表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

その5

 最初は、誰もがフロックだと思っていた。しかし、彼らは本物だった。

 2007年選抜大会覇者、菊川昭栄高校(静岡)。あらゆる手段で野球の常識を覆し、春を制した彼らは、さらに強くなってこの場所に帰ってきた。

「あーっと! スクイズ成功、1点追加。あっ、2塁ランナーも突っ込んでくる! ファーストの返球は間に合わない。5回表、菊川、さらに2点を追加して7−0に点差を広げます!」

「強くなったな。彼らは……」

 古川はため息を吐く。春を制した時はいわゆる『旋風』のひとつとしか思ってなかったが、今やどうだろう。すっかり王者の風格を漂わせているではないか。

「全くですな」

 古川の背後から突如、声がかかる。振り向けばそこには、第1試合で完勝をおさめた『マジシャン』の姿があった。

「春田さん!」

 古川は思わず立ち上がるが、春田はそれを止める。

「このままで結構。ところで、あなたは?」

「あ、申し訳ない。私は『月刊HB』の……」

 古川は名刺を手渡す。

「なるほど。道理で私のことを……。しかし、高校野球とは面白いものですなあ。長く見ているとああして、常識の通じないチームが出てきたり、並みの高校生じゃ太刀打ちできないような選手が出てきたり。これだから監督業をやめられないんですよ」

「ええ」

 古川の見た彼の顔は、どこか寂しさを滲ませつつも、まるで子供のように微笑んでいた。しかし、その顔が突然、真剣なものに変わり、口調にも熱がこもる。

「ですがね。私がやっているのもまた、高校野球なんです。決して彼らは無敵ではないんです」

「と、言いますと?」

 古川はここで答えを引き出さんと一気に詰め寄る。だが、

「おっと。口が過ぎましたな。まあ、ひとつだけ言える事は、我々は『高校野球』をするということですね。いずれ御覧に入れますよ」

 春田の口調が元に戻り、古川は軽くいなされてしまった。春田が去っていく傍らで、菊川は点差を9に広げていた。

 最終回の決死の反撃も1点に終わり、球場には無情のサイレンが鳴り響く。結局菊川は12−4であっさりと初戦を勝ち抜いてしまった。

「やれやれ。これじゃあ抑えるのも一苦労だなあ。だけど、僕達は彼らに勝ちたい」

「流石は王者菊川。だが俺は安土城を必ず頂点に連れて行く。それが男の信念だ」

「誰が来ようと関係ねえ。俺は力で全てを制す!」

 観戦に来ていた宮本、加田、宮沢もそれぞれに決意を新たにする。

 それを知ってか知らずか、王者の軍団はグラウンドに母校の校歌を響かせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ