西の王降臨
東国境・小村ラグナ。
夜。
静かな農村。
兵は十数名。
見張り塔に灯りが揺れている。
その空気が、突然歪んだ。
雷鳴。
だが雲はない。
大地が震える。
村の中央に、一本の“樹”が生えた。
あり得ない速度で。
家屋を突き破り、石畳を割り、天へ伸びる。
悲鳴。
「敵襲――!」
叫びは途中で途切れる。
紫雷が走る。
兵が焼ける。
⸻
ゆっくりと、男が歩く。
筋骨隆々。
長身。
紫雷が肩にまとわりつく。
植物がその足元で脈打つ。
西の王。
テンペスト・グラード。
「……脆い」
低い声。
感情はない。
ただ事実を述べるように。
⸻
東兵が突撃する。
連携は取れている。
悪くない動き。
だが。
雷が落ちる。
一瞬。
五人が消える。
焼け焦げた地面だけが残る。
「第二覚醒か!?」
兵の叫び。
違う。
格が違う。
テンペストは片手を上げる。
背後に巨大な雷樹の幻影が現れる。
空間が歪む。
第3覚醒
《雷樹天臨》
地面から無数の樹が突き上がる。
兵を貫く。
家屋を砕く。
村人の逃げ道を塞ぐ。
⸻
一人の東兵が叫ぶ。
「子供を守れ!」
剣を構える。
震えている。
それでも前へ出る。
テンペストは視線を向ける。
一瞬。
雷。
兵の上半身が消える。
「弱者の勇気ほど無意味なものはない」
淡々と。
進む。
泣き声。
炎はない。
助けは来ない。
ただ雷と樹。
破壊。
蹂躙。
⸻
やがて静寂。
村は崩壊していた。
焼け焦げた地。
砕けた家。
倒れた兵。
テンペストは周囲を見渡す。
「東は甘い」
呟く。
「象徴に依存しすぎだ」
空を見上げる。
遠く、炎の気配。
「来ないな、セラフィナ」
口元がわずかに歪む。
挑発ではない。
確認だ。
東の象徴が全てを守れるわけではないという証明。
⸻
側近が跪く。
「王よ、目的は達成されました」
「うむ」
「次は」
「徐々に削る」
静かな声。
「恐怖は一度に与えるより、染み込ませる方が効く」
雷が消える。
樹が枯れる。
だが村は戻らない。
⸻
王都・東。
緊急報告が届く。
セラフィナの瞳が凍る。
報告書の文字。
“村壊滅”
“生存者無し”
“雷と植物”
握る紙が焦げる。
炎が漏れる。
紋様が強く光る。
怒り。
だが暴発しない。
制御された炎。
「テンペスト……」
低く、静かに。
感情はある。
だが爆発させない。
それが象徴。
⸻
訓練場。
グレイスたちはまだ知らない。
遠くで何が起きたかを。
だが風が変わる。
空気が重い。
レオルが空を見上げる。
「嫌な感じだな」
リシェルも感じている。
魔力の圧。
遠いのに、分かる。
グレイスは拳を握る。
まだ知らない。
だが確実に――
倒すべき敵が、姿を現した。
⸻
西の王。
テンペスト・グラード。
世界最強の一人。
最後まで悪である男。
その影が、東を覆い始めた。




