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悩み相談承ります  作者: 卯月 友
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1.魂の宿った石

 シャーペンの芯がまた音をたてて折れる。またかよと思いながら俺は、シャーペンを無造作に置いた。全く進まない数学の問題集に加え、俺はまた友人の野村のことを思い出し舌打ちした。なぜか知らないがここ最近野村が俺を避けているのだ。それに高校三年で受験や進路がからみ、さらに心から落ち着かない。


「何なんだよ······」

 

 自分の部屋で短髪の自分の髪をぐしゃぐじゃとかきながら、一人つぶやく。


 部屋に綺麗に並べられた石。趣味の一つである石集めすら、今は乗り気にもなれなかった。そうカリカリしていると、石の下にあるゲーム機が視界に入った。


「まあ苦手教科なんてまた今度すればいいか」


 そう言いながら俺はゲーム機を片手に、ベッドに転がりこんだ。こうしていつも一日一日と過ぎていく。しかも別にゲームがしたいわけでもなく、ただただぼんやりと過ごしていた。

 この先俺はどうなるのだろう? 勉強だってできるほうでもなく、かと言って努力をしたこともない。もちろん才能なんてない。何より俺には夢がない。ただ一人そんなことを想像していた。また、ハゲた担任の野郎に口を酸っぱく言われるのがオチだ。


 そうこうしているうちに俺はうとうとしていた。しかしその直後、俺は何者かに叩き起された。寝かけからすぐに起こされたものだから気分が非常に悪い。俺はいらいらしながら言った。


「全く、いちいち起こすなよ。 おかん、何かあるなら明日にしろよ」

「なんだい。あんたが大切にしている石ころが転がっているから、わぞわざ言ってやったのに。ほら、こんなところに置いてたら踏んでしまうだろうが」


 石なんて落としてたっけ? 眠たいのを我慢して目をこすった。人影が二人。俺は親父まで来やがったか。そう思った瞬間はっとした。おかんの目の前、ちょうど石のある辺りに、会った事もない大学生くらいの女性が立っていたからだ。身長は高めで、ストレートな黒髪を長く伸ばした比較的美しい女性だった。


「おい、おかん! 目の前の女性誰? 無断で客を俺の部屋に入れるのはなしだろ」


 俺はおかんにどなった。しかし、おかんは不思議そうな顔をしていた。


悟史(さとし)何言ってるの? 最近受験生になって頭おかしくなった? ここにはあんたと私以外いないじゃない」

「な、なに言ってるんだよ。おかんの目の前、ほらここに女性がいるだろ」

「悟史、いくら彼女ができないからって脳内彼女作るのはやめなさい。全く、最近変だと思ったら。もうとにかく11時なんだから、さわいでないで寝なさい」


 それだけ言い残すと、おかんは部屋から出ていこうとした。俺はとっさにとめようとしたが声にならず、おかんはそのまま出ていってしまった。

 

 再びシーンとした空間に戻った。俺は恐怖でいっぱいだった。目の前には得体の知れない女性が立っている。俺は限界までその女性から距離をとった。

 怖い⋯⋯

 もう眠気は完全にとれ、はっきりと彼女が見える。そうか! これは夢なんだ! 俺はそう思い、何度も頬を叩いたりつねったりしたが、一向にこの現実からさめることはなかった。


 不意にその女性がにっこりと微笑んだ。俺は全身が金縛りにかかったように硬直していた。

 何かまずいことしたっけ? 勉強、友人関係や進路、全部放棄したから? それとも弟のプリンを勝手に食べたから? それとも担任をさんざんハゲ呼ばわりしたからハゲの呪いか? もしくはハゲの担任のスリッパ隠したの俺ってばれたんじゃ⋯⋯


「ごめんなさい! 許してください!」

「何を許すのですか?」


 俺はただそう叫んだが、女性は微笑みながらそう答えた。終わった······。このまま呪い殺されるのだろうな······。しかし、女性は俺の思いとは裏腹に意外なことを言った。

 それは、呪いとは程遠い台詞だった。


「お悩みはありますか?」


 俺はとまどいきょとんとした。女性は繰り返す。


「お悩みはありますか? 私、聞きますよ」


 やはり聞き間違いではない。この女性は悩みを聞いている。幽霊って人の悩みを聞くものなのだろうか。そもそも幽霊かどうかも怪しい。俺はおそるおそる聞き返した。もちろん油断はできない。


「悩みって⋯⋯何ですか?」


 下手な答えを言うと殺されるってパターンの怪談もある。俺は心底怯えながら女性の返答を待った。


「私はあなたの持っていた石に宿った半分精霊みたいなものです。ほらこの石ですよ」


 女性が指差した先を見ると、俺のコレクションのうちの一つが転がっていた。さっきおかんが注意したやつだ。そのちょうど真上くらいに、まるで石から生まれたかのように女性がいた。


「私はさっき精霊と言いましたが、正確に言うと、善の心を持つ地縛霊です。そうでなければこんなことできませんから」


 女性は詳しく説明してくれるが、俺はまだ恐怖に怯えていた。悩み? 善の心? 地縛霊? 何を言っているのか理解できない。と、とりあえず話を合わせなければ⋯⋯

 俺はさっと思いついた疑問を聞いた。


「なんで俺の部屋にいるんですか? 俺がその石を持っていたからですか?」

「半分正解です。正確に言うと、あなたがこの石を8日前から持っていたからかつ、あなたがいい人だからです。だから、悪い人だと持っていたところで意味ないんですよ。詳しく言うと、善の心を持つ地縛霊は、1年に1回こうやって石や草などの自然物に魂を宿します。その期間は2週間。そして、7日目にこうやって生前のころの姿として現れるんです。そして、この姿が見えるのは魂の宿っている物を5日以上所有した、いい人だけなんです。つまりまとめると、あなたは数多くの自然物の中からこうして私を見つけた幸運の持ち主なんですよ」


 女性は詳しく説明してくれたがやはり難しい。数字が並びすぎだ。ただでさえ数学は苦手なのに。

 だが、俺は選ばれた幸運の持ち主で、呪われるわけではないということは分かった。その点では安心だ。

 俺がいい人という点については怪しいが⋯⋯

 すると、女性は俺の心を見透かすように言った。


「あなたはいい人ですよ。よくくだらないイタズラや落書きをしたり、担任の頭の光を鏡で集めたりしているみたいですけど、根は友達思いのいい人です」


 なんで知っている? だが、すぐに俺は女性の話を思い出しはっと気づいた。この女性は石の姿とはいえ、この部屋に7日いるから、その間のこの部屋での行動は全て筒抜けなのだ。友達との電話を聞いていたに違いない。俺はここ7日間の行動を思い返した。まさかあれもと考えると恥ずかしいことばかりだ。


「あと、多少エッチな本とか見てましたっけ?」


 それを言わないで! 女性のピンポイントの台詞に俺は赤面し、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。これを女性に見られたとなると流石にやばい。


「みんなしていることですよ。高校生なんて」


 女性は微笑んで言うが、俺は恥ずかしくて仕方なかった。じゃあ、あの時のことも⋯⋯

 

 そんな俺に気をつかったのか女性は話をそらした。


「それより、最近で魂を宿した地縛霊に会えるなんて珍しいですね。最近はゲームやスマホが普及して、暇さえあれば、そればかりしている人が多いですから。次々と昔のように石や珍しい草、貝がらを集める人が減っているんですよ。私たちが魂を宿すのってそういう自然の物ですから、皮肉ですよね」


 俺は例の本のことがまだ気になるが、とりあえず開き直ることにした。たしかに俺の周りで、石集めが趣味の人なんていない。ほとんどの時間、スマホをいじっている人が多い。考えたこともなかったが、俺は特別なのだろうか?

 いつの間にか、恐怖が和らいでいるのに気づいた。


「あなたは天然の勾玉や四つ葉のクローバー、貝がらが幸せをもたらすなんて話を聞いたことがあるでしょう? これらは昔、善の心を持つ地縛霊が魂を宿し、それを見た人がいるから今もこうして語られているんです。実際はそれらのものに効力があるというよりは、偶然地縛霊がそこにいて、人間がそれらのものは幸せをもたらすと勘違いしたに近いんですよ」


 女性は分かりやすく説明する。俺は、ただ呆然としながら聞いていた。どうやら俺の集めた石の一つにこの女性がいたらしい。ただの河原の石から、こんな人間の姿の霊が出るなんて信じ難い話だ。


「ところであなたの名前はなんですか? 残り7日とはいえ、あなたじゃ呼びにくいですから」

「あ、俺は悟史。早川悟史です」

「では悟史くんって呼んでも大丈夫ですか?」

「え、だ、大丈夫です」


 あまり君付けで呼ばれないため、俺は驚いた。


「ちなみに私の生前の名は友希。フルネームで岡村友希(おかむらゆき)です。友希って呼んでくれたらそれでいいです」

「え、呼び捨て······ですか?」

「あ、ごめんなさい。嫌でしたら何でも大丈夫です」

「い、嫌ではないです。友希って呼びます」


 逆に女性を下の名前の呼び捨てで呼ぶのは初めてだ。俺は名前を呼ぶ瞬間緊張した。友希は気にすることなく続ける。


「では、一週間よろしくお願いします」

「敬称なんていいですよ。友希のほうが年上でしょうし」

「幽霊に年上なんてないですから、このままでいいですよ」


 会話をしていても普通の人間と何も変わらない。目の前にいるのが幽霊ということを忘れそうになるほどだった。

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