第6話「好き、が重なった」
図書室で出会った二人の女の子が、
一年かけてたどり着いた春の話です。
全7話完結済みです。
告白は、十一月の図書室だった。
いつもの窓ぎわ。銀杏が黄色く色づいて、風が吹くたびに葉が舞い上がる季節になっていた。落ち葉の匂いが窓の隙間から入ってきて、図書室の中は少しだけ外の冷気を帯びていた。
雪はスケッチブックを開いていた。葵は文庫本を読んでいた。……ふりをしていた。実際には三行同じところを読み返していた。最近ずっとそうだ。文化祭の夜から、雪といると落ち着かなくなった。好きすぎて、近くにいると逆に息苦しい。それなのに離れたくはない。
ふと、雪の手元が気になった。のぞきこもうとして、葵は息をのんだ。
スケッチブックに描かれていたのは、葵の横顔だった。
本に目を落としている葵の横顔が、雪の線で丁寧に、どこか愛おしそうに描かれていた。葵が知らなかった角度から見た、自分の顔だった。
「……それ、私?」
声が思ったより小さく出た。雪がびくっとして、スケッチブックを閉じようとした。葵は思わず手を伸ばして、その手を押さえた。
「見せて」
雪の耳が、真っ赤になっていた。葵は胸の中で何かが弾けるのを感じた。
「……いつから描いてたの」
「……五月から」
葵は息をのんだ。五月。美術室で、雪の指が葵の手の甲をかすめた、あの日から。葵が「好きだ」とはっきり自覚したのと、ほとんど同じころだ。
心臓が、うるさかった。雪はスケッチブックを膝の上に抱えて、視線を下に落としていた。赤い耳が、図書室の静けさの中にある。
葵は深呼吸した。もう、迷わなかった。
「好き」
言ったのと同時に、雪の口からも同じ言葉が出た。
二人とも、止まった。
どちらが先だったのか、あとで二人とも覚えていなかった。でも、声が重なったのははっきりとわかった。雪がゆっくり顔を上げた。目が赤い。泣いているのかと思ったら、葵も泣きそうになっていた。
雪が目を細めて、笑った。葵はたぶん、情けない顔をしていた。
「ずっと言えなかった」と雪が言った。静かな、でも確かな声で。「女の子同士だから、変だと思われるかって。葵に引かれたら、もう図書室に来れないと思って」
「私も全く同じこと考えてた」と葵は答えた。「でも、変じゃないよ。全然。私はずっと、雪のことが好きだった」
雪がゆっくりと、葵の肩に額をあずけてきた。柔らかい重さが、葵の肩にのる。シャンプーの匂いがした。葵は目を閉じて、そっと雪の背中に手を回した。
図書室には二人しかいなかった。窓の外で、銀杏がまた風に揺れた。黄色い葉が、ひらひらと落ちていくのが見えた。
こんなに好きな気持ちに、名前をつけてよかったと思った。
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