っ張りながら叫んだ。しかし、俺はそこまで言われても、それが本気に聞こえなかった。何かに縛られているせいで、本音が出せないような雰囲気。
「なんで嘘をつくの?」
「嘘なんかじゃ······」
俺は疑問に思った。もしそうなら、最後の悩みを意地でも聞き出すだろう。しかし、それをしないということは別の理由があるから。
「じゃあ何で最後の悩みを聞かないの?」
「うっ······」
友希は少し落ちついてきたのか、図星なのか黙った。俺は立ち上がり、友希の頭に手を置いて言った。
「そして何で泣いているの?」
友希は何も言わずに膝から崩れ落ちた。そして、冷静になったのか泣きながら言った。
「ごめんなさい。もうお祓いするなり、石を捨てるなりしてください。私に悟史くんといる資格はありません」
「分かった······なんて俺が言うとでも思うか?」
「ごめんなさい。また迷惑をかけてしまって······」
急に弱気になった。いったい何が原因? 俺はどうしても真相を知りたかった。だが、さすがに聞ける状況でもない。
「嘘······です」
「えっ······」
「悟史くんを利用していたなんて······嘘です」
それは嬉しい。だが、何が本当で何が嘘なのか分からなかった。おそらく何かに葛藤している。
「悟史、何一人で騒いでいるの?」
俺の部屋に向かう音とともに、おかんの声が聞こえた。俺はとっさに部屋から出て言い訳する。勉強に対する苛立ちということにした。
「あんたあんまり切羽詰らないようにするんだよ」
おかんはそう言うと台所へと戻っていった。俺は一安心し、自分の部屋に戻る。部屋では友希が床に座って泣いていた。今はそっとしてあげたほうがいいかな。そう思い、俺は黙ってベッドに座った。その直後、友希は小声で言った。
「私のことを話してもいいですか?」
俺は驚いた。あれほど話すことを拒んでいた友希から話を持ち出した。
「もちろん。でもいいの?」
「ただ、傷つけることになるかもしれません。それでもいいですか?」
傷つけること? 俺は最初から答えは出ていた。友希が俺のことをどう思っているかは知らない。だが、どんな結果であれ、悩む友希を見るよりはずっとよかった。返事は決まっていた。
「全然気にしないよ。それより話してくれてありがとう」
「悟史くん、ありがとう」
友希は涙を拭って友希自身のことを語った。




