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紅炎戦記  作者: えみり


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越えられない壁

第三演習場。


砂煙が舞う。


「開始!」


教官バルドの号令と同時に、上級訓練兵が踏み込んできた。


速い。


今までの相手とは違う。


「右だ、グレイス!」


レオルの風が吹き抜ける。


俺は氷刃を生成。


だが――


衝撃。


腕が痺れる。


氷が、砕けた。


「硬度が足りない!」


リシェルの声。


水が走る。


敵の足元を狙う精密な一撃。


だが相手は跳ぶ。


着地と同時に、拳が地面を叩いた。


衝撃波。


三人まとめて吹き飛ばされる。



「連携が甘い!」


教官の声が響く。


「理論だけでは戦場は渡れん!」


砂に膝をつく。


呼吸が乱れる。


氷を再生成しようとするが、魔力が散る。


制御が追いつかない。


レオルが立ち上がる。


「まだだ!」


風が加速する。


単独で斬り込む。


速い。


だが重い一撃を受け、地面に叩きつけられる。


「くそ……!」



リシェルの水弾が連続で放たれる。


正確。


美しい軌道。


だが威力が足りない。


敵は腕で受け、前進する。


「押し切られる!」


俺は無理やり魔力を引き出す。


氷を広範囲に展開。


凍結域を広げる。


だが――


雑。


ひび割れ。


氷が崩壊する。


次の瞬間、喉元に刃が突きつけられた。


「終了」


教官の低い声。



地面に倒れ込む。


空が遠い。


十五名の訓練兵の中で、


俺たちは目立ち始めている。


だが――


強くはない。


「……話にならんな」


教官は言う。


「前線はもっと速く、もっと重い」


沈黙。


悔しさが喉を焼く。



休憩場。


レオルが砂を払いながら笑う。


「いやー、ボコられたな」


強がりだ。


腕が震えている。


リシェルは黙っている。


視線は地面。


「理論は間違ってない」


小さく呟く。


「でも、出力が足りない」


現実だ。


俺は言う。


「強くなる」


それしかない。


レオルが横目で見る。


「簡単に言うなよ、グレイス」


「簡単じゃない」


リシェルが顔を上げる。


蒼い瞳。


悔しさが滲んでいる。


「でも……やるしかないでしょ」


三人の間に沈黙が落ちる。


だが逃げる空気はない。


越えられない壁がある。


なら削るしかない。



夕暮れ。


演習場の隅。


誰もいないはずの場所に、赤い視線があった。


城の塔から。


セラフィナは見ている。


未熟。


粗い。


だが折れていない。


「壁に当たるのは悪くない」


炎がわずかに揺れる。


越えられるかどうかは、本人次第。


視線は静かに消えた。



夜。


訓練所の灯りが落ちる。


だが演習場に、まだ三つの魔力が残っている。


氷。


風。


水。


誰が言い出したわけでもない。


三人は、戻ってきていた。


壁は高い。


だが、背を向けるつもりはない。


成長は、ここから始まる。

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