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地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
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第十一話  ペルセウス腕海戦 序盤

第十一話  ペルセウス腕海戦 序盤




「『蛇神』とは、小惑星群。蛇のように連なった宇宙塵や小惑星の流れの総称である。それぞれの流れのどこかに、『顎門あぎと』と呼ばれる流れをコントロールする人工小天体が存在する」


『ハッスル☆どんすこい』艦橋。

 メインブリッジ直下の作戦司令室。


 クルーが集結している前で地球艦隊の作戦会議が開かれている。

 会議の内容は、自動撮影のカメラで『レッツゴー☆さぶ一号、二号、三号。』にも放送される。


「太古に銀河連合評議会を襲撃するため、小惑星をコントロールする巨大宇宙戦艦がレムル人によって建造された。評議会の中枢部、銀河中心部の発光するガス雲宙域に向けて、極限まで加速した小天体の大群を射出し中枢部を破壊しようとしたんだ。しかし、計画は評議会の察知するところなり、レムル人は『返し矢』を浴びた」


 浩平が夢で見た艦隊崩壊の映像がスクリーンに映し出される。


「襲撃が失敗に終わったとき、すべての乗組員は死亡したが、コントロールを失った巨大宇宙戦艦が、いまだに流星群のなかで活動している。レムル人の技術なのか、流星群をはじき返した銀河連合の技術なのかは不明だが。物理法則を無視した小惑星群の動きはその宇宙戦艦の残骸『顎門』が原因とされている。これが最初期の『レムル由来小惑星群』」


 自分の故郷の惑星が破壊される映像を背景に、アジスは淡々と話す。


「その後、その破壊力と有用性に気付いた銀連評議会は、この流星群を、当時戦争中だった、銀河国家『アギラ同盟』に対して大量使用した。これが後期の、そして現在に至る『蛇神』なんだ。汎銀河戦争終結後も、レムル星人のような、銀河惑星連合に反逆的な惑星文明が勃興する度に、評議会は蛇神を派遣した」


 作戦司令室の大型スクリーンには 、何故か地球から見える星座図が、モチーフの絵付きで映し出される。

 白鳥座の頭が指し示す先、大きな蛇を両手で抱える男の絵にズームされ、蛇の尾辺りからは、小さな蛇が放出されている。


「独裁政治の台頭、大量虐殺、世界大戦、核兵器使用……。評議会が定める基準は曖昧だけと、ある一定の『やっちゃいけない事』をやってしまった星に、評議会は蛇神を差し向ける。広い銀河の事だから、結果などは無頓着さ」


 蛇神が色々な惑星のすれすれを横切り、小惑星を落とす映像が小スクリーンに次々と流れる。  


「過去の海戦でエリドゥ将軍は、太陽系に侵入した五つの『顎門』を撃破した。『顎門』を失うと小惑星群は途端に四散する。逆にいくら周りの小天体を破壊しても、『顎門』が健在ならば、蛇神は近傍の小天体を次々に取り込み、再生してしまう………」


 宇宙空間を急行列車のように過ぎ行く小天体の群れ『小天体』といっても直径数メートルの小さなものから、準惑星クラスの大きさまでさまざまだ。


「われわれ『節士派』のレムル人は、銀河連合への誓言に縛られ、太陽系外に迎撃に行くことは出来なかった。しかし今回は正式に銀河惑星連合への加入が認められ、早期警戒網にかかった蛇神を迎撃する事ができる。現在太陽系内の銀河連合艦隊も集結中だ。その中の一部は今後地球の月に常駐し、地球周辺宙域の警護に当たることが決まっている。我ら地球鎮守府は、その艦隊が常駐するまでの繋ぎの機関だ」


 星陵高校の地球人学生で構成されている『ハッスル☆どんすこい』クルーは、アジス提督より、作戦の説明を受けている。


 しかし、義体に憑依している生徒達は、薄らボンヤリとした表情で、聞いているのか聞いていないのか判らない。

 きっと夢を見ている最中の夢の中の人を傍から見たらこんなんだろう。


 所詮は作り物。

 当の本人達も、恐らく夢だと思っている。


 イラッとしたアジスは急に両手をガバッと広げて前にかざし、「強制学習!」と叫ぶ。


 手の先からビビビビビーっと怪しげな光線がほとばしり、乗組員の頭に命中する。


「はい、はい! そろそろ作戦宙域につくよ、全員持ち場に着けー! 宇宙うちゅうぅの、男の、艦隊勤務かんたいきんむぅ、げつげつかぁかぁすいすいもくもくきんきんきんきんきんきんきんきん!」


 『金』『金』『金』と言う度に首を激しく左右に振るオリジナル変態舞踊でクルーを追い散らすアジス提督。

 クルーはよたよたと解散してゆく。


「大丈夫なんスか?みんな酔っ払いみたいですけど…」


 別に赤毛ではないが、参謀チックな立ち位置で浩平はアジスに訊く。


「難しいところだねぇ、君とシタテル以外の義体はシンクロ率を下げているしね。あんまり意識がはっきりしていると、覚醒したとき覚えている可能性もあるし……。一々記憶を操作するのも大変なんだよ」


 独り言のように呟くアジス。


「へ?」


「いやいやこっちの話」


 アジスと浩平はエレベーターでメインブリッジに戻った。


「提督、エレヒより通信です。今回来襲した小惑星群は『レムル・ラプシヌプルクル』と判明しました」


 通信係がアジスに告げる。


「ほう、ラプシヌプルクルか、初陣としては丁度良い相手だ」


 ニヤリとするアジス。


「ラプシヌプルクル?」


「流星群にはそれぞれ固体識別できるように名前がついているんだ。『顎門』特徴や支配下に出来るの小天体の数などそれぞれ差があるから」


「ラプシヌプルクルは十二年前に一度太陽系を通過した事がある。地球には近づかなかったんだけど、エリドゥが遠征して配下の小天体を殆ど撃破している。当時の規模も小さかったし、その時の傷はまだ回復していないだろう」


 敵の規模が思ったより小さい事がわかって安心したのか、饒舌になるアジス。


「レムル・ラプシヌプルクルに斥候が遭遇しました。映像を写します」


 前面スクリーンにごちゃごちゃと岩の塊の映像が映し出される。


「いよいよだな。各砲撃手、コンソールに接続されている砲撃装置を手に取り、各座席前面のスクリーンに注目せよ」


 生徒達は赤い縁取りで金色に光る、某家庭用ゲーム機のコントローラそっくりの、懐かしい砲撃装置を手にする。


「もうすぐ射程距離に入る。そうしたら画面に地球衝突コースをとる小天体がドクロマークで表示される。コントローラーの十字キーでカーソルを動かしドクロマークに合わせてボタンを押すんだ。『A』ボタンは近距離用の破壊レーザー。『B』ボタンは長距離用の重アンカー。アンカーってのは隕石に錨のような物をブッ刺して隕石の軌道をかえる装置なんだ。ちなみに裏技でコントローラーに付いているマイクに大声で『ハ○ソン!・ハド○ン!』と叫ぶと一回だけ助けが来る。だけど一回だけだからそれを使うのは絶体絶命のピンチだけだよ」


 こんなチープな操作で本当に大丈夫なのか?浩平は心配する。


「いいかい?攻略のポイントはみんなで手分けすること。一年生は画面の上側、二年生は真ん中、三年生は画面の下を担当して。大物がいたら生徒会が手伝うから。では作戦開始!」


『ハッスル☆どんすこい』『レッツゴー☆さぶ一号』『同二号』『同三号』は等間隔に広がり、ラプシヌプルクルの頭を抑えるコースに位置すると、クルリと回頭し、前方を後ろ向きに並走するような格好になった。こうやって相対速度を遅くして戦うのだ。


「ラプシヌプルクル、射程距離に入ります!」


 各砲撃手のスクリーンは一斉に何百ものドクロマークが現れる。砲撃手が目標を取り合う必要など無い。画面全部がターゲットだ。


「大きい目標は破壊すると分裂して危険だ! 重アンカーで軌道を逸らすだけでいい! それより小さい目標を撃ち漏らさないように! 直径10キロメートルの隕石が落ちても地球文明は滅亡するんだから!」


 アジスは叫ぶ。


 アジスと隣のシタテルはコントローラーを持っていない。

 彼らは頭に、美容室のドライヤーみたいな、大仰な機械仕掛けのヘルメットを被っている。

 どうやらそのヘルメットで銃座をコントロールするらしい。

 一度に数十個のカーソルを同時に制御し、瞬く間に小天体を一掃する。

 まったく他の砲撃手の存在意義はあるのか疑わしくなる。

 しかし、この操作は猛烈に気力体力を奪うらしい。

 アジスとシタテルの顔から見る見る血の気が失せてゆく。


「………。小物はいい。『ラプシヌプルクルの顎門』はまだか……?」


 目を閉じたまま唸るように呟くアジス。


「シタテル、大丈夫なのか?」


 思わず声をかける浩平。


「大丈夫です浩平さん。あの、手を、手を握らせてください。」


 必死の形相が全然大丈夫で無いことを物語っていた。

 夢ならもうそろそろ覚めてほしい。

 浩平はそう思い始めた。


「前方!顎門が見えました!」


 スクリーンにひときわ大きい銀色の鬼の顔が現れる。


 これこそラプシヌプルクルの中枢部。

 とっくの昔に滅びた星間帝国が建造した重力コントロールユニットだ。


 船体に振動が走る。


 巨大な鬼の顔の周りには小さな浮き砲台が多数漂い、五月雨式に砲弾を投げかけてくる。


「防御システムが生きている!」


 アジスの表情が険しくなる。


 隕石の間を縫うように飛びながら小さな浮き砲台がハッスル☆どんすこいに殺到する。


 隕石と違い、めまぐるしく動く浮き砲台は、ファミ○ンのコントローラーごときでは対処できない。

 鈍い音がする度に船体が揺れる。


「おのれ!なめるな!シニスター気取りが!雷震させてやる!」


 アジスのヘルメットから稲妻が迸り、髪の毛の焦げる匂いが辺りに漂う。


 『ハッスル☆どんすこい』の周りが突然白色化し、隕石も浮き砲台も光の中で溶けるように消えて行った。

 大多数の砲台は放電に巻き込まれ消えるか、コントロールを失い隕石に激突した。

 生き残った数台は鬼の顔を守護するため集結している。


「重力震発生!」


 鬼の顔の前に光をさえぎる黒い塊が現れどんどん成長してゆく。


「いかん!ブラックホールか!」


 隕石が黒い球体に次々と音も無く吸い込まれてゆく。


「引き込まれる前に顎門を破壊しろ!」


 次々と重アンカーが発射されるが、ブラックホールに軌道を逸らされるか、吸い込まれるかして届かない。

 レーザー光線すら捻じ曲げられてしまう。


「エリドゥ、たすけて、」


 アジスは弱気になったのか祈るように両手を握り瞑目する。

 ちょうどその時、宇宙空間に場違いに角笛の音が鳴り響いた。


『一四五まる』が現れたのだ。


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