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地球鎮守府  作者: 山内海
地球鎮守府
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第九話 観艦式

第九話 観艦式


観艦式


 星陵高校吹奏楽部が奏でる、地球鎮守府行進曲『天網恢恢てんもうかいかい』が演奏される中、銀河惑星連合宇宙ステーション『エレヒ』の宇宙船ドックより地球艦隊が次々と出航する。

 ドックに詰め掛けた関係者一同はドックを離れてゆく船に笑顔で手を振る。


「地球人とレムル人の科学技術の結晶であるこの地球艦隊はけっして戦争、ましてや侵略が目的で組織されたものではありません。数百年周期で地球に飛来し、地球文明を何度も何度も破壊し続けてきた、銀河系に巣食う悪魔『レムル小惑星群』への警戒が主な目的です」


 宇宙ステーション『エレヒ』は、スイカを半分に切ったような形をしている。

 その切断面のほぼ中心に軍用艦用のドックがある。

 スイカの種が飛び出すように。光の尾を引きながら、宇宙船が出航する。


「先頭をきって出航いたしましたのは、新造戦艦『ハッスル☆どんすこい』です」


 ここで唐突にピアノのBGMが入り、宇宙船ドックに据え付けられた大型スクリーンに東京の町並みが映し出される。


『昭和三十三年。高度経済成長沸く日本の首都東京に、当時世界一高い電波塔が建造されました。大都市の隅々に電波を送り、黎明期の放送文化を支えたその塔は、東京のシンボルとしてすべての日本人に愛されました……』


 ピアノのメロディにのせ抑揚のまったく無い女性ナレーションの朗読が続く。


『しかし時は過ぎ、新しい電波塔が建設され、老朽化著しいその塔は次第に忘れ去られる運命にありました』


 悲しげなピアノのBGMが、一転アップテンポの音楽に変わる。

『そこでリフォームの匠の登場です』


 画面にはおそらく東京の下町の路地を遠くからこっちに歩いてくるアジスの姿が画面に大写しになる。


 その後も何分間も改造風景をドキュメンタリータッチで撮影した映像が続くのだが、長くなるので省略します。


『なんということでしょう!』


 突然大声を張り上げるナレーター。


『日本の首都に半世紀以上立っておりました電波塔を買い取りまして、衛星軌道上で宇宙船に改造することにしました。』


 映像の中のアジスがカメラ目線で説明している。


『えー、旧タワーを衛星軌道上まで引き上げて、骨組みの中身にエレヒ宇宙工廠製の小型宇宙船を突っ込んでみました。親しみやすさと機能性を両立させた一品です。』


 さわやかなBGMとともに完成した『ハッスル☆どんすこい』の船体が映し出され、大きな拍手が起こり、映像は終わった。

 『どんすこい』には実際にアジスが乗り込んでいる。


  地球とレムルの科学の融合と言えば聞こえはいいが、実際には『融合』や『結晶』とは程遠い力技で無理矢理合成されている。

 必死に地球っぽさをアピールしているが、正直タワー部分はあっても無くてもあんまり変わらない。


「続いて三隻出航するのは『レッツゴー☆さぶ一号、二号、三号』です」


 またまたBGMと映像が始まる。


『今は瓦解した共産圏の某大国が所有していた、大型攻撃原子力潜水艦。退役後に解体する費用が無く、極東の港で座礁したまま放置されていました』


『放射能の漏れる船』という文字がテロップとして画面に映る。


『なんとうゆうことでしょう!』


 またまたアジスのインタビューシーンが挿入される。


『レムル星人が潜水艦を買い取り、よく洗った後。改造しました』


 三隻並んでカメラに写っている『レッツゴー☆さぶ級』。

 外観は以前のままなので、潜水艦が宇宙を飛んでいるようにしか見えない。

 実際、まったく、その言葉通りなのだが。


「最後は地球防衛艦隊所属、空間騎士団突撃巡宙艇『一四五ひよこまる』です」


 同じ位の大きさの大型タンカーを二隻、甲板面が重なるように片方をひっくり返して重ね、無理矢理接着し作った一品。船体は分子結合コーティングにより、至近距離での超新星爆発にも耐えうる硬度を誇る。一見黒い座薬のように見えるが、中身は銀河連合規格の最新鋭艦だ。


「『一四五まる』の艇長は地球鎮守府屈指の勇者エリドゥ・アギラ将軍です」


どよめきとともに拍手が起こる。


 彼の恐るべき来歴と、太陽系での鬼神のような奮戦ぶりは銀河惑星連合でも語り草になっている。


 過去数万年、太陽系を流星群の脅威から守り続けたこの老将軍の戦いは苦闘の連続だった。

 乗船を変えること実に百四十四回、時には力及ばす、隕石の大気圏突入を許してしまうこともあったが、必ずしも新式とはいえない宇宙船で、身を削るような戦いを繰り返してきたのだ。

 彼の防衛網が破られるとき、太陽系の全人類は滅亡の危機に瀕する。

 止むに止まれず、少数の人間を船に乗せ、崩壊する大地を後に避難した事もあった。


 乗組員は地球入植時の生き残りの古参兵ばかりである。


 今まで出航した船が5隻。


 これが現在就役している地球鎮守府所属地球防衛艦隊の全艦艇である。






 エレヒ港湾区、軍用ドックの一角にある艦隊司令室。

 床屋の椅子のようなものに深く腰掛け、これまた床屋で髪を乾燥させる時に使う、頭からすっぽり被るドライヤーみたいな機械を、頭からはずすナムジン。


「出航完了、自動航行開始します」


 艦隊司令室は会社のオフィス風の作りで、20人位のレムル人が、机の端末に向かって作業をしたり、頭にヘッドギア型の端末を着けて、何故か机に突っ伏している者もいる。


 地球防衛艦隊は見事な密集陣形でエレヒの周りを4周し、宇宙船ドックの前で整列する。

 ドックのスクリーンには『ハッスル☆どんすこい』のブリッジの映像が映し出される。


 それは、不気味な光景だった。

 指揮官席に座る学生服姿のアジスは瞑目している。

 ひな飾で例えると最上段に指揮官席はある。


 アジスの左右にある一段低い席には、二体の、マネキンのような、交通事故の実験などに使われるダミーのような、人の模型がすわっている。顔は肉がなく人形と云うよりは、骨格標本に近い。


 カメラが引いて『ハッスル☆どんすこい』のブリッジ全体が映し出される。

 ブリッジは暗い。照明が落とされ、非常灯が点いているようだ。

 アジスの周り、映画館の観客席のような座席には、アジスの左右に座っていたような人形が座っている。百席はあろうかと云うこの指揮室には、アジスしかいない。後は全てのマネキンである。

 

 アジスは目を開く。暗く広い、指揮室の中、アジスの瞳は暗がりの猫の目のように輝く。


「義体憑依開始!!」


 ナムジンが発令すると、管制室の巨大スクリーンに、子ウインドウが次々と開く。その数は百を越える。


『ナカハマ地区、大石圭吾、リンク』

『ナカハマ地区、大滝英二、リンク』

『ヒメヌマ地区、小山田勇人、覚醒中、リンク失敗……』

『ヒメヌマ地区、伏木十徳、リンク』

『…………』

『…………』


 子ウインドウに映し出されるのは、様々な寝姿。

 傍らにサングラスで黒スーツ姿のレムル人が映っているものもある。

 眠る我が子を、心配げに見守る親が映り込んでいたり。

 寝ている若者に、黒スーツがそっとカチューシャのような接続端末を付けている映像もある。


メインのスクリーンには、依然アジスがいる『ハッスル☆どんすこい』のブリッジが映し出されている。

 アジスの左右に座る人形は突然ビクビクと痙攣をはじめて、湯気のようなものをモクモクと上げる。首の根本辺りからミミズのように繊維が、植物の成長を早送りで見ているかのように、あっという間に顔中を覆い、顔の筋肉を形作る。髪が伸び、皮膚のような膜が顔に貼り付いた。人形は片方がシタテルそっくりに、もう片方は浩平そっくりになった。

 


 皆、色の違いはあれど、一揃えの制服を着ているので、体がどうなっているかは、モニターから窺うことはできない。

 しかし、袖から覗く手は、サイボーグのような機械で出来ている。

 体格も伸びたり縮んだり膨らんだりして、恐らく憑依している本人に似たものになっているようだ。

 

 アジスの左右のシタテルと浩平が目を開く。

 他の人形も次々と変化し、義体憑依を完了させる。

 ブリッジに明かりが点り、総勢百名の艦隊乗組員が起動する。

 

「謹聴、謹聴。これより、地球鎮守府所属地球防衛艦隊、出陣の挨拶があります」


 銀河惑星連合在地球大使『ヤシン・ラフム・ナムジン』は大音声で呼ばわった。


「エレヒの前に集いし地球人よ、なぜに汝らは来た?!」

「我ら、誓言を果たし、この星を安んじんがために」


 艦隊の乗組員全員が唱和する。


「遂に時は来たれり! 迫り来る『試練』を乗り越えんがため、レムル残党、地球人統合艦隊は速やかに出立すべし。かの禍を打ち払い、銀河の住人として新たなる進化の旅を続けるのだ!」


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 出航の銅鑼が鳴り響く。


 感度的な出陣シーンを演出しているが、実際には『一四五まる』以外の宇宙船は無人だった。

 遠隔制御されている、本人と瓜二つのアンドロイドが乗船しているのだ。


  ただ一人のアジスを除いては。


 エレヒの人々に別れを告げ、艦隊は銀河の淵を目指し、出陣した。


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