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地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
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第十話 宇宙の海栗は俺の海栗

第十話 宇宙の海栗ウニは俺の海栗ウニ




 ちゃんららーら、ららららー


「宇宙のうにはー、俺のうにー……」


 なつかしのアニメソングのメロディにのせて、プリンを片手にアジスが歌う。


 ぴぴぴぴぴ、


 ここは地球鎮守府所属、地球防衛艦隊旗艦、新造戦艦『ハッスル☆どんすこい』のブリッジ。


 アジスはブリッジのひときわ高い指揮官席に鎮座している。学生服姿である。


「会長、エレヒより通信が入っているよ」


 浩平がアジスに声をかける。


「だめ! だめ! 艦の中では『提督』って呼んでくれる約束でしょ」


 ブリッジにいるスタッフはほとんどが星陵高校の生徒。

 全員制服を着ている。


「はいはい、アジス提督、通信ですよ」


「『馬鹿メ』と応えてやれ」


 偉そうにアジスは言う。


「はぁ?」


「『バ・カ・メ』だ!」


「……本当にいいんですか?」


「ごめん、言ってみたかっただけ。普通にこっちに回線まわして……」


「こちらアルビレオ観測所、ペルセウス腕外縁部方面より蛇神接近。至急迎撃体制に入られたし」


「了解、了解。地球防衛艦隊、ただちにこれにあたる」


 アジスは上機嫌でオペレーターの女性に答える。


 もうとっくに夢の状況は浩平の理解力を超えている。

 いつ覚めるかもわからないし、どのくらい夢の中にいるのかもわからない。

 わからない以上、この設定を受け入れてなりきることにした。


「そうだ!工廠部の人に頼んでステレオのジャック付けてもらったんだった」


 アジスは足元のコードを手繰り寄せる。


「そこのケータイとってー」


 アジスに向かって指揮官席に置いてあったをケータイ投げる浩平。


「接続。再生っと」


 ケータイ操作するアジス。


「放送室、外部入力に切り替えて、」


 『ボスッ』とスピーカーが切り替わる音がする。


「……アレー音楽が流れないよ~」


 アジスはケータイをいじくる。


「会長。どうせ、このシチュエーションなら『ボレロ』かけるのつもりでしょ、あの曲、最初は音が小さいんですよ」


 浩平が言う。

 アジスはスピーカーに顔をくっつけ耳を澄ます。

 たしかに小さく『チャッ、チャチャチャチャッチャ、チャチャチャ、チャッ、チャチャチャチャッチャ………』とおなじみの音が聞こえる。


「いよーし気分出てきたぞー」


 残りのプリンを一気に平らげ、カップを床に『ぽてっ』と叩きつけ「プロージット! そしてあっちの方角にふぁいえる!」古典的名作お下劣ギャグ漫画の『死刑!』のポーズで叫ぶアジス。


 その時。


「提督ー。エリドゥ将軍の船から連絡でーす。『一四五マル故障セリ。機関ヲ停止シ点検ヲ行ウ』だそうです」


「へ?」


『死刑』のポーズのまま固まるアジス。







 一方、所変わって『一四五まる』艦内。


「姐さん! 寒くないですかい? わしら見てのとおり毛むくじゃらなんで冷房効きすぎてるかも知れませんぜー」

「姐さん! 椅子に座りすぎでケツが痛くないですかい? この毛皮敷いてくださいー」

「姐さんたいくつじゃぁないですかい? 将棋でも指しますかい?」

「姐さん! 姐さん! 姐さん! 姐さん! ……」


 大きい『えりりん』。

 中くらいの『えりりん』。

 小さい『えりりん』。

 えりりん、えりりん、えりりん……。


「………遺憾だわ」


 天音は困惑していた。

 今までもエリドゥが出る夢は何度も見たが、今回の夢はえりりん濃度が当社比1,200%だと…?

 しかもやけにリアルな夢だ。

 浩平の婚約会見の夢。

 えりりん軍団と宇宙航海の訓練をする夢。

 そして『なんとか流星』を破壊するために出撃する夢。

 夢の中ではもう何年も経っているような気がする。


───まあ、昔の中国には、ご飯が炊ける間に一生分の長さの夢を見た人もいるらしいし、夢の中の時間を数えたててもせん無きことなのかもね。


 カツ、カツ、カツ、ガチャリ、ガチャリ、ガチャリ。


 戦鎧を着込み、その上からドギツイ、オレンジ色の中華風の装束を着込んだエリドゥ将軍がメインブリッジに入ってきた。

 鉄鋲を打った一本足の高下駄を履いている。

 まるで天狗の頭領のような出で立ちだ。

 ブリッジ内に緊張が走る。

 出航まもなく動力炉に異常が発生したことを表す警告表示が点灯した。

 警告表示はすぐに消えたが、エリドゥ将軍は念の為に機関をいったん止めて再点検をするように指示した。

 乗組員は指示に従い本格的な再起動に向けて各部門のチェックを行っていたが、機関部を見回りに行っていたエリドゥがブリッジに戻ってくると一斉に作業を中断しエリドゥに敬礼をする。

 エリドゥは片手を挙げ、それを横にプイっと振る。

『挨拶はいいから作業に戻れ』の合図だ。

 乗組員はそれぞれの作業を再開する。

 エリドゥのもう一方の手は鞘に入ったままの幅広の段平を持っている。

 雛壇状になっているメインブリッジの最上段、蛮族の玉座のように毛皮や狩の道具が並ぶ司令官席にドッカと座り、太刀を杖のようにして柄の上に両手を載せる。


「遺憾だわ……」


 そのあまりにも威厳のある将軍のたたずまいを横目で見ながら、天音はまた呟く。


 エリドゥの来歴を聞いて天音は困惑した。


……こんな、かわいい、えりりんちゃんに、あんなバイオレンスな過去があったとは……。


 チンパンジーくらいの知恵しか持っていないと思っていたえりりんに、宇宙航行法の講義を受ける立場になるとは!


 大体、翻訳機から再生されるえりりんの渋い声は、何度聞き返しても『CV:銀河○丈』だと?!


 普段はニャンコ声なので天音の脳内では勝手に『CV:小○エツ子』をキャスティングしていたのに!


「お頭!ヤシン家の坊ちゃんから通信ですぜ」


 エリドゥと同じビロク星人の士官がエリドゥに向かって怒鳴る。

 エリドゥは人差し指をたてチョイチョイと振る。

『こっちに回せ』の合図だ。


 エリドゥの玉座の隅から、ディスプレイをつるしたアームが、エリドゥの目の前に、音も無く伸びてくる。


『エリドゥ!大丈夫かい』


 画面には心配げな表情のアジスが映し出されている。


「問題無し、と、言いたいところだが、すまぬ、再点検に手間取ってな、そちらとは現場で合流と云うことになろう」


 銀河公語に翻訳されたエリドゥのドスの効いた渋い音声が、首に掛けている翻訳機を通して流れる。


『いいよ、まずは地球艦隊でやってみる。エリドゥは最初から後詰の予定だからね』


 言葉とは裏腹に、少し心配そうにアジスは言う。


「そう心配するな。ジェ・ヴォーダンの口利きで、時間管理局が手を貸してくれている。生徒の訓練と何十回もの実戦シミュレーションをする時間があった。火星鎮台の艦隊も来るそうではないか。前回と同じ規模であるならば……地球艦隊だけで十分対応できるはずだ。」


『うん…』


「ワシがついている。だが、気が進まぬのならば空間騎士団だけでやってもいいのだぞ。特に下照姫には少々酷かも知れん、あれはやさしい娘だからのう」


『いや、』


「『地球のことは地球人で』か。わぬしの口癖だものな。よい。ならばしっかり守るのだぞ。しかし危なくなったら、勝手に助太刀させてもらうからの」


『エリドゥ、…ありがとう。今までずっと僕たちを守ってくれて……。やっと僕も戦列に加わる事が出来たよ』


「どうした?改まって。よいのだアンシャールよ。『姫』を守ってこその騎士だからのう」


 カラカラとエリドゥは笑う。


『先に行くね、エリドゥ』


「応。道中気を付けてな。下照姫も浩平も一応来ているのだろう、よろしく伝えておいてくれ」


『わかったよ。エリドゥも気をつけてね』


 通信は終わる。


 エリドゥは天音の方を見る。


「天音よ、思い直しはしないか? その体は仮の作り物じゃから、わぬしの身に危険が及ぶことはない。とはいえこの船はこれから戦に行くのだ。見ておって、あまり気持ちのいいものではないし、一緒に行く以上は手伝いをしてもらうことになるかもしれぬぞ。」


 渋く優しい声で天音に語りかけるエリドゥ。


「一緒にいくわよ! おまいさん。後ろで見ているからしっかりお気張り」


 エリドゥの来歴を聞いたり、エリドゥの声を聞いたり、エリドゥの子分に纏わり付かれたりしているうちに、天音はなんだか自分が『極道の女』になったかのような気分になってきた。

『おまいさん』は『えりりん』に続くあたらしい天音のエリドゥの呼び名。


「かははははは! そうか、そうか! まあ、夢から覚めたくなったらいつでも言ってくれ!」


 何故か太刀を持ち上げてエリドゥは言う。


───きっとあの巨大な剣で頭をカチ割られると夢から覚めるシステムなんだわ。


 ぞっとしながら天音は思う。


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