夜に磨く刃
消灯後の第三演習場。
月光が砂を白く照らす。
「……来ると思った」
レオルが笑う。
すでに風をまとっている。
「誰が言い出すかの違いだろ」
俺は氷を掌に生む。
少しだけ、昨日より安定している。
「理論からやるわよ」
背後から声。
リシェル。
手ぶらのまま。
蒼い瞳が真剣だ。
「まずは出力の無駄を削る。三人とも魔力が散りすぎ」
⸻
■ グレイス
「あなたは“広げすぎ”」
リシェルが俺の氷を観察する。
「凍結域を欲張るから密度が落ちるの」
「狭めろってことか」
「違う。圧縮してから広げるの」
水が指先に集まる。
小さな水球。
それが一瞬で高密度に凝縮される。
「こう」
弾ける。
音が違う。
俺は氷を生成。
一度、極限まで密度を上げる。
冷気が刺す。
それから一気に展開。
地面が、以前より深く凍る。
ひびが入らない。
「……いける」
まだ不安定だが、感触がある。
⸻
■ レオル
「お前は速すぎる」
俺が言う。
「勢いで突っ込むから重心が浮く」
レオルが舌を出す。
「感覚派なんでな」
「感覚を理屈に落としなさい」
リシェルが即座に返す。
風を足元ではなく、腰へ。
回転軸を固定。
一歩踏み込む。
風の刃が、真っ直ぐ走る。
「お?」
軌道が安定する。
「これなら受けられても崩れない」
レオルの目が少し変わる。
⸻
■ リシェル
「次、あなた」
レオルが腕を組む。
「火力不足」
「分かってるわよ」
悔しさを隠さない。
俺は言う。
「圧を一点に」
「やってる」
「まだ甘い」
少し間。
リシェルが目を細める。
水を集める。
これまでより小さい。
だが異様に静か。
空気が張り詰める。
撃つ。
地面が抉れる。
「……」
三人で沈黙。
「今の、実戦級だ」
レオルが言う。
リシェルは顔を背ける。
「当然」
だが息が荒い。
魔力消費が大きい。
「持久が課題だな」
俺が言う。
「うるさい」
⸻
夜は深まる。
何度も倒れ、
何度も立ち上がる。
十五人の中で、今ここにいるのは三人だけ。
汗。
息切れ。
擦り傷。
だが昨日より、確実に強い。
⸻
休憩。
三人並んで座る。
月が高い。
「なあ」
レオルが言う。
「俺さ、家族いるんだ」
突然だ。
「母さんと妹二人」
軽い口調だが、目は真面目だ。
「だから死ねねぇ」
リシェルが小さく言う。
「……死なないわよ」
「当たり前だ」
俺は言う。
「強くなる」
レオルが笑う。
「お前、そればっかだな、グレイス」
「他にない」
リシェルが少しだけこちらを見る。
「単純。でも、嫌いじゃない」
すぐに視線を逸らす。
耳が赤い。
⸻
立ち上がる。
「もう一回やる」
俺が言う。
レオルが拳を鳴らす。
「付き合うぜ」
リシェルがため息をつく。
「仕方ないわね」
三つの魔力が再び立ち上る。
氷は鋭く。
風は安定し。
水は重くなった。
壁はまだ高い。
だが――
削れている。
確実に。




