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地球鎮守府  作者: 山内海
天孫降臨 (序)
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第六十八話 ナムジンとの会談

 





「さて……」 


 ナムジンは、左右に目配せし、ヤガミとカムヤタテに座るよう促した。

 

「検査の結果は見させてもらった。浩平君。正直、今の状態では、今までのように島で生活を送るのは難しいね。ましてや学校に通い続けるのは……。エレヒに戻るか、能力と記憶を封印するしかない」


「エレヒに……、戻る?」 

 

 浩平はナムジンの言葉を繰り返す。

   

「そう。だけど、君や天音君が生まれ、幼い頃住んでいた『さいわい町』は、だいぶん様変わりしたよ。以前住んでいた地球人は、ほとんど『島』に降ったから。その代わり今は、学園を卒業してエレヒで就職する若者達が住む町になっているよ」


 ナムジンが話していると、ヤガミがナムジンの脇腹をツンツン突っついた。

 

「ナムジン様! 言っていいんですか?」


 ナムジンはヤガミの脇腹をツンツン突っつき返した。

 

「い、い、ん、だ、よ。浩平君達の記憶は封印され、改竄されているが、次元と時間を縦に観測できると云う、今の浩平君の目を誤魔化すことはできないだろう。君はすでに知ったはずだ。その目で見たのか、それとも……」


「頭の中の声が、以前そんなことを……」


「そうか。…………浩平君。君の一族は、君のおじいさんの代からエレヒに住んでいる。私が招いたのだ。君は、肉体的にはほとんど地球人だが、今まで本当の『内地』には行ったことがない。エレヒと島しか知らないのだ。君と会って言葉を交わした本当の地球人は、君の事をどう思うだろうか? もしかしたら『外星人』と思うかもしれない」


「……」


 シタテルは、浩平の顔を覗き込み、その心の中を読み取ろうとしている。浩平は、シタテルの方を見て微笑むと、ナムジンに向き直った。

 

「高校は卒業したいですね、ナムジン理事長。そもそも、力とか俺は望んでいないし、人が隠したいと思っていることまで、知りたいとも思わない。会長や副会長、エリドゥやヴリエ先輩の記憶が無くなるのでないのなら、それから、俺の頭の中の人が消えないでいられるなら、封印だろうが、洗脳だろうが、好きなようにしてください」


 浩平の答えに、ナムジンは安堵のため息をつく。

 

「良かった。学園理事として、生徒を退学に追い込むような真似は、したくはなかったからね。うむ。では明日、先程検査をした病院で処置を行う。今週はエレヒで過ごし給え。我が一族にも浩平君を紹介したいしな。数日間だがヤシン家の宮殿を使いなさい。カムヤタテ。浩平君を案内したまえ。シタテル、ミスマルも一緒がいいか?」


 ナムジンの問いに二人は頷く。 

 

「では。二三日学校を休む事になるが、君の今までの出席日数なら問題ないだろう。多少ハメを外すのは大目に見よう。シタテル。浩平君にエレヒを案内してやってくれ。それから晩餐は共に取りたい。毎日十九時には迎賓館の宴席に来るように。以上だ」

 

 浩平は礼をしてナムジンの事務所を退出しようとした。

 

「あっ、一つ言い忘れていた」


 ナムジンはそう言って、浩平を呼び止めた。

 

「何ですか? 理事長」


「明日の夕刻、火星鎮守府より地球へ譲渡される船がエレヒに入港する。『アキダリア・フューリー』という名の船だ」

  

 その船の名に浩平は聞き覚えがあった。 

  

「……その船って、この前俺が乗った船ですか?」


「そう。エリドゥと君達が義体で乗り込んだ『激おこ☆プンプン丸』だ」  


 火星鎮守府を勝手に抜け出し、地球の近くまでやっできた激おこ☆プンプン丸は、一旦、帰還の為に火星に進路をとったが、火星鎮守府『二ルガルの宮』の祭司、『ズェッペンギン』の命令で、地球への譲渡が決まり、再び地球へ舵を切った。


「お父さま…、その船には……」


 ミスマルの表情が曇る。

 

「先の宇宙海戦で戦死した、ヤシン・アンシャール・アジスの亡骸が届くのだ。一族で弔ってやりたい。葬儀に出席してもいただけるだろうか?」


「…………はい」


 浩平は答える。


「そうか。ありがとう」


 ナムジンは深々と頭を下げた。


「カムヤタテさん。浩平お兄ちゃんは、私が案内するから、みくちゃんと天音お姉様を迎えに行って」


 ミスマルはカムヤタテにそう言った。

 

「わかりました。では、『月の│ウテナ』に仮宮かりみやしつらえさせますので、そちらに行幸ぎょうこう下さい」

 

 カムヤタテはそう言うと、机の上にある電話機に手を伸ばし、どこかへ指令の電話をかけ始めた。

 

「行幸なんて大袈裟な。お泊り会で良いわよ……」


 電話が終わったカムヤタテは、「それでは、用意がありますので失礼します」と言って、ナムジンとヤガミの残る司令室から出ていった。


「じゃあ、私達も行こっか。お兄ちゃん」


 ミスマルに手を引かれ浩平は指令室を後にした。


 突然、菊池俊輔作曲のアップテンポな前奏が流れる。

 ミスマルの携帯の着信音である。

 

「あらら、だあれ? ん? シエロ?」

 

 ミスマルは電波で話を始めた。

   

「副会長。なんか、最近、元気ないですね」


 浩平はシタテルに話しかける。

 

「…………」


 シタテルは目を伏せている。

 

 

『やだなぁ、浩平君。すっとぼけて。しかし、真剣な話、君がシタテルを繋ぎ止めてくれないと、シタテルあっちの世界に引き籠るよ……』



 浩平の頭にお馴染みの声が響く。 

  

  

『ほらほら、まずはその呼び方! シタテルから副会長に戻ってるよ』



「ですが、ご両親の前で名前で呼ぶのは……」



『だからこそなんだよ! どんだけ草食系なのさ、それとも断食系? はたまた、腐男子系?』



 記憶樹内部を彷徨いて収集したのか、タケミナカタの情報が最新のものになっている。

       

「く! 腐ってないし!」


 自分の頭の中と口論を始めた浩平を、おののきながらシタテルは見ていた。    

 

「シ、シタテル!」


 浩平は思い切って名前で呼んでみた。

 

「はい!」


 エサを目の前に出された子犬のように、シタテルの目が輝く。

 

「そのー、会長もなんだか忙しいみたいだし、シタテルに案内してもらいたい、なあ、なんて……」


 浩平の発する一語一語に、フンフンと頷くシタテルを見ているうちに浩平はなんだか、申し訳なくなって、語尾がかすれて消えていった。    

 

 浩平はシタテルの手を引く。

 

「行こう」


「はい!」


 ミスマルは会場の位置だの、株価がどうしたの、缶の販売数がどうしたとか、何やらビジネス的な立て込んだ話をしている。

 

「あ!わわわわ!」


 ミスマルを残して先に行ってしまった浩平を見ながら、アワアワ言っているが、電話相手の要件はまだ終わらないようだ。   

 




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