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Duel×Jewel  作者: 明巣
サンストーンの安寧
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22/33

サンストーンの安寧

「起きろよ」

 マイケルの声に、ジェリーはもそもそとシーツから寝ぼけた目を覗かせた。まだ寝足りた感じがせず、くあ、と大きく口を開く。頭がなんとなくふわふわして、もう一度目を閉じたらすぐに眠りに落ちてしまいそうだ。再びシーツの中に顔を引っ込めようとする。

「ジェイ」

 再び、今度は嗜めるような声が上から降ってくる。それでもシーツに籠城していると、とうとうシーツを引っペがされた。

 恨みがましい目で見上げても、マイケルは少しも動じることなくジェリーを見下ろしている。ちょっと前まで申し訳なさそうに揺り起こしていた姿が懐かしい。今ではともすれば蹴っ飛ばして起こす位の勢いだ。このまま寝ていたらベッドから蹴り落とされそうだと、ジェリーは不承不承体を起こした。

「……んだよ、ミック……」

「いい時間だぞ」

 別に、俺たち根無し草には時間の概念もへったくれもないんだからいいじゃないか、と思いつつぐっと腕を天井に向けて伸ばして、寝ぼけた体を起こす。

「それで、一体どうすんだ」

「いつもみたいにどこか別の町に移動して、いつもみたいになんだか面倒くさい宝石にぶつかって、いつもみたいに解決して、いつもみたいにマフィアから逃げ隠れするだけだ」

 吐き捨てるように彼は言った。

 町を出てからというもの、否、マイケルと出会ってからこの方、常にマフィアと宝石に振り回されている。マフィアは依然として目的が分かっていないが、宝石に関してはDに唆されたジェリーが自分から手を伸ばしているところもあるのは、未だにマイケルに言えずにいる。

 しかし、それだけではない。旅をはじめてからというもの、何故か曰くつきの宝石と出会うことが多く、その度ジェリーとマイケルが奔走するハメになっている。そのせいでマイケルとジェリーには金にできない資産がどんどん増えていた。その場で解決できたものは謝礼をもらって持ち主の元へ残したが、そうできないものは全て二人が引き取っていた。

 そういう種類の宝石をどう扱ったらいいのかは父親を見て学んでいたジェリーがとりあえずのところ管理しており、トランクに放りこんである。ジェリーは浄化が出来次第売り払って金にする気満々だ。

 そんなことばかりしているおかげで、心身ともにボロボロだ。目の前にあるマイケルの胸板も出会った当初と比べると多少分厚くなった気がする。ついでに、マフィアからの逃げ足もだいぶ早くなったし、マイケルの銃の扱いもマシになった。怪我は多いが、不定期に起きる奇跡のおかげで致命傷を負ったことは未だにない。

「なあ、たまにはさ、町に戻らないか?」

 ジェリーは、ずっと長い間言い出せなかったことをさりげなく切り出した。本当ならばDから金庫の鍵を受け取った次の日には街に戻って開けに行きたかった。しかし、町を出てからすぐそんなことを言い出すのは不自然極まりないし、当然だが危険も伴う。あれ以来Dは現れてもにやにやと笑っているか、曰くつきの宝石の解説をしていくかどちらかであり、新たな情報を与えてはくれなかった。つまり、今のジェリーに与えられた鍵は、金庫の鍵くらいだということだ。はやる気持ちを抑えながら、悶々と旅を続けていたのだった。

 マイケルは、ひくりと眉を上げて怪訝な顔をした。シーツを持ったままぴたりと動きが止まっている。

「町って?」

「俺たちの住んでた町」

 それは分かっている、とマイケルが硬い声で返した。つまりあれか、こいつはなんでわざわざ町に帰って地獄の門を自ら開けるような真似をしたいのか、とそう聞いている訳か。俺だって好き好んで悪魔の巣窟のドアをノックはしたくはないけれど。

「別に、お前もたまには姉さんたちの顔みたいだろ? ケヴィンのとこいって色々調達もしたいしな」

 しれっと嘘を吐くのはお手の物。マイケルは不審に思っている素振りをしながらも少し思案顔だ。いいぞ、その調子だ、と内心ジェリーは手を握り締める。何をどう畳み掛けたら彼の心が動くだろうか、と頭を働かせる。

「ねぇ、ジェリー」

「なんだよ」

「なんか隠してない?」

 ギクリ。

「何も。いつも通りだ。ほら、で、どうする? せっかく近くまできてるのに、これを逃したらまたしばらく帰れないぞ?」

 ジェリーが肩を竦めて急かすと、マイケルは荷物をまとめつつ、唸っている。

「でもなぁ、下手にレベッカたちを呼び出して危ない目に合わせたくないしな……うーん、でもそろそろ少しは顔を見せろってうるさいしなぁ」

 ぶつぶつと言っている横を通り過ぎて、顔を洗う。水は冷たいが、それが故にジェリーの頭がすっきりと冴え渡る。鏡に映るのは、いつもどおりの男前。ワックスを髪につけ、スタイルを整える。こんな根無し草の生活でも、これくらいはしなければおちおち女も口説けない。

「ミィック、いい加減答えは出たかよー」

 洗面所から顔を覗かせると、既に彼は荷造りを終えて、荷物の隣に腰掛けていた。彼はジェリーの方をみると、こくりと頷いた。

「うん、町に帰ろう」

 その顔はやけに神妙で、ジェリーは笑ってしまった。ただ、住み慣れた町にちょっと戻るだけなのに、マイケルはずいぶんと堅苦しく物を考えているようだ。

「オーケー! なら、とりあえずパッと色々済ませて、とっとと町を出るぞ!」

 楽しみだなーなんて、口笛を吹いていると、マイケルが薄く笑った。



 生まれ育った町に戻ったのは、実に半年ぶりだった。こんなにこの町を離れたのははじめてで、マイケルはなんとなく変な心地がした。

 本当ならば、全てが解決するまで戻ってくるつもりがなかった町。しかし、解決とは言えどうしたらいいのか分からず、ただジェリーの邪魔にならないように二人で旅を続けるしかなかった。だからこんなに早く帰れたことが嬉しくもあり、不安でもある。何より、いきなり帰ろうだなんてどうしたのだろうか。不審に思ったところで、マイケルは反対はしなかった。

 この半年、マイケルが余計なことをしてジェリーが怪我をした数は数え切れない。いつだって彼が正しい。不審なところは多々あったが、それを突く権利すら足でまといのマイケルには存在しない。マイケルが出来ることなんて一つもないのだから、今回もこれでいいのだろう。そう自分を納得させた。

 ジェリーとマイケルは、こそこそと夜中に町へと入り、そのまま家に戻るのではなくひと目のつかない場所へと車を停め、ケヴィンの家へと転がり込んだ。

 夜中だからこそバーにはまだ人が多くいて、二人は裏口から勝手に家に入り込んだ。勝手知ったる家のようにジェリーは二階へと上がり、勝手にベッドに潜り込む。ケヴィンのバーの二階は案外広く、寝室と思しきその部屋は、ベッドが二つとソファーが並んでいた。

「あれ、ケヴィン一人暮らしじゃないの?」

「人を泊めることが多いから増やしたんだとよ」

 くぁ、とあくびをして勝手に人の家で寝始めるジェリーにマイケルは苦笑いをした。そして、自身もソファーに無造作に横になり目を閉じる。下から聞こえる酔っぱらいの声。なんだかそれすらも心地よく感じる。すっかり崩れてしまった生活習慣のせいですぐにすぐは眠くなれない。けれど眠らないと疲労が溜まっていく一方だというのは最近の経験上分かっていたが、どうしようもない。

「……はぁ」

 寝たら寝たで、悪夢を見る。寝ている間に誰かが頭に銃を突きつけるかもしれない不安からどんどんと眠りは浅くなっていく。

 ガタン

 物音に跳ね起きると、ドアのところに銃を構えたケヴィンが居た。

「なんだ、お前らか」

 すやすやとベッドで眠るジェリーを一瞥し、それからマイケルをみるとケヴィンは銃を下ろした。マイケルは慌てて立ち上がり頭を下げた。それをケヴィンはひらひらと手を動かすことで制する。ストン、とマイケルはソファーに再び腰掛けた。

「……あーあー。Jは相変わらずだな。ミック、お前もずいぶん疲れた顔してるが、寝ないのか?」

「いや、僕もそろそろ……」

 ふっとケヴィンは口元を緩めると何も言わずに背を向けカツカツと階下に降りていった。ふっと肩の力が抜ける。ケヴィンにはなんだかんだで頼りきりで、気を使ってしまう。ジェリーは旧くからの付き合いだからまだわかるが、マイケルがよくしてもらえる謂れはない。マイケルはただのお荷物でしかないのに、と思うと気が重くなる。

「……それ言ったら、ジェリーもか……」

 気が重くなるばかりで、全然眠れそうにない。溜息を吐いて俯いていると、視線の先に男物の靴。顔をあげると、先ほど階下に降りたケヴィンがマグカップを持って立っていた。

「ほら、飲めよ」

 差し出されたそれを受け取り、口を付ける。甘いミルクがふわりと口の中に広がっていく。次に鼻に抜けるブランデーの香り。それに、口の中に残る甘さはミルクだけではないようだ。胃に落ちたそれがじわじわと体に暖かさを広げていく。

「……美味しい」

「ホットブランデーミルク、蜂蜜入りだ。小さい頃のあいつのお気に入りだ」

 くいっとケヴィンはジェリーを顎で差した。穏やかな寝顔を晒すジェリーとの記憶は、途中で止まっている。

『泣き虫ミック!』

 記憶の中のジェリーが、曇りのない笑みと共に手を伸ばしてくる。やんちゃではあったが、かなりしっかりして見えた彼の姿と、今の彼の姿は正直重ならない。その途切れた記憶を、きっとケヴィンは持っている。

「警戒心バリバリの顔しやがって。お前らの安眠くらいは守ってやるから、大人しく寝とけ」

 出会った頃のJそっくりだ、とケヴィンは呟いてポン、と軽くマイケルの頭を叩いた。それ以上何も言わず、彼は再び階下に戻っていった。

 手の平をぬくぬくと温めているホットミルクを口に含む。優しい甘さが心を少しずつ落ち着けていく。底に近くなると、沈み始めたはちみつがとろりと甘味を増していく。けれどその甘さは決して嫌なものじゃない。

 カップをサイドにあった机に置く。ソファーに横になると、ぐっと眠気が襲ってきた。久しぶりによく眠れそうだと、ふぅと息を吐いた。


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