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その6

 甲子園に賭ける、それぞれの思いは、試合の場以外でも、様々な決意の花を咲かせていく。それは真実にして現実。ゆえに敗北や悔しさから生まれる決意もそこにはある。敗北を機に咲く花と、排除を機に咲いた花。そのどちらもその本質に変わりは無く、それ故に輝けるものとなる。

 

 勝負の継続をかけた最後の打者のスライディングは、わずかに届かず、彼らの夏は終わりを告げる。

「ゲームセット!」

 球場に響き渡る審判の一声は、時には神の祝福に、そして時には無情なる死神による、断罪の宣告として球児たちの耳を突く。

 勝者達のセレモニーが終わる頃、敗れしもの達は涙を流し、記念の土を袋に詰める。しかしその輪に加わらず、スコアボードをただひたすらににらみ続ける者がいた。

「チームでは負けたけど、俺は決して負けてない。またここへ戻ってくる」

 まだ1年生なのか、顔立ちは幼い。しかし、目に力がある。

 この試合に代打として出場、タイムリーを放ってチーム唯一の得点を挙げた少年だった。少年の眼は決意に満ち、そして輝いていた。それが後に結果となるかは別として。


 上記が一例ならば、これもまた一例。これは、排除を機に一組の男女の間に咲いた花。

 

 誰も居ない空間は、互いの決意を確認するのに最適な場だ。結果、必然としてそこに彼らの声はあった。

「約束……守ってね」

「ああ。必ず勝つ」

 琉球水産(沖縄)のベンチ裏。2人の男女の間で交わされるのは短い言葉。しかしそこには溢れんばかりの互いの意思がこもっていた。


「沖縄に荒削りだが、素質十分の捕手がいる」

 プロのスカウトの間で、そして野球記者の間でその噂は耳にしていた。しかし、古川が実際に目にしたその男は、彼の予想をはるかに超えていた。

慶良間隆一けらまりゅういち、まさかこれほどとはな」

 琉球水産の1回戦の終了後、彼はこう呟いていた。


 ある1つの事件を機に生まれた、今の慶良間を突き動かす意志。

(約束したんだ。だから、負けるわけにはいかない)

 それが生まれたのはわずか数ヶ月前。それ以来徹底的に努力を積み重ね、その力でもって<南の名門>琉球水産を甲子園に蘇らせる原動力となるまでに自身を成長させた。そして今も、その意志は絶えない。

「点は取られても命までは取られない。安心して投げろ」

 2回裏、2−1に迫られ、なおもツーアウトランナー2,3塁のピンチ。彼はマウンドへ行き、投手に活を入れる。 そしてそれは効を奏し、次の打者はセンターフライに倒れた。


 琉球水産ベンチ内。スコアラーの女は、『あの日』の言葉を思い出していた。

「頂点、見せてくれるの?」

「ああ。絶対だ」

 あの日彼と交わした約束、私がそれを忘れることは無い。

『<女性選手事前出場審査制度>に基づき、具志川ぐしかわ真紀選手を審査した結果、当選手の公式戦出場は相応に値せずと判断された。よって、該当選手を出場させることは高野連規約違反となる』

 無機質な文言でつづられた手紙によって絶たれた彼女の選手生命。泣き崩れた彼女を救ったのは慶良間、そして彼と交わした約束だった。

「あの日私はあなたに希望を託した。だから絶対、負けないで」

 4回裏に迎えた慶良間の打席、彼女は心の中で願う。その願いに答えるかのように、彼はランナーを返す一撃を放った。


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