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地球鎮守府  作者: 山内海
天孫降臨 (序)
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第七十話  「あいぜんがるど』抜錨






 内裏のある最下層(地球の方角を上とすると)の更に下、エレヒを茶碗に例えると、高台こうだいにあたる部分に、エレヒの宇宙軍港、『地球鎮守府』がある。


 月のうてなの仮宮で、一息ついた浩平は、エリドゥ、天音と三人で宇宙港へと向かう。



「ううう、お兄ぢゃん! わだぐじ、はずせない用事がありまずので、一緒に行けないの。でも、……やっぱり、行がないでぇぇぇぇ!!」


 遅れてやって来たミスマルは、浩平の腕を引っ張り泣いている。


「お兄様……」


 シタテルが、ミスマルを慰めようと言葉を選んでいると、


「シタテルも残るのよ!」


 今度はシタテルの手を引っ張り始める。


「え? いやです……」


 シタテルは抵抗する。

 

「なに言ってんのよ! メインプログラマーのシタテルが居なくてどうすんの! すぐに次回作の製作に入るんだから、ここで改善点を洗い出しておかないと!」


 ミスマルとシタテルは引っ張り合いを始める。


「会長。なんの話なの?」


 事情のわからない天音がミスマルに訊く。


「ミスマル様とシタテル様は『オチム社』というゲーム会社をエレヒで経営していらっしゃいます。そのオチム社の人気ゲーム『ドリンクモンスターズ』のイベントが今週末にあるのです」


 みくがヤシン家姉妹の代わりに答える。


「会場の設営準備やらセレモニーのリハーサルやら、来賓客への根回しやら……ぐすん」


 ミスマルはシタテルにしがみつき、泣きながら何やらぶつぶつ唱えている。


「へー。ゲーム会社ねえ」


 浩平が感心して言った。


「今度、俺もやってみたいな、会長のゲーム」


「ホント?」


 涙目のミスマルがスンスンいいながら浩平に訊ねる。


「ほっとけ。それより宇宙じゃ! さあ、行くぞ浩平!」


 なぜかノリノリのエリドゥに追い立てられるようにして、浩平と天音は、仮宮を後にした。


「現行バージョンの『ドリモン』は、記憶樹用のゲームだけど。次回作の『ドリモンGO』は、地球人対応なの! 期待しててねー」


 涙ながらに別れを惜しむミスマルとシタテルを残し、浩平達は仮宮をでる。


 緩い階段を降りた先には、ジンカン、バンジィ、ガウマァの三人が待っていた。


「大将。出航準備は抜かりなしですぜ」


 バス運転手姿のジンカンが敬礼をする。


「子供らをつれて行くぞ」


 学ラン姿のエリドゥを先頭に、連れだってエレベータを目指す。


「みんな、まだ地球人の姿なんですね」


 見つけた途端、へばり付いてきたバンジィに腕を引かれながら、浩平は質問をする。


「あたいの本体は『一四五ひよこまる』の中で、ハブ酒のハブみたいに、漬け込まれてるよ。何せ内裏の辺りは、あたいらの本当の体の大きさじゃ窮屈だし、いざという時はリンクを切ってすぐ船を出す段取りになってんだ。あたいなんか地上勤務が多いから、最近は義体に入っている方が多いね」


「えりりんの体は?」


 天音はエリドゥに訊ねる。


「ワシは義体を使っておらん。これはワシの自前の体じゃ」


 首輪の鎖を体に巻き付けたエリドゥが答える。


「え?」


「ワシは、太陽系に義体が生まれるより前に編み出された技術で、体を作り変える事が出来るように改造されておる。その星その星で、神や裁定者を演じるためにな。まあ、変態じゃ。ここ数万年、あまり使っていないので、すっかり錆び付いとるがのう」


「変態……。人間離れしているわね……」


「ワシは人間ではない。当たり前じゃ」


 そんな話をしながら、一行は宇宙船が係留される桟橋へと向かった。



「これが、地球鎮守府新旗艦『あいぜんがるど』じゃ」


 八本の巨大なアームによって、桟橋に繋ぎ止められているのは、横倒しにされた黒い塔だった。

 竜骨は六角形のまっすぐな柱で、柱を覆う船体は前ほど細く、後ろほど太い。

 艦首には互い違いのカッターの刃のような衝角ラムがある。

 きれいな曲線を描き胴は太くなり、艦のほぼ中央で曲線は終わる。

 そこから艦尾までは、野放図に伸びた植物の根のようだった。


 『あいぜんがるど』とは、地面から引き抜かれた根の張った塔であり、塔の形に削り出された大樹であった。


「この船はアジスのものになるはずだったのだ……」


「会長の船?  あの東京タワーは?」


「先の宇宙戦で撃沈した、地球鎮守府前旗艦『ハッスル☆どんすこい』は、銀河惑星連合評議会に、地球が連合加入資格のある星間文明であることをアピールするために作られた擬装艦さ。東京タワーは復元してもとの場所に戻したけどね」


 『あいぜんがるど』のハッチが開き、タラップを伝ってエレヒ司令官ナムジンが降りてくる。


「ようこそ地球鎮守府へ。と、いってもさっき別れたばかりか。この船はつい先程艤装が完了し、これから試験航行が行われる。君たちの乗艦を許可しよう。ダンテの門まで、『激おこ☆プンプン丸』を迎えにいっておくれ。今夜の晩餐はこの船で取りたまえ」


 ナムジン笑顔で浩平の手をとり、見えないバトンを渡すような仕草をした。


「ナムジン。ラガシュはどうした?」


「もう、艦橋でスタンバってるよ」


「サイオゥは?」


「ダメだ。多分港町の女の所だろう。最近はエレヒに来る度に通ってるよ」


「……そうか。まあ、いいか。ジンカン、バンジィ、ガウマァ! 乗船せよ!」


「へい」

「あいよ」

「らじゃ」

 

 三人は、ナムジンの降りてきたタラップを登り船内に入っていった。


「さて、では、ワシらも乗り込むか。のう浩平」


 エリドゥを先頭に浩平と天音は船に乗り込む。


「ねえ、エリドゥ。この船も何か、『本土』の建造物を盗んで作ったの?」


「いいや。もう地球産の擬装はしなくてよくなったから、全てエレヒで作られた。……だがな、デザインについては本土に元がある。何せナムジンに任せると、全て玉とか、筒とか、羊羮とか、樹木がそのまんまとかだからな。今後作る船は、地球へ譲渡する可能性がある。親しみやすい形をしていた方が良いじゃろう。と、言うわけで、日本のある場所に建つ塔に似せて前半分を作り、後半分は、駄々をこねて、案をねじ込んできたナムジンのデザインじゃ」


『あいぜんがると』

 前半分の塔の部分の長さはきっちり百メートルある。


 ナムジンが出てきたハッチは、塔部分と樹の根部分の繋ぎ目に位置する。

 そのハッチから船内に入った浩平達は、艦首の艦橋を目指す。 

 

「いよ! 来たかい。浩平坊っちゃん! 天音の姐さん!」


 用箋挟バインダーを手に、計器類のチェックをいていた、銀髪ウルフヘアの男が、作業の手を止めてブリッジへ浩平達を迎え入れる。


「誰?」


 天音は


「ええ!? 天音の姐さん、つい先日も会ってるでしょうに……」


「え? そうなの?」


「ラガシュよ。天音の記憶は、消されておる。お前のことは覚えておるまい」


「くそ! ジェ・ヴォーダン!『一四五ひよこまる』じゃあ、一番あっしが姐さんのお側にいたのに。……思い出泥棒が!」


 銀髪のチンピラ男、ラガシュ・アギラは歯噛みをして悔しがる。


「今日はみんな地球人の姿なんだね」


「そうじゃの浩平。この艦橋は地球人エダインレムル人(エルダール)規格で設計されている。『あいぜんがるど』は星陵学園生徒の卒業生が乗る予定じゃからな」


「ふーん」


 エリドゥと話をしながら、浩平は手元で、小さなコントロールパネルとスクリーンをそっと開き、艦内のチェックリスト、エネルギージェネレータのモニターリスト、兵装関係の作動チェックプログラムなど、十以上のリストのチェックを行いながら、メインコンピュータに各部門の作動確認を命令している。

 手元のコントロールパネルで、エレヒのコンピュータのデータへアクセスを行い、地球鎮守府高級士官用のタンクサーバから、フリゲート艦用と巡洋艦クルーザー用のチェック項目リストをダウンロードし、それらを編集して独自のリストを作りつつ、右目から、複数の色が変わる光線を発射して、光回線のような方法で大量のデータを一瞬で入力する。

 複数のプログラムを組みつつ、時間の短縮のため流用できそうなプログラムはサーバから集めている。


「こ、浩平さん! なにやってるんですかい! 勝手に端末開いちゃいけませんぜぇ!」


「浩平! あんた…何でこんな事。ええ?! うそ……」


「すげ……。これ大型艦の艦隊制御コンピュータ並のチェックシステムなんじゃ……」


 先に席について、船を動かすための用意をし始めていたラガシュ、ジンカン、バンジィ、ガウマァ。

 彼らが小一時間掛けて行うはずの航行システムの立ち上げと、艦内各部門の起動最終確認を、浩平は、会話の片手間で、一分もかからずに終わらせてしまった。


 エリドゥは、なにも言わず浩平の手元を見ていたが、浩平が作業を終わらせると、咳払いをして言った。


「ウェッヘン! ラガシュ。最終重点項目だけ二重チェックをしろ」


「…………は! ハイぃ!」


 メインモニターの膨大なプログラムが、確認完了のメッセージと共に自動終了していくのを、バインダーを取り落としたのも気付かずに、呆然と眺めていたラガシュは、エリドゥの声で正気になり、慌ててバインダーを拾い、挟んであるリストの書かれた紙を捲り、最後の一枚を手前に持ってきて目を凝らしている。


「…… 遺漏無し! ……でも、やりすぎですぜ。兵装や艦隊司令用のシステム、非常事態対応のプログラムまで起動してます」


「処女航海だもの。遣ってやりすぎってことは無いかな」


 右目を光らせながら浩平は言った。


「まあ、良いじゃろう。みんな席につけ。抜錨するぞ! 浩平! 舵輪を握れ!」


「アイアイ!! 舵輪召喚! ……おっと! 桟橋に父上が残って突っ立っている! バンジィ! 照準レーザーを照射し、脅かしてやれ!!」


「アイ! ……え? 父上…?」


 千に近い数の、艦内や艦外のカメラの映像が、細かく並ぶスクリーンから、桟橋の柵に寄りかかり、どこかと携帯電話で通話しているナムジンの映像をクローズアップする。

 こんなに早くチェックが終わるとは、露程も思っていないナムジンは完全に油断している。

 浩平の命令があまりにも自然だったので、バンジィは一瞬聞き流し、返事をしてから、浩平の言葉の違和感に気付く。


 抜錨で気付くはずだが、万が一このまま出航でもしようものなら、大変なことになっていたかも知れない。


「いやはやおっ魂消た! 最近の星陵高校生は、随分航海訓練を仕込まれるのですかねぇ」


 ジンカンが感心しながら言うと、


「浩平は二年生じゃ、宇宙の宇の字も習っとりャせんわい」


 そう言ったエリドゥは、天音と一緒に、隅の客席のような所に座ってしまった。

 

「浩平はズルをしておる。やれて当然じゃ。浩平! 宇宙にいるうちにつかんでおけよ! 己の力とその使い道を! ラガシュ! 何かあったら起こしてくれ!」


 エリドゥはそう言うと、椅子を後ろに倒し、寝てしまった。 






 





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