追いかける背中
翌朝。
訓練場。
空気が違う。
「おい、今日やけに早いな」
レオルが目を細める。
グレイスはすでに氷を展開している。
無駄が減っている。
「自主練か?」
「ああ」
短い。
だが目が違う。
⸻
「昨日の第二覚醒」
グレイスが言う。
「出力じゃ勝てない」
「そりゃそうだろ」
レオルが肩を回す。
「じゃあどうする」
「制御を上げる」
一点集中。
瞬間凍結。
拘束特化。
真正面からぶつからない。
「らしいな」
レオルが笑う。
「俺は速度をもう一段上げる」
風が強まる。
安定している。
以前のような粗さが減った。
⸻
リシェルは黙って見ている。
そして言う。
「二人とも、前提が甘い」
「何がだ」
「第二覚醒は“段階”じゃない。質が変わるの」
水が掌に集まる。
「だから出力対抗じゃなくて、構造破壊」
彼女の目が真剣だ。
怖さを知った目。
「魔力の接合部を狙う。暴れさせる」
理論は鋭い。
レオルが吹く。
「頭脳担当、頼もしいな」
「当然」
だが視線は、無意識にグレイスへ向く。
昨日の回廊。
“死なれたら困る”。
あの一言が、胸に残っている。
理由は分からない。
⸻
模擬戦。
三人対上級二人。
開始。
レオルが撹乱。
リシェルが一点圧縮水弾。
グレイスが足元凍結。
連携が速い。
前より迷いがない。
上級兵が崩れる。
教官バルドが目を細める。
「……成長が早いな」
⸻
終了後。
レオルが笑う。
「昨日ボコられたのが効いてるな」
「違う」
グレイスが言う。
「見たからだ」
「何を」
一瞬の間。
「あの炎を」
静かだが、芯がある。
追うのではない。
近づく。
その目標が明確になっている。
⸻
高所。
塔の上。
セラフィナが訓練場を見下ろす。
氷が変わった。
揺らぎが減っている。
風が安定している。
水が鋭い。
「……素直ね」
小さく呟く。
昨日の言葉が、確実に届いている。
胸の奥が、少しだけ熱い。
紋様が淡く赤寄りに揺れる。
すぐに消す。
誰にも見せない。
⸻
その時。
伝令が駆け込む。
「西側、境界で不穏な動き!」
空気が変わる。
セラフィナの瞳が鋭くなる。
象徴へ戻る。
「詳細を」
だが、ほんの一瞬だけ。
視線が訓練場へ落ちる。
氷の少年。
まだ遠い。
だが確実に、前に進んでいる。
「……急ぎすぎないで」
小さく呟く。
聞こえない距離。
それでも願う。
⸻
地上。
グレイスは空を見上げる。
赤い気配。
遠い。
だがゼロではない。
拳を握る。
「行くぞ」
レオルが笑う。
「どこまでだよ、グレイス」
「届くところまでだ」
リシェルが少しだけ息を呑む。
胸が、またざわつく。
理由は、まだ言語化しない。
⸻
成長は加速する。
戦火もまた、近づいている。




