2.悩み相談 100%解決
友希との会話にも慣れてきたところで、俺は友希の台詞を思い出し質問した。
「そういえば悩みがなんとかって言ってましたけど、何かあるんですか?」
理由もないのに魂を宿すなんてことはないだろう。友希は待ってましたとばかりに答えた。
「私は悟史くんの悩みを解決に来ました。私は物理的に可能な悩みなら、どんな悩みでも100%解決できます。ただし、3つまでですけど」
「え、そんなことできるんですか? 生前はカウンセラーだったとかですか?」
「違いますよ。ただ、地縛霊になったときに人の悩みを解決するためのスキルが身についたんです。悩みを聞いた瞬間、解決までの道筋が思い浮かぶ感じで」
俺は半信半疑だった。目の前に地縛霊がいるくらいだから、何ができてもおかしくないのだが······
「しかしこれには条件があります」
「条件?」
「はい、一つ目は、私に関する悩みは不可能です。例えば、私がいるせいで何かよくないことがあるから、それを解決しろというのは無理です。まあ私は特に害はないので安心してください。二つ目は、私がここにいられるのが残り7日なので、期間は7日です。ちなみに3つ悩みを解決したらその場でいなくなります」
「細かいですね」
俺は整理するのに苦労した。友希は申し訳なさそうに続ける。
「ごめんなさい。三つ目で終わりです。正直、これが1番重要です。どうしようもないのですが、最低限本人の努力がいります。私は願いを叶えているわけではないので。例えば、お金が欲しいと言ってもお金が出てくるのではなく、しっかりと働いて貰うことになります。長くてごめんなさい。以上が条件です」
こじつけとは思えないほどの入念な設定。しかし、俺は話を聞いてもまだ疑っていた。悩みなんてそう簡単に解決できるのだろうか。
「あ、さっき分かったと思うんですけど、私は悟史くん以外には見えません。お母さんには石しか見えないんです」
そういえばおかんの誤解を解かないとと俺は感じた。
友希は目の前まで歩みより、俺の肩の上に手を置いた。幽霊なのに俺には見えるからかすり抜けない。しかし、体温がなくひんやりと冷たい手に俺は驚いた。やはり俺が今話している相手は幽霊なのだと改めて認識させられた。
友希は少し笑って言った。
「一つ目の悩みはなんですか?」
とっさに俺は視線をそらす。ふと目に入ったのが自分の勉強机だった。
「数学ができないのが悩みですと言ったら解決できるのですか?」
とりあえずこて調べというところだ。しかし、友希は動揺一つ見せずに言った。
「たしかに悟史くんは数学で悩んでますよね。おそらく苦手で進まないんでしょう」
「たぶん······」
「一つ目はそれでいいですか?」
「いいんですけど、本当にこれでできるようになるんですか?」
友希の念押しに俺は疑い深く答えた。友希は笑顔で大丈夫ですと言わんばかりに笑った。
「分かりました。今からしますか?」
「お願いします」
「はい。さっきも言いましたが最低限努力はしてください。ではまず何が分からないんですか?」
「何が分からないのかも分からない。とりあえず問題を見ても意味が分からない」
俺はいらいらした。友希の台詞はクラスの頭のいい人の言い分と同じだ。やはり悩みを解決するなんて簡単にできない······俺はそう思った。それでも悩み相談は続く。
「公式は覚えていますか?」
「一応覚えているけれど、意味不明」
「それだとやる気出ませんよね。まずはやる気になることから······」
友希は俺のぶっきらぼうな返事にも、何一つ怒ることなく優しく答えた。
実際に教えてもらうと想像以上に丁寧で、俺の求めている答えをピンポイントで返してくれる。本当に友希には解決への道が見えているかのようだ。しかも、友希は数学ができるわけではないらしい。大学レベルとなると物理的に解決できなかったということだった。
不思議なことに俺はだんだんと落ち着き、勉強机に再び向かっていた。
「そこはこの公式を使うみたいです」
友希は常に俺の隣で解説とにらめっこしながら説明してくれた。
「あ、こういう場合もあるのか。微分って幅広いんだな」
自分でも不思議なくらい落ち着いて考えられる。いつしかこういうパターンはどうするのかなど、自分で想像するくらいになっていた。数学ってこんなに解けると面白いんだと感じる。これが友希の力なのだろうか?
「悟史くん、よく頑張りましたね。今日はこれくらいで大丈夫ですか? 悩みは解決しましたか?」
「ありがとうございます。十分すぎるくらいです。友希ってすごいんですね。疑ってごめんなさい」
「私は相談の相手になっただけで何もしてないですよ。悟史くんががんばったからです」
「いやいや、俺なんて······本当にありがとうございます」
俺は友希に心から礼を言う。気がつけば時間は1時を過ぎていた。こんなに数学に夢中になっていたのだろうか? 全く気づかなかった。
時間も夜遅くなり俺は少し眠くなっていた。そう言えば友希は寝るのだろうか? ふと疑問に思い俺は聞いた。
「数学ありがとうございます。そろそろ俺は寝ようと思うんですけど、友希は寝るんですか?」
「無事に解決できてよかったです。私だって寝ますよ。ただ石に戻るんで一見分からないですけど。では、寝ましょうか。また明日、悟史くん。悩みは残り二つなんで考えておいてください」
「おやすみ友希。ゆっくり休んで」
そう言うと友希はすっと消えていった。おそらく石に戻ったのだろう。俺はベッドに戻り、静まりかえった空間の中で今日のことを思い返した。11時からたった2時間と少しのうちにいろいろあったなと思う。今でもまだ信じられないくらいだ。
友希は何者なんだろう。なんで地縛霊なんだろうと謎が多い。しかし、考えても仕方のないことだった。あと二つか。そう思いながら俺は友希のいる石に向かって言った。
「ありがとう」
いつの間にか俺のほうが敬語でなくなりつつある。俺はぼんやりとしているうちに眠りについていた。




