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悩み相談承ります  作者: 卯月 友
14/16

14.素直な気持ち

「では1時間後に。悔いの残らないように」


 そういうと天使は目の前から消えていった。再び二人の空間になった。

 俺は時計に目をやった。今からの1時間が友希といられる最後の時間なんだ。もう1時間後には友希はこの世界にいない。俺は今すぐにでも泣きたくなった。だが、今は泣くときではない。友希と最後の時間を過ごすときだ。

 俺は隣に座っている友希に話しかけた。


「よかったね。成仏はできるんだって······」

「そうですね。未練も晴らすことができましたし······」


 お互いに会話が重い。本来ならもっと明るくするべきなのかもしれない。だが、俺は友希のお母さんのようにはなれない。


「悟史くん······私成仏したくないです」

「えっ······」


 俺は友希の言葉に耳を疑った。顔は友希やや下を向いていて、長い黒髪が垂れている。表情は明らかに重かった。俺はとっさに否定する。


「友希には行くべきところがある。それに俺とはどの道会えなくなってしまう。今、友希は成仏して新しい世界へ進むときじゃないの?」


 だが、友希は表情を変えなかった。友希は友希自身の服を強く握っている。そして、信じられないことを口にした。


「嫌だ! 天国なんて行きたくない! 私は地縛霊でいい。悟史くんのいない世界なんて、生きている意味ない」

「ここに残っても、明日で7日。もう俺には友希が見えなくなってしまう」

「それでもいい。この先ずっと一人だったとしても」


 友希は膝に顔を押しつけて泣いた。まずい。俺は必死に友希をとめた。


「俺だっていつかは死ぬ。60年とか先の話かもしれないけど、いずれ俺もそっちの世界へ行く」

「分かってます。でも、もう1時間も経たないうちにお別れなんて辛すぎる」

「俺だって辛い。でもだからこそ、悔いの残らないように今の時間を過ごすべきだと思う」


 友希は黙ってしまった。ただ、川原に友希の涙をすする音だけが響く。


「俺は泣かない。友希に新たな未練が残らないように、笑顔で友希を送るって約束するから」

「······」

「友希、こっち向いて」


 友希は涙を必死に拭いて、俺の方を向いた。俺は今できる精一杯の笑顔を友希に見せた。


「······ありがとう。私も笑顔って約束する」


 友希も必死に笑った。泣いているのか笑っているのか分からない。だが、その笑顔は本当に美しく、目の前に見える夕日よりも、輝いて見えた。


「ごめん、私どうかしていた。また借りを増やしてしまったね······」

「いや全然。たいしたことじゃないから······。それにこんな俺と一緒にいたいなんて言ってくれたのは嬉しいし」


 俺は一安心した。目の前の夕日が俺たちを見守るかのように微笑んでいた。


「天国って······どんなところだと思いますか?」

「俺は、想像もできないくらい美しいところだと思うよ」

「だといいな······」


 また沈黙に戻る。最後だからもっと話すべきなのだろうが、俺は口数が少なくなっていた。何を話していいのか、何を話すと友希が喜ぶのか分からない。

 素直な気持ちを言うといいのだろうか? 俺は友希にどうしても言いたいことがあった。するとそんな不器用な俺に、助け船を出すかのように友希はつぶやいた。


「天使さん、カップルみたいって言ってました······あんなこと言われて嫌じゃないのですか?」

「嫌なわけないじゃん」


 俺はカップルという言葉にまた反応してしまう。友希も緊張しているのか落ち着きがない。ただ、緊張とともに時間だけが流れていた。

 突然、友希がそわそわしながら、口を開いた。それは予想外な台詞だった。


「さ、悟史くんって、好きな女の子とかいるのですか?」

「えっ······俺······?」

「あ、答えにくかったら······いいです。ただ、恋の悩み相談はしていないなって思って······」


 俺は焦った。好きな人? まさかのこのタイミングで? それって俺が伝えたかったこと······言っていいのだろうか? 俺は混乱した。たしかに好きな女の子はいる。でも、それって······


「いるには······います。ただ、その人と恋人にはなれなくて······」

「か、片思いなんですか?」

「うーん······」


 後ろの道路を車が一台音を立てて通った。その後はまた静かな川原に戻った。

 この際、言ってしまおう。俺は気持ちを固めて口を開いた。


「俺は友希のことが好きです」


 風が心地よく吹き抜けていった。友希は驚いた顔をしている。


「わ、私······。本当に······嘘じゃなくて」

「このタイミングで嘘なんて言わないよ。本当はもっと早く言いたかった。でも、これを言って嫌な思いをさせて、成仏なんて嫌だったから。悩みを解決してくれて本当に嬉しかった。ありがとう友希。好きです」


 俺は素直にそのままの気持ちを伝えた。初めての告白に半端ないほど緊張する。今、こんなこと言ってよかったのかな。俺は言った後で、少し後悔した。


「ごめん、変なこと言って」

「悟史くん······本当にお人好しですね。また、私が成仏するときに告白なんていけないとか考えて。もっと、自分の気持ちを言っていいんですよ」

「でも、もしそれで友希が嫌な思いしたら······」

「するわけないじゃないですか。だって私も悟史くんのこと大好きだから」


 友希はこの上なく嬉しそうだった。俺は心臓を矢で打ち抜かれたような気持ちになった。まさか本当に俺のことを······。たしかに、脈ありのフラグはあった。だが、友希は幽霊。素直に信じることができなかった。俺は焦りながらも喜んだ。


「よかったです。本当の気持ちを伝えることができて。私は悟史くんの恋人にはなれません。でも、私の大好きな人と両想いになれて本当に幸せです」

「俺も友希と両想いになれて幸せだよ」

「本当の気持ちを話してくれてありがとう、悟史くん。さっきは成仏したくないとか言ってごめんなさい。でも、私はもう大丈夫。最後にこんなプレゼントをありがとう」


 友希は笑った。俺自身も嬉しかった。まさか最後に本当に告白できるとは思ってもいなかった。しかも、両想いになれた。

 たしかに、恋人のような関係にはなれないだろう。しかし、そんなことは関係ない。お互いがお互いを好きになる。好きになることに理由なんて必要ないだろう。


「もう少し下まで降りてみようか? その方が人通りも少ないかなって」

「分かりました」


 そう言うと、友希は立ち上がり伸びをした。ごめんなさい、最後に俺のわがままにつき合ってください。

 俺はそのまま友希の体を抱きしめた。


「さ、悟史くん。急にそんな······下まで降りるんじゃ······」


 友希は驚いているが、嫌がっている素振りはなかった。体温が感じられない。だが、こうしているだけで温かく感じられた。


「ごめん、俺の自分勝手でこんなことしてしまって。恋人でもないのに。でも、ずっとこうしたかった。大好きだよ」


 友希はそっも俺の背中に手を回してくれた。温かい感覚。


「私もずっとこうしたかった。恋人かどうかなんて関係ない。たとえ、今後別の恋人ができたとしても、私は悟史くんと過ごしたこの時間を忘れないから」

「俺も絶対忘れない」


 自然と友希を抱く力が強くなった。俺はどうがんばっても友希と一緒に過ごすことなんてできない。これが俺にできる精一杯だった。

 それは友希も同じなのかもしれない。


「私、泣かないよ。約束したから。笑顔で行くって決めたから」


 俺の背中を必死に友希がつかむ。必死に我慢しているのが伝わってくる。俺も泣きたかった。でも、約束した。だから、俺も笑顔で見届ける。その方が悔いが残らないだろうから······

 俺はようやく手を離した。


「ありがとう。嫌じゃなかった?」


 友希は首を横に振った。そして、涙がこぼれるのを必死に我慢して笑顔をつくった。


「嫌じゃないよ。だって、悟史くんのことが大好きだから」


 夕日が友希の顔を照らしていた。今にも泣きそうな友希。ただ、その笑顔はこの上なく美しかった。

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