第7話「ずっと、と言えた春」
図書室で出会った二人の女の子が、
一年かけてたどり着いた春の話です。
全7話完結済みです。
そして、春が来て、夏が来て、また冬が来て、そして今、春になった。
一年以上が経っていた。
雪が降った日に二人で帰り道を歩いたこと。春休みに美術館へ行って、雪が展示の前でずっと動かなくなったこと。文化祭の打ち上げで雪が珍しくたくさん笑って、葵がそれをずっと見ていたこと。夏祭りで葵が金魚すくいに本気になりすぎて三回失敗したこと。冬の図書室で並んで受験参考書を開きながら、結局ほとんど話して終わったこと。数え切れないくらい笑って、少しだけ泣いて、ずっと隣にいた。
卒業式の前日、二人は図書室の窓ぎわに座った。あの日と同じ席。あの日と同じ景色。でも何もかもが違った。
雪はスケッチブックを開いていた。葵は文庫本を手にしていた。窓の外には桜が咲いていた。満開だった。
ここで初めて話したのが、もう二年前だなんて信じられない気がした。あのとき葵は緊張しながら「きれいに描くね」と言って、雪は「ありがとう」とだけ返した。たったそれだけだったのに、今はこうして当たり前に隣にいる。
「大学、遠くなるね」と葵が言った。
二人の進む大学は、違う沿線にある。電車を乗り継いで一時間弱。高校では当たり前に毎日会えていたのに、来年からはそうはいかなくなる。それがどうしても、少し、さみしかった。
「電車で四十五分」と雪が言った。迷いなく。「遠くない」
断言するその声が好きだ、と葵は思った。考え込んでいるくせに、肝心なことだけは一切迷わないこの人が、とんでもなく好きだ。出会ったころから、ずっと。
「週に一回は会いに行くから」と雪が続けた。「葵が来てもいいし、私が行ってもいい」
「両方する」と葵は即答した。
雪がくすっと笑った。葵の一番好きな、あの笑い方だ。二年間、何度引き出せただろうかと葵は思った。これからも、ずっと引き出し続ける。
窓の桜が、風に揺れて散りはじめた。ガラスに花びらが張りついて、すぐに落ちていく。
雪がスケッチブックから目を離して、葵の手に自分の手を重ねた。指が絡まった。窓ガラスに映る二人の姿が、花びらと一緒にゆらゆらと揺れていた。
「来年の桜も、一緒に見よう」
「うん」と葵はこたえた。「ずっと」
それだけで、もう十分だった。
窓の外で桜が舞い、図書室に春の光が満ちた。二人の影が重なって、長く伸びていた。
〈完〉
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最後まで読んでくれてありがとうございます。
「好き」と言ったのと同時に、
相手も同じ言葉を言っていた。
そういう告白を書きたかった。
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またどこかで会いましょう。




