5.仲直り
冷静になった俺は何を言っていいか分からなかった。せっかく考えてくれたのにそれを全て潰した。よく考えると、あそこで友希の言った通りにしていたら、原因が分かったかもしれない。そう思うと悔しくて仕方なかった。
『ごめんなさい······』
俺はそれしか言えなかった。しかし、友希はせめるどころが共感してくれた。
『謝らなくていいですよ。それよりショックを受けているのを分かっていながら、軽はずみなことを言ってごめんなさい』
『友希は謝らなくていいです。俺が弱いのが悪くて』
俺は必死に否定した。
『悟史くん、あの状況で冷静になるのは難しいです。人間関係は思うようにいかず、誰でも壁なく解決するのは難しい悩みなんですよ。私、悟史くんはがんばったと思いますよ』
『······ありがとう』
『そこであと一息です。もしよろしければ一気に終わらせませんか? 嫌なことはさっと終わらしたいでしょう。もちろん、私は全力でサポートします』
『少し怖いけど、が、がんばろうかな』
正直少し怖いどころではなかった。できれば早く帰りたい。野村が帰っていった方向を向きながら思う。さっきの野村の言葉が頭をよぎる。
友希はそんな俺の気持ちを察したのか、優しく声をかけてくれた。
『悟史くんはすごいですね。普通の人ならもっと尻込みますよ。人間関係という悩みは複雑なものでして。でも安心してください。私にかかれば絶対解決できます。それに私はもう半分解決していると思っています。さっき暴言を言った後、彼は少し寂しそうに見えたんです。ですから、彼も悩んでいると思うんです。もしかしたら、あのまま帰れずに学校に残っているかもしれません』
俺はその自信に少し安心した。100%解決すると自分に言い聞かせ、再び野村の帰った方向に歩き出した。
友希の予想は大当たりだった。野村はまだ校舎内で何やらそわそわしていた。しかし、俺は野村を見た途端、再び恐怖がこみあげてきた。とっさに物陰に隠れる。
早く野村をとめないと。俺は焦るが、足が動かなかった。まるで誰かが足を押さえつけているかのように。絶対安全は保証されている。そう考えるのに、動けない。また何か言われたらどうしよう。その気持ちが大きすぎた。
『か、体が動かない』
本当に情けない。また俺は逃げてしまうのか。友希に迷惑かけるのか。そういう思いがぐるぐると回る。
『ごめん······やっぱり俺にはできない。だから、もうこの悩みはいいです』
自然と俺はそう言っていた。誰のせいでもなく自分のせいだ。友希には何度も迷惑をかけてしまった。ごめんなさい。その気持ちでいっぱいだった。
『俺なんかが石を拾ってしまってごめんなさい。俺なんかじゃなく他の人とだったら、楽しく過ごせていたかもしれないのに』
『何言ってるんですか。そんな寂しいこと言わないでください。私は悟史くんに拾ってもらえて本当に感謝しているんです。それに、そんなに簡単に話しかけられるわけないんですよ。相手が親友ならなおさらです。でも私は諦めないです。だから、悟史くんさえよければもう少しがんばってみませんか?』
友希は何一つ怒らなかった。むしろ、俺が失敗を繰り返しても優しく声をかけてくれた。
しかし、いくら友希が俺のために努力したところで、俺がやらない事には意味はなかった。
『俺ができないから友希に迷惑が······』
『迷惑じゃないですよ。がんばりましょう。さて、自分で行くのが怖いなら、向こうに来させることもできますよ。あ、それから······』
友希はいろいろ考えてくれる。しかし、俺は自分で答えを出した。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
『俺は今からあいつと話してくる』
重い足を引きずり歩いた。何が何でも進む。俺は強い決心で野村の方へ向かった。怖くない。俺はそう自分に言い聞かせた。
『悟史くん······最高です』
俺は途中、野村と目があった。それでも足を前へと進める。いつの間にか悩みの解決以上に、友希に迷惑をかけたくないという気持ちが大きくなっていた。それが力となった。
意外にも声をかけてきたのは野村だった。
「さっきは悪かったな」
俺は驚いたが少し嬉しい気もした。ゆっくり落ちついて答える。
「気にしてないよ」
実際は嘘だ。気にしていないわけがない。沈黙ができる中、俺が先に切り出した。
「何か最近話さなくなったよな。それも壁ができたというか······」
「何を今さら。お前が俺のこと嫌いって言ったんじゃないか」
「えっ、そんなこと言ってないけど······」
俺は一切記憶になかった。そもそもそんなこと言うはずもない。何かの間違いか? 俺は最近の出来事を思い返した。
「お前がこの前、クラスのやつと喋っていたとき、野村嫌いだからって陰口言っていたのを聞いたんだよ。最初から嫌いなら一緒にいるなよな」
そんなこと言ってない。俺はクラスの友達と野村の話題をしたときのことを必死に思い出した。そして、俺は先週の件だと気づいた。だとしたら、大きな勘違いだ。
俺はクラスの友達と出かけることについて予定をたてていた。
「なあ、今週末どこか行くか?」
「カラオケとかは?」
「いいな。野村も誘うか?」
「あ、カラオケ、野村嫌いだから」
おそらく最後の部分のみを聞いていたのだろう。俺は急いで誤解を解いた。すると野村は力が抜けたようにただ呆然としていた。
「じゃあ、お、俺の勘違いで······」
野村はただそうとだけつぶやいた。さっきまでの敵意むき出しの野村ではなく、困惑しているような様子だった。
「おれが悪かった。と言ってももう許されないか」
俺は笑って野村の肩に手をおいて言った。そう言ってもらえるだけで嬉しい。
「また元のようにすればいいだけのこと。俺の方こそ言うのが遅くなってごめんな」
「お前、本当にいいやつだな。だが、悪いのは俺だ。ごめんな」
野村が安心仕切ったように答えた。野村も心の中では元の関係に戻りたかったのだろう。俺はそれが嬉しかった。
「今日は一緒に帰るか?」
「もちろんだ。久しぶりに話したいことがたくさんあるしな」
「あれ、用事は?」
「あれは嘘。何引っかかってるんだよ。いい人すぎるんだよ、バカ」
そう言うと野村は走り出した。完全に元の野村だった。
『悟史くん、おめでとう』
友希がそっと声をかけてくれた。その声はすごく嬉しそうに聞こえた。俺は友希にお礼を言って野村を追いかけた。
「待てよ。お前こそ明日遅刻とかなしだからな」
久しぶりに野村と帰った。久しぶりなだけあり、話が弾んだ。やっぱり気が合う。俺は改めてそう感じた。野村も同じだったらいいな。俺は隣で笑う野村を見て思う。辺りは薄暗くなっているが、心の中は明るさで満ちあふれていた。
野村と別れた後、俺は友希に言った。
『今日はありがとう。いろいろごめんな』
友希はようやく俺の中から出て言った。
「いやいや、私は最後の悟史くんの勇気に驚きましたよ。感動しちゃいました」
「友希ががんばってくれたからだ。ありがとう」
妙にすがすがしかった。いつもより風が心地よく感じる。肩の荷がおりるということがよく分かった。




