反乱?
牟岐家の居城。
分厚い障子の向こうで、風が庭木を揺らしていた。
「——申し上げます」
膝をついた兵が、慎重に言葉を選ぶ。
「四季の神子が、志木原にて民を集めております」
宗清の指が、几帳の縁を叩いた。
「……やはりか」
「しかし——」
兵は一瞬、言いよどむ。
「戦を呼びかけた様子は、ございません」
その言葉が、静かな部屋に落ちる。
牟岐は、ゆっくりと顔を上げた。
「……呼びかけて、いない?」
「は。武器を取れとも、役所を襲えとも、申しておりません。
民は——ただ、集まり、座し、土に触れているのみです」
しばしの沈黙が流れ、やがて牟岐の喉から低い笑いが漏れた。
「……はは」
だが、その笑いは、どこにも愉しさを含んでいなかった。
「なぜだ」
声が、少しずつ荒れていく。
「なぜ、戦をしない」
兵は、身を縮める。
「立ち上がれ。刃を取れ。火を放て——そう言えばいい」
牟岐の視線が、宙を睨む。
「そうすれば、討てる」
声が低く、しかし鋭くなる。
「“暴徒”として討てばいい。私は再び、鎮めた英雄になれる」
拳が、畳に食い込む。
「……なのに」
息が詰まる。
「なぜ、立ち上がらない」
彼の脳裏に、焼け落ちた志木原の光景がよぎる。
炎。叫び。逃げ惑う人々。
そして——
最後に見た、為春の顔。
「……呪い、か」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
「殺した当主どもが、
死にきれずに、土から這い出してきたか」
唇が歪む。
「違う。違う……」
自分に言い聞かせるように、首を振る。
「これは、人だ。人が、動いているだけだ。」
だが、その“人”が、剣も掲げず、怒号も上げず、
ただ黙って集まっている。
それが、何よりも理解できなかった。
「……戦わぬ者は、討てぬ。目があれば、尚更。」
それは、彼が英雄になる前から知っていた理だった。
英雄とは、“悪を討つ者”でなければならない。
だが、そこにいるのは悪ではない。
ただ、土に生きる人々だ。
「……ならば」
牟岐の目に、冷たい光が宿る。
「理由をつければ良い。」




