第5話「キャンドルの夜に、手を握る」
図書室で出会った二人の女の子が、
一年かけてたどり着いた春の話です。
全7話完結済みです。
文化祭当日、壁画は完成した。
葵の大胆な筆づかいで描いたひまわり畑の中に、雪が細い線で描き込んだ風のうねりと光のまだらが溶け込んでいた。近くで見ると荒っぽいのに、離れて見ると不思議なほど息をのむ絵になっていた。通りかかった先生が「これは誰が描いたの」と聞くたびに、二人で「合作です」と答えた。そのたびに肩が触れた。そのたびに葵は、少しだけ余分に嬉しくなった。
午後、クラスの展示を抜け出して、二人で校内をぶらぶらした。他のクラスのお化け屋敷に入って雪が葵の腕をつかんだとき、葵は心の中でガッツポーズをした。フランクフルトを半分こして、体育館の端でかき氷を食べた。雪が「いちごにすれば良かった」と小さく言うのを聞いて、葵は自分のいちごを差し出した。「あげるよ」。雪が目を丸くして、それから受け取った。
夜の後夜祭、グラウンドにキャンドルが並んで、生徒が輪になって座った。炎の揺れる橙色の光の中で、雪がぽつりと言った。
「葵がいると、私、ちゃんと動ける気がする」
周りの喧騒から少し切り離されたみたいに、その声だけが耳に届いた。葵は雪を見た。雪は炎を見ていた。横顔が、いつもより柔らかかった。
葵は思い切って、隣に置かれた雪の手に、自分の手を重ねた。
雪が驚いたように目を見開いた。葵の心臓がうるさかった。でも、雪は手を引かなかった。少しだけ、指が葵の手を握り返してきた。
「私も」と葵は言った。「雪がいると、立ち止まれる。焦らなくていいって思える。どっちかだけじゃ、あの壁画できなかったよ」
しばらく二人とも黙っていた。握ったままの手が、じんわりと温かい。キャンドルの炎が揺れて、雪の髪を金色に縁取った。葵はその横顔をこっそり見ながら、もうずっとこうしていたいと思った。
周りでは歌が始まっていた。誰かが大声で笑っていた。でも葵には、この小さな温度だけが世界のすべてみたいに感じた。
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