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紅炎戦記  作者: えみり


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20/71

水面に映る炎

村壊滅の報は、数日後に訓練所へも届いた。


空気が重い。


兵舎の食堂も静かだった。


「西の王らしいな」


レオルが低く言う。


軽口はない。


リシェルは報告書を握りしめている。


「第3覚醒……」


理論上の存在。


だが現実に村が消えた。


グレイスは黙っている。


炎を思い出している。


そして、あの男の力を想像する。


遠い。


だが逃げない。



その夜。


三人は自然と訓練場へ集まった。


誰も言い出していない。


だが全員いる。


「守れなかった人がいる」


レオルが言う。


「俺たちが間に合っても、どうにもならなかったかもしれない」


悔しさ。


「でも」


グレイスが言う。


「次は違う」


短い。


だが強い。


リシェルが視線を向ける。


その目には迷いがない。


恐怖もある。


だが逃げていない。



模擬戦。


全力。


連携。


氷が拘束し、風が裂き、水が穿つ。


動きが噛み合う。


以前とは別物だ。


呼吸が合う。


言葉が要らない瞬間が増えている。


終了後。


三人とも地面に座り込む。


荒い呼吸。


汗。


沈黙。


だが空気は悪くない。



「なあ」


レオルが寝転ぶ。


「もしさ」


「うん?」


「どうにもならない相手がいたらどうする?」


少しの間。


グレイスは答える。


「どうにかする」


「雑だな」


「逃げない」


それだけ。


迷いがない。


リシェルの胸が、強く鳴る。


その横顔。


炎を見上げた時と同じ目。


あの回廊での表情。


“近づく”


あれは――


追いかける目だ。


誰を?


答えは明白。


セラフィナ。



胸の奥が、きゅっと締まる。


理解してしまう。


ああ。


そういうことか。


自分は。


「……あーもう」


小さく呟く。


レオルが首を傾げる。


「どうした?」


「何でもない!」


強い声。


だが耳が赤い。



夜、部屋。


一人。


水を掌に浮かべる。


揺れている。


「好きなんだ」


ぽつり。


自分で言って、固まる。


否定しようとする。


だが無理だ。


戦場で守られた瞬間。


あの背中。


あの無茶。


あの真っ直ぐな目。


全部。


胸が騒ぐ。


これは仲間意識じゃない。


憧れでもない。


「最悪……」


顔を覆う。


よりにもよって。


相手は、あの炎を追いかけている。


自分じゃない。


分かっている。


だから余計に。



翌日。


三人並んで歩く。


レオルが笑う。


「今日は静かだな、リシェル」


「うるさい」


視線が無意識にグレイスへ行く。


目が合う。


逸らす。


早い。


「?」


グレイスは気づかない。


それがまた、少しだけ悔しい。



訓練。


連携はさらに洗練される。


三人は確実に強くなっている。


絆も。


笑いもある。


だが水面の下では、


新しい感情が静かに広がっていた。



遠く、塔の上。


赤い瞳が訓練場を見る。


セラフィナは気づいていない。


三人の変化の中に、


小さな波紋が一つ増えたことを。



嵐は近い。


だが今はまだ、


三人は並んで立っている。


それが何よりの強さだった。

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